今年70歳を迎えて、ますます絶好調なギタリストの高中正義。毎年行なわれている夏から年末にかけての全国ツアーは、近年は過去のアルバムに関連したプログラムで進行しており、昨年は『SAUDADE』(1982年)のリリースから40周年を祝し、同作を中心とした選曲でファンを沸かせたことはまだ記憶に新しい。
そして今年は古希を祝し、“TAKANAKA SUPER LIVE 2023 ULTRASEVEN-T”と題してスーパー・ベストなるプログラムで全国12公演を駆け抜ける。そのリハーサルも終わり、ツアー開始直前のタイミングでライヴに向けての心意気を語っていただいた。
ソロ・デビューした頃はライヴって嫌いだったんだ
YG:今年のツアー・タイトル“ULTRASEVEN-T”には如何なる狙いがあるのでしょうか?
高中正義:最初、スタッフが“古希”って書いて持ってきたんだけど、漢字でこれはないよな~って(笑)。じゃあ“セヴンティ(seventy)”ならまだマシかな? “ティ”はタカナカのTにしたらどうだろう。『T-WAVE』(1980年)ってアルバムも作ったことあるしね…なんて話してて、そしたら誰かが“セヴン”の前に“ウルトラ”をつけてこうなったという…。まあ、面白けりゃいいんだけどね(笑)。
YG:ここ数年、ツアーの本数が増えてきましたよね。
高中:また人気出てきたみたいよ(笑)。そりゃあ’80年代とかは30本くらいのツアーをやってたけど、その後は東京と大阪くらいでしか出来ない時期もあったからね。でも今、コンサートを仕切ってくれている会社や素晴らしいバンド・メンバーたちのおかげで、またたくさん廻れるようになってきた。とても嬉しいことですよ。
YG:またお客さんがひと回りして、戻ってきたのかもしれませんね。
高中:僕のファンの皆さんにも学生だった時代があったはずで(笑)、きっとカセット・テープに好きな曲を入れて、彼女を誘って湘南へドライヴに行ったりしてたでしょうしね。で、その時に無理やり僕の曲を聴かされた彼女も、いつしか僕のファンになってくれたりして(笑)。その後、みんな同じように歳をとって、今じゃ子どもと一緒に来てくれる人もいるだろうし。仕事や子育てやいろんなことがひと段落した今、僕の音楽が懐かしい青春の思い出として蘇ってきたのかもしれない。
YG:ようやくコンサート会場でも声出しOKの状況が戻ってきましたが、その点はいかがですか?
高中:だんだん、かつての状況に戻りつつあるのは嬉しいことだよ。場所で言えば、日比谷野音が一番うるさいかな? まあ、愛のあるヤジなんだけどね。よく憶えてるのは、誰かが「タケナカ~!」って叫んで、2,000人が一斉にドッと笑ったこと。何がおかしいのか、いまだに意味が分からない(笑)。タカナカって名字は珍しいし言い難いから、言い間違えたのかな?とも思う。銀行でも時々そういうことあるしね。あるいはCharの名字が竹中だからそれをもじって笑いを取ったのか? まあ、そういう人たちは音楽を聴いてるだけじゃなくて、何か言って参加したいんだろうね。楽しんでくれりゃ、それもいいよ。
YG:コンサートの選曲はどのように?
高中:昔は自分でやってたんだけど、最近はほとんどスタッフ任せ。ファンの要望なども察知した上で、客観的に考えてくれるからね。
YG:定番曲はもちろん大事ですが、めったにやらないレアな曲が登場したりすると、コアなファンからの反応も大きいのでは?
高中:そういうのはあるね。去年、「ILLUSION」(1986年『JUNGLE JANE』収録)という曲をやったら、ファンの書き込みに「不覚にも泣いてしまいました」というのがあったので、じゃあ今年もやろうかな…と(笑)。あと、久々に「伊豆甘夏納豆売り」(1978年『BRASILIAN SKIES』収録)もやろうと思っている。ああいう日本的な夏のイメージの曲も面白いと思うよ。あの曲は、レコードでは冒頭にひぐらしの鳴き声のSEを使ってるんだけど、残念ながら日比谷野音でひぐらしの鳴き声が聞けるのは9月の上旬までらしい。コンサートがあとひと月早ければ天然のSEで聞けたんだけどね。当日は多分、秋の虫の音が聞こえるはずだから、それで過ぎゆくの夏の曲を楽しんでください。
YG:コンサートって、やる立場からすると楽しいものですか? それとも辛いものですか?
