弦間が狭くなったおかげで様々なテクニックがより楽になる(トム)
YG:では改めて、“AZ”の特徴的なスペックについて感想を聞かせてください。まずは“エステック”と呼ばれる窒素加熱処理技術が用いられたメイプル・ネック&フィンガーボードに関して。実際に触ったり、プレイしてみての印象は?
MM:僕が最初にネックに触って感じたのは、バランスが完璧だということだった。ヴィンテージもののように野球のバット並に太いわけでもなく、“Wizard”ネックのように凄く薄いわけでもない。ちょうどその中間といったところかな。特定のスタイルにのみ特化したようなものではなく、あらゆるタイプの音楽を快適にプレイできる。コードを押さえるのも、チョーキングするのも、レガートで弾くのも…いずれも問題ない。このネックはあらゆるプレイをバランス良くサポートしてくれるんだ。それに、強度や安定性も抜群だ。僕の自宅があるドイツは湿度が75%ぐらいで、凄く寒い。そして今、僕たちがいるカリフォルニアは湿度が15% くらいで、気温は快適だ。僕はその違いの中を旅して来たわけだけど、このギターに問題は一切起きていない。ドイツの自宅からカリフォルニアのホテルに着いて、ケースからギターを出してそのまま弾いてみたけど、チューニングはピッタリ合っていた。それはこのネックのおかげだよ。どんな状況でも、とても信頼できるギターだ。
TQ:マーティンの言ったことに、全面的に同意するよ。さっきも言ったけど、最初にプロトタイプのネックを握った時、あらゆる点で優れたクオリティだと思った。この“AZ”のネックから感じられるすべての要素は本当に純粋で快適で…、自然と手に馴染んで何も考えることなくプレイできる。本来、ギターというのはこうあるべきなんだよね。弾いている時に「今のは何だろう、ちょっと引っかかるな」なんて感じたくはない。この“AZ”のネックは厚すぎず薄すぎず、Rも快適で、コード・プレイにもリードにも適している。マーティンの言う通り、幅広いギタリストに訴求するギターだよ。あと、これもマーティンが言っていたけど、気候の異なる場所へ旅をしても大丈夫。空港を出たらまずはトラスロッドを回して…なんてのはゴメンだからね。ギターの状態は、家を出た時と変わらないでいてほしい。でも、もうそんな心配をしなくても済むようになったんだ。
YG:“Super All Access”と呼ばれるネック・ジョイントやワイドなボディー・コンターについてはいかがですか?
TQ:僕は特にネック・ジョイントに注目してほしいね。ハイ・フレットへのアクセスを高めるためにジョイント部分が滑らかになっていることは重要だ。アイバニーズはそこにもの凄くこだわっていて、ボディー材をかなり大胆にカットしている。だからハイ・フレットも容易に弾けるよ。ヒール部分の感触も快適で、親指の安定感がしっかり得られる。それでいて、ボディーの質量が失われてサステインなどが損なわれないようにデザインされていて、プレイアビリティ的にもサウンド的にも実にバランスが良い。ボディー裏のコンターも身体とのフィット感を高めてくれるので快適に弾けることは言うまでもないけど、それに加えて見た目の美しさも特筆だよ。ボディー・トップの美しさはもちろんのこと、“AZ”はバックの見た目も素晴らしい。ギターにおいて、ルックスの良さというのはとても大事なことだ。“AZ”のゴージャズなルックスには、人を惹き付けるものがあるね。
YG:どちらのモデルにも“AZ”のために開発されたセイモア・ダンカンの“Hyperion”ピックアップが搭載されていますが、マーティンの“MM1”はハムバッカーが2基、トムの“TQM1”はハムバッカー1基とシングルコイルが2基というレイアウトになっていますね。それぞれ、サウンドや使い勝手に対する感想を聞かせて下さい。
MM:僕は自分のシグネチュア・モデルだからといって、別のピックアップに替えたいとは思いもしなかった。だってこの“Hyperion”はボディーやネックの材やシェイプなども考慮して開発されたものであり、まさに“AZ”のために作られたピックアップなんだから。それと独自の配線によって、多彩なオプションも用意されている。僕のスタイルを知っている人は分かると思うけど、僕は極端なサウンドを行ったり来たりすることがある。さっきまでアーチド・トップのジャズ・ギターみたいなとってもダークなクリーン・サウンドで弾いていたかと思えば、次の瞬間、もの凄いサチュレーションのかかったアグレッシヴなディストーション・サウンドで弾いたりもする。この“Hyperion”はそんな変化にしっかり追従してくれるんだ。
TQ:僕はウェイン・クランツの大ファンだから、彼みたいな音が出せるポジションもほしいし、コンプのかかったパキッとしたクランチ・トーンがほしい時もある。それに、リア・ピックアップに切り替えてガンガンにゲインを上げてソロを弾いたり、極太のジャズ・トーンに切り替えたりしたくもなる。そんなことが、“Hyperion”ピックアップを搭載したこの1本のギターでできるんだよ。“Hyperion”は大胆に音色を切り替えることが可能だ。だから僕も、ピックアップを交換しようなんて考えもしなかったよ。こんなにも多彩な音が出せるんだからね。まったく見事だ。
YG:その多彩な音色を作り出すのにAlterスイッチが大きな役割を果たしていると思いますが、お2人はこれをどのように活用していますか?
