アジアン・ロック/メタルの伝道師:小笠原和生が選ぶ、いま聴くべき大推薦盤5枚!

アジアン・ロック/メタルの伝道師:小笠原和生が選ぶ、いま聴くべき大推薦盤5枚!

ヤング・ギター2021年11月号掲載のインタビューで、未知なるアジアのロック/メタルの魅力についてたっぷり語ってくれた小笠原和生氏。同ページには、『デスメタルインドネシア』の著者で、通販サイト:Asian Rock Rising店主でもある氏がオススメする“いま聴くべきアジアのロック&メタル・アルバム”が5枚紹介されているが、ここにそれぞれの詳しい解説を大公開! Watch false common sense die!! You’ll know the power of rock in Asia! 

『SERPENTS OF PAKHANGBA』(2020)/SERPENTS OF PAKHANGBA(インド)

SERPENT OF PAKHANGBA

プログレッシヴでアヴァンギャルドな多国籍バンド:AMOGH SYMPHONYでも知られる天才マルチ・プレイヤー:ヴィシャール・J・シン。ムンバイを拠点とする彼が2019年に始動した、アヴァンギャルドなオカルト・アート集団のデビュー作がこれだ! ヴィシャールのルーツであるメイテイ族、その古代の神話に登場する竜神パカンバがバンド名に用いられているが、その神は自由に姿を変化させることが出来たのだとか。

基本的には、ダークなフォーク・ロックのシンプルな曲構成に設定しているが、そこに各メンバーのアヴァンギャルドな即興要素が盛り込まれている。その変幻自在の姿はまさに伝説のパカンバ。最大の特徴は、ライト・ランゲージや詠唱パートにサウンド・セラピーの要素を取り入れていること。ライト・ランゲージとは、そのまま“光の言語”、もしくは、宇宙語や多次元語などとも呼ばれ、高次元のエネルギーを声や身振り・手振り、文字などを通して伝えるもの。それは言語も生物としての種も超えて響き合う、ポジティヴな愛と調和の波動。

さらにヴィシャールは、演劇に使用される“メソッド演技法”のアプローチを持ち込み、まだ実験段階ながら、パフォーマンスにおける演劇的な要素も構築しようとしている──などと書いても、さっぱりワケが分からないだろう。彼等の音楽は文章化しても意味がないし、アルバムを聴くだけでも充分ではない。楽曲は演奏する度に変化し続けるのだから。ライヴを幾度となく直接体験することで、ようやく彼らの真の姿、伝説のパカンバがおぼろげに見えてくるかもしれない。まずは、光のエネルギーを感じて欲しい。

『MESO』(2021)/PROJECT MISHRAM(インド)

PROJECT MISHRAM - MESO

ベンガルール(旧称:バンガロール)を拠点とする、自称“プログレッシヴ・カーナティック・フュージョン・バンド”の1stアルバム。もう少し詳しく説明するならば、それは南インドの古典音楽であるカーナティック音楽(カルナータカ音楽)におけるラーガやシンコペーション、数学的なグルーヴといった複雑な要素を中心に、モダン・プログレッシヴ・メタル、ジェント、ファンク、ジャズ、エレクトロニックなどの西洋音楽と融合させたもの。プログレッシヴ・メタルは、“コルベ/コルヴァイ(Korvai)”と呼ばれるカーナティック地方(アーンドラ地方とタミル地方の一部)のリズミカルな構造と相性が良いのだとか。

このように、彼等の主軸はカーナティック音楽なのだが、さまざまな音楽ジャンルを行き来するので、一体何を聴いているのか、途中で迷子になる。でも、それで正解。彼等は「すべての境界線がおぼろげになるような深い融合を目指している」と語っているのだから。しかも、アルバム・タイトルの“Meso”とは中間という意味。それは、どの曲にも共通点がない本作の中間点を見つけ出してタイトルを付けよう…と考えあぐねた結果だとか。彼等はどこにも属さずに、どこからも遠い場所に存在しているのか、それともどこにでも存在し得るのだろうか…。

『ACROPHASE』(2020)/TAKATAK(パキスタン)

TAKATAK - ACROPHASE

パキスタン北部ラホールから出現した、モダンなプログレッシヴ・メタル・バンドの1stアルバム。ミックスを担当したのはSKYHARBORのケシャーヴ・ダールで、マスタリングはプリニ、インターヴァルズなどを手掛けたエルミン・ハミドヴィッチ…ということから同系統のお洒落な音を期待するが、そんな期待を大きく超えてくる。コーラスは美しく、かなりリズミックで、とってもメロディックなのに爆発力もある。初期の頃はイマイチ垢抜けなかったのに、バンド結成10年にして見事に花開いた。パキスタンのメタル史における快挙。

