“この曲には何かが必要なんだ”とフィルは言っていた
YG:『HEAVY FIRE』のプロデューサーはニック・ラスキュリネッツですが…。
SG:ニック・ラスキュリネッツね…発音が難しいんだよな!
YG:(笑)BSRにとって彼のプロデュースは、2nd『THE KILLER INSTINCT』に続いて2作目になりましたよね?
SG:ああ。彼も俺たちも、お互いのやり方をすっかり把握していたよ。互いの要求もよりハイ・レベルになった。初日に彼からこう言われたよ。「前回はみんなで凄いアルバムが作れた。今回はさらに良いものを作らなきゃ!」とね。俺たちの中にあるボタンを押して、やる気にさせてくれるのが上手いね。「こういうやり方は今までになかっただろうけど、ちょっと落ち着いてこれを聴き返してみたら?」なんてさ。常にバンドの側にいて、アルバムの90%にかかわるプロデューサーだったよ。
YG:2nd は1stの『ALL HELL BREAKS LOOSE』よりもオーガニックな質感に仕上がっていましたが、3作目になるとより肩の力が抜けたような印象がありました。バンドが成熟して、リラックスしながら作業できたことが影響しているのでしょうか?
SG:おそらく、そうだろうね。3枚目ともなると、メンバーみんながお互いに打ち解けた環境でレコーディングできるようになっていた。昔のシン・リジィもそうだったけど、俺たちのレコーディングは予想した通りの結果にはならないんだ。あらかじめ作っておいたアイデアだって、どんな形に仕上がるかは分からない。とは言えデイモンも俺も、お互いのやることを多かれ少なかれ分かって来ているからね。ニックも今回のプロセス全体に対してどんな立ち位置にいればいいか分かっていた。全体的にやりやすくなったよ。
YG:曲によっては女声のコーラスが入っていますよね。「Ticket To Ride」は昔のハンブル・パイのようなバンドを思い出したのですが?
SG:それは凄い! ありがとう! 俺はハンブル・パイの大ファンなんだよ。もう1つは「Dancing With The Wrong Girl」だったかな…あっちにも女声コーラスが入っている。3人の女の子たちが参加してくれた。あれはリッキーが「この曲、何だかモータウンっぽさを感じるなあ」と言ったことが始まりだったんだ。俺には全然そう思えなかったんだけど(笑)、実際に彼女たちが来て歌ってもらったら、素晴らしい仕事をしてくれて、これはアルバムに入れなくては!と思える出来だったよ。俺も女声コーラスをあんな形で取り入れたのは新鮮な展開だったね。
YG:「Testify Or Say Goodye」のように、凄く印象的なツイン・ギターのメロディーもたっぷり入っていますね。こういったフレーズはデイモン(ジョンソン/g)とどうやって組み立てていくのですか?
SG:コード進行に耳を澄ませるだけだよ。ヴォーカリスト、つまりリッキー(ウォリック/vo, g)がやっていることをよく聴いて、隙間が空いていたら、メロディックなシーンが必要かどうかなどを判断して隙間を埋めていくんだ。シン・リジィの頃から毎回方法は異なっていたよ。あらかじめツインにするアイデアが誰かの頭の中にあったり、曲を書いた瞬間にハーモニーが構成されていたり、または突然閃いたり。上手くいかなくて「こりゃ酷い。ちっともいい感じにならないぞ。消してしまおう」となることだってある(笑)。でも大体上手くいくね。
YG:昔のシン・リジィでは、フィルが突然思いついたアイデアを「やれ」と言われたりすることが多かったそうですが。
SG:その通りだ。フィルは素晴らしいソングライターなんだよ。だけど、一緒に曲を作っていると、突然「あのさ…ここに“何か”が必要なんだよね…」「ここにも“何か”いるな」と言い出す。
YG:(笑)
SG:それで、何か作ってみて上手くいくこともあるし、「あまりピンとこないな」と言われたりもする。「それだよ、俺もそれを考えていたんだ!」となると、「ああ、同じことを考えてたのね…」という気分になったもんだ(笑)。まあとにかく、彼はアイデアがあろうとなかろうと、何かしら「思いついた」と言ってくる人だった。それが俺たちをやる気にさせてくれたんだよ。どんなバンドにもメンバーをプッシュしてくれる人が1人必要で、シン・リジィでその役を務めていたのがフィルだったんだよ。
YG:BSRの曲の多くは、リッキーとデイモンが作曲者としてクレジットされていますが、彼らも「ここはこう弾いてくれ」といった指示をスコットに出してくるのでしょうか?
SG:時にはあるよ。同じように、俺から提案することもある。試行錯誤の連続さ。誰も仕上がりがどうなるか分かっていないからね。でも、そうだな…BSRは…まずシン・リジィのメンバーとして彼らを雇った時、最終的な決断はすべて俺が出していた。「これが曲だ」「こんな風に弾いてく」…とね。で、BSRではリッキーとデイモンの2人が新しい“レノン/マッカートニー”になりたくて仕方がないみたいなんだ(笑)。2人に力を合わせて頑張ってもらって、出来るところがあれば手伝う。俺はそういう立ち位置なんだ。新たな道を進んでいる彼らを邪魔せず、無駄にプッシュしない。それに俺が出したアイデアはわりと何でも使ってもらえるからね。
YG:リード・ギターに関して、今回デイモンと振り分けはどんな感じで決めていったのでしょうか?
SG:最近は自分が弾きたいか弾きたくないかで決めているよ。俺が弾いて良い感じになりそうだと思えれば飛びつく。でも、曲のムードに共感できない時などは……(デイモンに)「お前がやっていいよ。俺はあまり弾きたくないから」と言っている。好きなものを取って、そうじゃなければデイモンにあげるんだ。ハハハ!
YG:デイモンもスコットも、ソロで弾くフレーズはストーリーが聴く人にしっかり伝わるようなものばかりですよね?
SG:俺は必ず、ソロにテーマを持たせるようにしている。メロディーも何もなく、ただ燃え盛るように弾きまくるのではなくてね。以前から俺のソロは口ずさんで歌えるとよく言われていたよ。それが凄く嬉しかった。エリック・クラプトンみたいなイメージかな。偉大なギタリストの弾くソロの多くは歌うことができる。リード・ギターっていうものは、実際にはアルバムの中のほんのわずかな時間でしかない。自分が目立てるところはそこだけなんだ。だから、聴く人が忘れられないものにしないと。
YG:「Testify Or Say Goodbye」もスコットのソロですが、最近の作品ではアーミング・ヴィブラートをすることが増えましたよね?
SG:ああ、もうクセになってきて、やり過ぎることもあるけどね(笑)。ギターに搭載されているんだから、じゃあ使おうという感じだったし、必ず使わなきゃいけないというわけでもない。ジェフ・ベックのようなギタリストがいて、一方では全くアームを使わない人もいる。人それぞれだけど、俺にとっては武器が1つ増えたんだ。
YG:ではそろそろ時間が来てしまいました。最後に『HEAVY FIRE』で使った機材を教えてもらえますか?
SG:メインはお気に入りのギブソン“Les Paul Axcess”で、アンプはマーシャル“DSL100”だね。キャビネットに入っているスピーカーはセレッションで、25Wの“Greenback”。75Wや30Wは使わない。25Wが一番、歌うようなサウンドが得られるから。ペダルに関してはストライモンのエコーとかコーラスとか…名前が思い出せないけど、その程度しか使っていないよ。