『詳説 ジャーマン・メタル』発売記念 ヤング・ギターの“ドイツ番記者(?)”が選ぶ『俺にも語らせろ! ジャーマン・メタル超級アルバム5選』

『詳説 ジャーマン・メタル』発売記念 ヤング・ギターの“ドイツ番記者(?)”が選ぶ『俺にも語らせろ! ジャーマン・メタル超級アルバム5選』
ライター奥村裕司氏による入魂の1冊『詳説 ジャーマン・メタル』がおかげさまで好評をいただいている今日この頃、この本を読んでメタルハートを刺激されてしまったYG編集者が“俺的ジャーマン・メタルの傑作”を5枚チョイス!

X-MAS PROJECT『X-MAS PROJECT』1985年

X-MAS PROJECT - X-MAS PROJECT

誰もが知っているクリスマス・ソングをスピード・メタル風に演奏するというお遊びプロジェクト(当初は4曲入りEPとして発売され、翌年に4曲追加してフル・アルバム化)。プロデューサーはメコン・デルタを始動させる前のラルフ・ヒューベルト(b)で、アヴェンジャー(後のレイジ)のピーヴィー・ワグナー(vo, b)とヨルグ・マイケル(dr)、当時スティーラーのアクセル・ルディ・ペル(g)、その他リヴィング・デスやホーリー・モーゼスのメンバーなどなど、ラルフが多数作品を手掛けていた“Earthshaker Records”所属バンドを中心とした参加陣には、後のジャーマン界の大物が多数。真面目に聴くような類いの作品ではないが、ジャーマン・スピード・メタル黎明期らしいヤケクソ感が子供も歌えるメロディーに上手くマッチしており、冗談のつもりで買ってみたら意外と本気で楽しめてしまった。’95年に本作からの流用とキャプリコーン他のメンバーによる新規録音曲をミックスした第2弾も登場した。

X-WILD『SO WHAT!』1994年

X-WILD - SO WHAT!
ランニング・ワイルドを脱退したアクセル・モーガン(g)とステファン・シュヴァルツマン(dr)が、先に同バンドを脱退していたイェンス・ベッカー(b)と共に組んだバンドのデビュー作。音楽性はランニング・ワイルドそのままで、ロックン・ロルフ(vo, g)がいなくてもこれだけのアルバムを作れるんだ!という挑戦的な内容だ。ただし、英国人シンガー:フランク・ナイトのダミ声おっさんヴォーカルが不評で、「音楽性も工夫がなく、バンド自体が胡散臭い」と当時はバッシングに晒された。が、「Dealing With The Devil」などの曲はむしろフランクの声がアクセプト的な雰囲気も醸し出しており、正統派パワー・メタルとしてはまずまずの出来。ステファンは後にU.D.O.復帰を経て再結成アクセプトに参加し、フランクはU.D.O.のアルバムに作詞などでコラボレートしている。アクセプトの系譜にあるバンドと考えた方が本作の本質が見えてきそうだ。

※ステファンが作曲した「Skybolter」は、ランニング・ワイルド時代にシングルB面曲として用意されていた「Skulldozer」という曲の歌詞を変更したもの。そのシングルが発売中止になってしまったため、未だ公式リリースされていないこの「Skulldozer」、実は某所で聴けてしまったりするのだが、お蔵入りさせるには勿体ない迫力のメタル・チューンなのだ…というのは内緒の話。

FRONTLINE『THE STATE OF ROCK』1994年

FRONTLINE - THE STATE OF ROCK

“ドイツのジャーニー”との異名をとったメロディアス・ハード・ロック・バンドの1st。世界的に陰鬱な音楽がウケていた’90年代によくぞここまで…と言いたくなるほど爽快メロディーが煌めく高品質メロハー・ワールド。バンド・ロゴが象徴しているようにギターを始めとしたバッキングはメタル成分が強めで、今聴くとヴォーカルがスティーヴ・ペリーっぽいという以外にジャーニー風味は薄いのだが、この極上ぶりの前にジャーニー云々はもはや関係ない。明らかに日本人好みで熱心なリスナーに愛されたにもかかわらず、言うほどビッグにはなれず、フェア・ウォーニング級の支持が得られなかったのが不思議で仕方ない。

POWERGOD『THAT’S METAL LESSON Ⅰ- BLEED FOR THE GODS』2001年

POWERGOD - THAT'S METAL LESSON Ⅰ- BLEED FOR THE GODS

’90年代初頭のソドムのメンバーだったアンディ・ブリングス(g)が仮名で組んでいたプロジェクト。彼らのオリジナル・アルバムは『守護神伝』の頃までのハロウィン直系と言えるメロディック・パワー・メタルが特徴の“真性ぶり”がマニアに人気だったが、ここはあえてカヴァー作を紹介したい。イングヴェイ・マルムスティーンやアンスラックス、マノウォーを除けば、エージェント・スティールにサヴェージ・グレイスといったややマニアックなバンドの曲にスポットを当てている中、シンガーにドロ・ペッシュやロブ・ロック、ギタリストにマンニ・シュミットや元ウォーロック組といったゲストを迎えてあの「Stars」(ヒア・アン・エイド)をカヴァー。いきなりサビーナ・クラッセンのデス声で始まるというおふざけもあるが、誰もがやりたくてもやれなかったネタを実現してしまったメタル馬鹿っぷりが実に微笑ましく、これを聴けば彼らのオリジナル・アルバムの方向性も大体想像がつくのではないだろうか。