既に話題のバンドだが、スポットライトさえ当てれば、ペリフェリー、マストドン、ゴジラ、テッセラクトなどと同等に評価されるはず。尚、バンド名の“Takatak”はパキスタンの有名な肉料理に由来。鉄板の上で2本のヘラを使ってリズミカルに肉を細切れにしていくその過程で、ヘラが鉄板に当たって出る音がそのままオノマトペとして料理名となったとか。歌詞は内省的な感じだけど、とんでもなく小気味良い音楽。

『AROGANSI』(2021)/XREAL(インドネシア)

XREAL - AROGANSI

’80年代後半から活動を開始し、一躍インドネシアのヘヴィ・メタル界のトップに君臨することになったメロディック・パワー・メタル・バンド:POWER METAL。その35年の歴史には紆余曲折があった。メンバーもその殆どが入れ替わった。それでもPOWER METALのファンは、狂信的だから一生ついていくだろう。でもだからこそ、脱退したメンバーに「もう一度戻ってきてもらいたい」と強く願い続けているファンも多い。そんな夢のようなバンドがこのXREAL。’90年代のPOWER METALを王者へと押し上げた黄金期の布陣でシーンに帰ってきた。

スピード・チューンからバラード、さらにはインストゥルメンタルまで、往年のPOWER METALのフォーマットに則った作品になっているので、やはり往年のファンには親しみ易い。ただ、どの曲もメンバーの個性がよく出たスタイルと演奏にはなっているものの、どこかそつなくまとまっている感が拭い去れないのは、久しぶりの共同作業だったからか、それともPOWER METALとの差別化に困っているのか。それでもこのメンツが復活したことはインドネシア・メタル界のビッグ・ニュース。

その後、新曲にも取り掛かっているようなので、新ヴォーカリストを迎えたPOWER METALと良きライヴァルとなって高め合い、シーンが活性化することを願いたい。希望と期待は必然的に大きくなる。

『LAND OF LOST VOICES』(2020)/CRESCENT LAMENT(台湾)

CRESCENT LAMENT - LAND OF LOST VOICES

2007年に女性ヴォーカルを擁するゴシック・メタルとして誕生。華語名は恆月三途。1stアルバム『BEHIND THE LETHAL DECEIT』(2011年)はユーゴスラビア紛争に触発された作品で、調和のとれた共生の大切さと暴力の愚かさを伝えていた。しかし、2ndアルバム『ELEGY FOR THE BLOSSOMS(花殤)』(2015年)からコンセプトを一新。埋もれて消えかけていた台湾の歴史を掘り起こし、台湾語で語り、伝統楽器を取り入れて創り伝えることに。その瞬間、純然たる台湾フォーク・メタルとして二度目の生を受けた。

彼等がテーマに選んだのは、台湾が日本統治時代末期から中国国民党政権へと移行していく激動の時代。史実に創作を交えて語られるのは、世代を超えて紡がれる男女の出会いと別れだ。それは運命と呼ぶにはあまりにも過酷な物語。ソニックのジェシー(g)を共同プロデューサーに迎えたこの3rdアルバムは、前作の物語の続編で、台湾人に対する弾圧が激化する白色テロの時期に翻弄される2人を描いている。儚く可憐な女性ヴォーカル、傷口にえぐり込むようなギター、傷みと慈しみを乗せて思い出の風になびく琵琶と二胡の旋律が、見事に物語を演出する…東洋一の悲劇的バンド。この物語をドラマ化したらお茶の間は毎週涙の海に沈むでしょう。

※追記
今年6月初旬、日本から台湾へのワクチン提供のニュースが流れたその日にすぐ、感謝の気持ちを述べたメッセージが送られてきました。彼等がどれほど日本を大切な友人であると思っていてくれているかとか、互いの歴史的、政治的な部分はいっさい省きますけど、そのような純粋かつ温かないたわる気持ちを持っているからこそ、あのように心を揺さぶる物語が書けるんだな…と納得しました。でも、そんなメッセージをもらったら、逆にこちらがありがたいと思ってしまいますよね。(小笠原)

INFO

デスメタルインドネシア

デスメタルインドネシア: 世界2位のブルータルデスメタル大国
著者:小笠原和生
定価:2,530円(税込)
発売:2016年
サイズ:A5判
ページ数:351ページ
発行:パブリブ

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