高中:昔、ソロ・デビューした頃はライヴって嫌いだったんだ。だって、大抵は上手くいかないからね。考えてもみてよ。スタジオでのレコーディングというのはズルイもので、何回も弾いてそれがまぐれで1回でも当たればベスト・テイクとして採用される。そんな風に、20代だった頃の僕が背伸びしてやっと録音できた曲を、何ヵ所もツアーで廻って同じように弾くのは大変なことなんだよ。それをこなすにはすごく練習が必要。だけど、ある時期からはお客さんが楽しんでくれてるのを見るのが嬉しく思えるようになってきた。
YG:ライヴ用のアレンジを特別に考えたりするのですか?
高中:遥か昔、そういうことに凝った時期もあったけど、今はあまりそういうことには積極的じゃない。むしろ、なるべくオリジナル・ヴァージョンと同じようにやるようにしてる。有名な歌手の人とかでも、昔ヒットした自分の曲のメロディーや譜割りを崩して歌う人がいるじゃない? どうも、ああいうのに馴染めなくてね。多分、僕のファンも同じように感じるだろうから、なるべく変えないで同じようにやろうと思ってる。
YG:ツアーに向けての準備で何か特別なことは?
高中:ミュージシャンは身体が資本だから、普段からスポーツ・クラブで習った筋トレやストレッチをしたり、自転車で家の近所を走り回ったりして頑張って鍛えてるよ。あとは、ツアーの直前はお酒を控えることかな(笑)。放っておくと飲んじゃう人だから、そうすると指も口も動かなくなる(笑)。そうならないように、しばらくは控えます。3~4公演済ませば、もう飲んでも大丈夫だけどね。
YG:某楽器店で聞いた情報によりますと、例年(ダダリオ“EXL120+”/.095~.044)とは違う弦のセット(ダダリオ“NYXL09544”/.095~.044)に変更されたとか?
高中:情報が早いね(笑)。ずっとごく普通のセットを使ってたんだけど、今年も弦を買っておかなくちゃ…というタイミングで、ちょうど某ギター誌に弦の特集記事が載ってたんだよ。それを読んでたら、切れにくい(錆びにくい)という評判の弦があった。値段は倍近く高いんだけど、それならツアーで使ってみようかな…と。僕は時々、コンサートの途中で弦を切っちゃうことがあるからね。でも、使ってみてたいしたことなかったら、来年はまた元に戻すよ(笑)。
YG:そういえば、数年前に試してみるとおっしゃってたワイヤレス・システムは、その後も使っておられるのを見ると、大丈夫ということですか?
高中:あ、あれね。今も使ってるよ。僕はステージで結構歩き回るからワイヤレスは便利だし、ノイズもギリギリセーフじゃないかな。ストラップに取り付けるトランスミッター(送信機)が重たいのはイヤなんだけど、本番中に長いシールドが絡まっちゃうのはもっとイヤだからね。
YG:イヤー・モニターは使っていますか?
高中:使ってない。何回か試してみたんだけど、なんか嫌いなんだよ。うちのバンドのメンバーでも使ってる人はいるんだけどね。
古いモノに凝り固まるわけでもなく、あまり新しいモノに走ることもなく
YG:最近、購入したギターはありますか?
高中:フェンダーのコリー・ウォン・モデルを買っちゃったよ。なぜって、単純にコリー・ウォンが弾くリズム・ギターがいい音だなあ、上手いなあと思ったから。ストラトキャスターなんだけど、ちょっとボディーが小ぶりなんだよ。
YG:高中さんのようなレジェンドを憧れさせるとは、すごいですね。
高中:コリー・ウォン、ほんとカッコいいからぜひ聴いてみてよ。驚異的なファンク・ギターだから。まあ、幾つになっても、いいなと思ったらつい形から入ってしまうね。同じ楽器を持ったからって同じ音が出るわけないって、これまでの経験で散々分かってるつもりなんだけどね(笑)。
YG:そのお気持ち、分かります(笑)。
高中:その昔、リー・リトナーがナイロン弦のギブソン・チェット・アトキンス・モデルを使っていて、いい音してたんだ。その音に憧れて、僕も真似して買ったんだけど、リー・リトナーと同じ音は出なかった。フェンダー・ストラトキャスターのジェフ・ベック ・モデルを買ってもジェフ・ベックにはなれないのと一緒だよ(笑)。まあ、でも気分は高揚するよね。
YG:ピックも変えたそうですね?