MM:僕は、すぐに使えるサウンドが幾つかできている。まずメインのサウンドは、リア・ポジションですべてのノブがフルになった状態。ヘヴィなリズムやリードを弾く時の音だ。フロント・ポジションはトーン・ノブを90%ぐらいに下げると、パット・メセニーみたいなクリーン・トーンが得られる。もっと煌びやかなクリーンを出すには、セレクターをセンターとリアの間のポジションにしてトーンをフルにする。そして、もっとパンチがほしい時…例えばクリーンでバッキングを弾いていてソロを執るところになった時には、セレクターをセンター・ポジションにしてAlterスイッチをオンにすると、よりプッシュされたサウンドが得られる。よりラウドで太く、それでいてクリーンなサウンドになるんだ。この4つが、僕が普段から使っているサウンドだね。でも毎日、Alterスイッチやピックアップ・セレクターの組み合わせをあれこれ試しては、新しいサウンドを研究しているよ。
TQ:僕は、まずは通常のリア・ポジションをよく使う。レガート・プレイヤーなのでゲインが欠かせないんだ。あと、パーム・ミュートをかけたレガート・プレイをする時は、ポジションをフロントとセンターの間にする。ここでもAlterスイッチはオフの状態だ。そして、Alterスイッチをオンにしてヴォリュームを下げる…アンプの設定は変えないでね。すると、フュージョン風のクリーン・トーンが得られるんだ。どんなに複雑なコードを弾いてもすべての音がはっきり聴こえる。サチュレーションの効いたヘヴィなディストーション・サウンドにしても、綺麗に聴かせてくれるよ。そして、Alterスイッチをオンにしたままセレクターをフロント・ポジションにすると、アーチド・トップ・ギターのような美しいジャズ・トーンが出せる。しかも繊細で、コードを弾いた時の明瞭さもそのままだ。ここでAlterスイッチをオフにすれば、ブルージーでダーティな、スティーヴィー・レイ・ヴォーン風のリズム・サウンドが得られるよ。シングルコイルの鮮明さとグシャッとしたクランチ音がいいね。凄く多彩なセッティングができる。僕は常にあらゆるサウンドを使っているよ。これがみんな1本のギターから出せるなんて、とってもクールだ。
YG:トレモロ・ユニットはゴトーとアイバニーズが開発した“T1802”が搭載されています。アーミングの感触など、使い心地はいかがですか?
MM:僕は「これだったら絶対大丈夫」なんて極端な意見は言いたくないんだけど、これは現在において最高のトレモロ・ユニットだよ。ゴトーの“510”シリーズを基にゴトーとアイバニーズが共同開発したもので、幾つか素晴らしい改良が施されている。まず、チタニウム製のサドルを採用したこと。重量のある素材なので、よりサステインが稼げるね。僕みたいに手に汗をかきやすいタイプの人が使ってもサビにくいのもポイントだ。それから、アームは差し込んだり引っ張ったりするだけで簡単に脱着できる上、硬さを調節できる。アームの感触は硬いのを好む人もいれば、くるくる回るのが好きな人もいる。僕はその中間が好きだね。軽く押せば自然に止まって、アームに触れていない時でも動かない。とっても気に入っているよ。イナーシャ・ブロックはスティール製で、これもトーンの良さに貢献している。信頼性が高く、チューニングの狂いを心配する必要もない。不器用な僕でも手入れやセッティングが簡単だ。僕は弦交換もままならないヤツなんだけど(笑)、メンテナンスもちゃんとできるよ。
TQ:このトレモロ・ユニットは現代的なプレイヤーに適している。この2点支持のトレモロはとても信頼が高い。チューニングも非常に安定しているし、ダイヴ・ボムやアーム・アップなどクレイジーな技は何でもできるし、それでいてごく繊細なニュアンスまで表現可能だ。広範囲にわたってあらゆる技が可能なんだよ。あとクールなのが、弦間が若干狭くなっていることだ。現代的なプレイヤーは様々なテクニックを駆使するよね。スキッピングやハイブリッド・ピッキング…そういったことが、弦間が狭くなったおかげでより楽にできるんだ。マーティンも言っていたけど、お世辞じゃなく素晴らしいフィーチュアだ。それがこの“AZ”シリーズのみに搭載されているんだよ。