2019年10月号からヤング・ギター本誌でスタートした、スコット・ヘンダーソンの奏法コラム『MOVING GUITAR LICKS』。今夏発表されたソロ・アルバム『PEOPLE MOVER』の収録曲を題材に、スコットの発想豊かなフレーズの秘密を分析していく連載記事だ。難易度の高いものも多いが、誌面に掲載されたタブ譜とYouTube映像を照らし合わせながら、じっくりと理解を深めていこう。
また、第1回となる今回は、誌面では紹介しきれなかった譜例(Ex-A)を以下に特別解説しているので、こちらも参考にしていただきたい。
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Ex-1「Primary Location」開放弦を交えてテンション感を出すファンキー・リック
Ex-A ■スモール・コード&モチーフ6種類
Ex-Aは「Transatlantic」から抜き出した6つの譜例。これらは同曲におけるモチーフ(motif)と、それを活用・発展・展開させたものであり、映像ではスコットがその方法について説明している。モチーフとは、音楽形式を作るための最小単位となる複数の音符・休符のまとまり…ひとことで言えばシンプルな短いフレーズのことだ。しかし、モチーフは何度も展開することで初めてモチーフとなり、どんなにキャッチーでも短いフレーズを1・2回プレイするだけではモチーフとは呼べない。実際この曲でも、6〜7回繰り返されている。
実演に入る前にスコットは、まずモチーフを作るためにスモール・コード…3つの音による最低限のコードを活用していることに触れている。単音フレーズやメロディーだけで考えるのではなく、スモール・コードも含めてモチーフの素を作っているのだ。また、スモール・コードは様々なベース音=ルートを加えることで異なるコードに発展し、多彩なハーモニーを生み出すとも解説している。
Ex-A-1はモチーフの原形で、イントロの後に出て来る第1回目。コード進行に従って演奏される。続いて2回目のEx-A-2では、Ex-A-1を素に、まず少し変化させている。3回目(Ex-A-3)は形を大きく変えながら、なおかつ異なるコード進行上での演奏。4回目(Ex-A-4)、5回目(Ex-A-5)…と進むに連れてモチーフはさらに発展・展開され、6回目(Ex-A-6)ともなると原形とは全く異なる形に変貌している。こうしてモチーフを曲の主題として繰り返し扱うことで、例えば長いジャズ的な曲であっても、リスナーが入り込みやすく、しっかり印象に残る楽曲となるわけだ。
ちなみに、映像でのスコットの解説とプレイはCD音源と細部が異なっている部分が数カ所ある。顕著なところでいえば、Ex-A-6冒頭はCDでは3弦7fD音を弾いているが、映像では4弦7fA音をプレイ。そういった場合、ここでは譜例を映像での弾き方に合わせている(どちらにしてもDm7コードには変わりない)。また映像の説明ではギターが鳴らしているスモール・コードによるコード名を口にしている場面があるが、譜例のコード・ネームはベース音を含めた和音全体で表記しているので、ご了承いただきたい。