高中:日頃はそんなにギターを弾いてるわけじゃないんだけど、やっぱりツアーの前になると焦って練習するんだよ。その時、上手く弾けないとピックのせいにする(笑)。それで、いろいろ試してあるモノに落ち着いたという話。普通に市販されてるシェクターのティアドロップ型に、滑らないようにテープを貼り付けてるの。
YG:あれっ、いつも使っておられたのはオニギリ型でしたよね?
高中:これまでずっと、オニギリ型だったんだけどね。70歳にしての微妙な変化だったりして…(笑)。
YG:0.6mmですか。意外と薄いのを使っておられますね。
高中:ピックは柔らかい方が好きだね。6連とか早いフレーズを弾く時、分厚くて硬いものよりも少しはグニャッとしなる方が次に弾く弦に当てやすいような気がする。なんとなく、そんな気がするだけだけどね。
YG:新しいギター・アンプもお気に入りだとか?
高中:“Spark” (Positive Grid)というアンプなんだけど、超小型のもあって、大小7台も買っちゃったよ。アプリで操作できて、いろんなアンプやエフェクトのモデリングが入ってるんだ。これはちょっとすごい音だよ。
YG:こういったデジタルの最新機器にも興味をお持ちなんですね。
高中:この2~3年かな、小型のアンプがたくさん発売されて、楽器店にどんどん買わされてる(笑)。でも、面白いんだよ。昔のアンプももちろん素晴らしいし、今も使ってるよ。メサブギーの“Rectifier”とアルテックのスピーカーの組み合わせはまろやかな音で好き。でも、古いアンプはどんどん朽ち果てていくし、なくなっちゃったり、倉庫の中でサビちゃったりしてね。それでまた同じモノを買おうとするとすごく高いでしょ。それが新しいアンプだと、4~5万円で買える程度のモノが結構良い。技術的にすごく進歩してるんだよね。
YG:その新しいアンプもボードのシステムに組み込まれているのですか?
高中:フット・スイッチで切り替えることができるようにしてるから、その辺りを聴き分けるのも面白いかもよ。昔ながらのサウンドの時はブギーの“Rectifier”とアルテックのスピーカーで、ヴァン・ヘイレンみたいな鋭いサウンドの時は“Spark”使ってんだろう、なんてね(笑)。
YG:新しいデジタル機材にも抵抗はないんですね。
高中:半々だよね。古いモノに凝り固まるわけでもなく、あまり新しいモノに走ることもなく…。
YG:エフェクト・ボードは基本的なところは変化してないようですが、微妙にいろんなモノが増えてきたりして、弾きながらの操作は大変なのではないかと思うのですが…?
高中:確かに、複雑になっちゃって最近じゃ踏み替えるのが大変だなと思ったりもする。ファンの書き込みとかを読んでると、僕がステージで足元のスイッチの切り替えにアタフタしてるのが、みっともないらしいんだよ(笑)。手元で弾くフレーズも忙しいし、足元で音色を切り替えるのも忙しいし、これじゃ見た目にも余裕がないよね。スタッフが手でスイッチを押して切り替えるとか、いろいろやり方はあるんだろうけど、コンピューターで小節ごとに切り替えるようにセットするのもいいかもしれない。
YG:小型のマルチ・エフェクターはいかがですか?
高中:ギター誌を読んでたら、佐橋佳幸さんがBOSSの“GX-100”をステージでも使ってるらしい。プリセットも100通りくらいあって、アンプのモデリングやエフェクトもいっぱい入ってるみたい。僕みたいに大掛かりなセットだとローディーも大変だし、そのうちこういう楽なセッティングでやろうかな?(笑) 来年のツアーはそれでやってたりして…。
YG:“GX-100”はもう入手されたんですね?
高中:今度、夏木マリさんのイベントで日比谷野音で2曲ほど演奏するんだけど、その時は“GX-100”とコンパクト・エフェクター2個くらいでやってみようと考えてる。
YG:今年のツアーで使うギターを教えてください。
高中:特に変わってないよ。まず、派手なラメのストラトキャスター。ピックアップがハムバッカーだから、歪ませても使える。ヤマハのSGはフリかけ(“SG-T”)とブルーのヤツ(“SG2000 Lagoon Blue”)。2曲くらいは近所のイラン人の画家に絵をペイントしてもらったストラトキャスターのジェフ・ベック・モデルも使うかもしれない。でも弾いた時に一番しっくりくるのは二十歳くらいの時に知人から買った古いフェンダー・ストラトキャスターだね。あのギターはネックがダメになって取り替えて、ピックアップもセイモア・ダンカンか何かに換えてるから、残ってるのは汚れたボディーだけなんだけどね(笑)。
YG:サーフ・ギターは使わないんですか? あれを心待ちにしてる人もいますから。
高中:あのギターそんなに人気あるの? 話題にはなるだろうけど、カッコよくはないし、弾きにくいし、微妙だよ(笑)。昔、加藤和彦さんに見せた時、最初はびっくりして珍しそうにしてたけど、そのうち「それ、やめてくれる?」って言われるようになった(笑)。加藤さんは何事にもお洒落な人だったから、あまりのバカバカしさが許せなかったんじゃないかな?