DONNERKOPF『KRACHMASCHINE』2005年

DONNERKOPF - KRACHMASCHINE

サンダーヘッドの解散から約10年を経て、ヘニー・ウォルター(g, vo)が結成したロックンロール・バンドの唯一作。バンド名は“thunderhead”のドイツ語訳であり、ベースはオーレ・ヘンペルマン、アルバム発表後にドラムがアレックス・スコッティに交替ということで、早い話がテッド・ブレット(vo, g)を外してドイツ語で歌うサンダーヘッドである。そのサンダーヘッドの音楽性の中からモーターヘッドっぽさを力技で抽出したような楽曲ばかりで、これは「Overkill」や「The Hammer」そのまんまだろ!と言いたくなるような曲もあったりするのが痛快。サンダーヘッドの哀愁が消されてパンクに近づいた爆走ぶりは、現在へニーが根城にしているNITROGODSの前段階と言える。

すいません…5選と言いながらどうしてもコレを挙げたくて…

RESTLESS『WE ROCK THE NATION』1985年

RESTLESS - WE ROCK THE NATION

ロゴのデザインを見れば紛れも無くメタルであり、バンド名を見るだけでアクセプトのフォロワーであるとが分かることもあってか、当時の輸入盤市場でもよく売れたと聞く5人組の2nd。結成当初はHARDWAREなるバンド名で、アクセプトの『RESTLESS AND WILD』(’82年)発表から2年後にアルバム・デビューしているから、アクセプトのブレイクに衝撃を受けて急いで改名したのだろう。音楽性は太ったヒゲ親父なルックスのヴォーカルがダミ声で歌う、期待通りのパワー・メタル。ブリティッシュな暗さはあまりなく、ポップさがほのかに香ったり、ギターはエディー・ヴァン・ヘイレン的なタッピングを駆使したりと、不器用ながら意外とアメリカンなところもあり、そのキャッチーさのおかげですぐにサビを覚えられる曲ばかりだ。ブートレッグ臭い盤でしかCD化されていない1st『HEARTATTACK』とともに、そろそろ再発を希望したい。

CAPRICORN『CAPRICORN』1994年

CAPRICORN - CAPRICORN

ジャーマン・スラッシュの隠れた名バンド:グラインダーの末期ラインナップが実質的に改名したトリオ・バンドのデビュー作。薄めながらもスラッシュ成分が残り、加えて’90年代らしいヘヴィさはあるが、あくまでメタル・チャーチなどに通じる骨太のパワー・メタル。そこに漂って来るむせ返るようなロックンロール臭さはモーターヘッドからの影響が強く、哀愁たっぷりなバラードも得意としているところが、スタイルはまったく違えどサンダーヘッドと比較されたりもした。2ndを出してドラマーがグレイヴ・ディガーに加入した辺りでバンドは消滅し、残されたメンバーはNEMESISへと発展。2作で終わるには惜しいバンドだった。

UNREST『WATCH OUT』1997年

UNREST - WATCH OUT

こちらもロゴやバンド名がアクセプトを思わせるブレーメン出身のパワー・メタル・バンド。1992年のデビュー作『TASTE IT』は意気込みは分かるが未整理な楽曲ばかりでパワーも足りず、いまいち印象に残りづらいアルバムだったが、それから数年経った1997年、この3rdが日本盤リリースされた時は度肝を抜かれてしまった。哀愁あるダミ声ヴォーカルに気合い一発のリフを叩き付けるド直球のパワー・メタルは、1stと比較にならないほど圧倒的に骨太。演奏も不器用だが、それが徹底して男のロマンを描き出す。’90年代末期に絶滅危惧種となっていた純度100%のメタルを頑固に貫いた彼らは(ある意味)美しかった。アルバムはいずれも廃盤のはずだが、探すなら解散間際にリリースした2006年の7作目『BACK TO THE ROOTS』に本作がカップリングされた2枚組を購入するのがお得だ。

詳説 ジャーマン・メタル

INFO

書名:詳説 ジャーマン・メタル
価格:¥ 1,944(本体 1,800+税)
発売日:2019年7月25日
著者:奥村裕司
サイズ:A5判
ページ数:192ページ
ISBN:978-4-401-64685-2
発売元:シンコーミュージック・エンタテイメント

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