YG:古希を迎えて、これからの70代、80代へ向けてのご自身の展望をお聞かせください。
高中:かつて20代の頃は、B.B.キングみたいにオッサンになってもギターを弾いていたいなあ、なんて思ってた僕が、もうオッサンどころかジジイになっちゃってるわけだから(笑)、どうなんだろうね? 音楽をやる以外に他に才能なんてないし、好きな音楽をやって生活できるのは幸せですよ。先のことは、こればっかりは分からないけど、好きな音を出してそれを喜んで聴いてくれるファンがいるなら、ずっとやっていきたいね。
YG:では、年末まで続くツアーを前に、ファンの皆さんへひと言お願いします。
高中:70歳になって、これまでの集大成という意気込みで臨みます。先日、通しのリハーサルを終えたんだけど、後半に激しい曲が多くて盛り上がるからね。もう指は痛いし、肩は痛いし…(笑)。でも、そんなことは乗り越えて頑張りますから、期待してください!
高中正義 “TAKANAKA SUPER LIVE 2023 ULTRASEVEN-T” ツアー日程
群馬公演
日程:2023年9月18日(月・祝)
会場:太田市新田文化会館
開場 16:30 / 開演 17:00
お問い合わせ:太田市新田文化会館
TEL:0276-57-2222
広島公演
日程:2023年9月22日(金)
会場:NTTクレドホール
開場 18:00 / 開演 18:30
お問い合わせ:キャンディープロモーション広島
TEL:082-249-8334
福岡公演
日程:2023年9月23日(土・祝)
会場:福岡国際会議場メインホール
開場 15:15 / 開演 16:00
お問い合わせ:キョードー西日本(平日・土 11:00〜15:00)
TEL:0570-09-2424
東京公演
日程:2023年9月30日(土)
会場:日比谷野外大音楽堂 祝・日比谷野音100周年
開場 16:15 / 開演 17:00
お問い合わせ:キョードー東京
TEL:0570-550-799
日程:2023年10月18日(水)
会場:かつしかシンフォニーヒルズ
開場 18:00 / 開演 18:30
お問い合わせ:かつしかシンフォニーヒルズ(10:00〜19:00 ※休館日を除く)
TEL:03-5670-2233
日程:2023年10月28日(土)
会場:ルネこだいら(小平市民文化会館)
開場 16:30 / 開演 17:00
お問い合わせ:MASエンターテイメント
TEL:03-5743-9900
大阪公演
日程:2023年10月1日(日)
会場:大阪城音楽堂
開場 16:15 / 開演 17:00
お問い合わせ:キョードーインフォメーション
TEL:0570-200-888
神奈川公演
日程:2023年10月8日(日)
会場:茅ヶ崎市民文化会館
開場 16:30 / 開演 17:00
お問い合わせ:MASエンターテイメント
TEL:03-5743-9900
宮城公演
日程:2023年10月14日(土)
会場:仙台GIGS ※ドリンク代別
開場 16:00 / 開演 16:30
お問い合わせ:キョードー東北
TEL:022-217-7788
愛知公演
日程:2023年10月22日(日)
会場:Zepp Nagoya(※ドリンク代別 )
開場 16:30 / 開演 17:00
お問い合わせ:サンデーフォークプロモーション(12:00〜18:00)
TEL:052-320-9100
北海道公演
日程:2023年12月21日(木)
会場:カナモトホール(札幌市民ホール)
開場 18:00 / 開演 18:30
お問い合わせ:WESS
ツアー・ファイナル(東京公演)
日程:2023年12月29日(金)
会場;東京 Zepp Haneda
開場 15:30 / 開演 16:00
お問い合わせ:キョードー東京
TEL:0570-550-799
アーティスト公式インフォメーション
高中正義オフィシャル・ウェブサイト – TAKANAKA OFFICIAL WEB