昨年11月に初来日したギリシャのスラッシュ・メタラー:スイサイダル・エンジェルズのライヴはご覧になっただろうか? オールドスクールなスラッシャーである彼らのステージには、変態テクニックを盛り込んだ現代的シュレッドをキメまくる男がいた。このガス・ドラックスというギタリストはバンドに加入したばかりの新顔だったのだが、一見ミスマッチながらもやけに際立つ存在感を発していたのだった。
来日時に行なわれたインタビューの中で、彼は多彩なスタイルを身に付け、その上で複数のバンドに籍を置いていることを語っていたが、そのガスがリーダーを務めるバンドの1つが、アルバム『FRAGMENTS OF CREATION』でデビューしたサンバーストだ。多種多様な要素を飲み込んだプログレッシヴ・メタル路線の楽曲は、まさにガスのポテンシャルが最大限に発揮されたものと言えるだろう。今回は彼にバンドの紹介も兼ねてのインタビューに応じてもらった。
僕のソロはあくまで「歌」として聴いてほしい
YG:サンバーストというバンド名はどういった理由で付けたのですか?
ガス・ドラックス(以下GD):このバンドを象徴するにふさわしい名前を考えていたんだけど、なんとなく最初から“sun”っていう言葉が頭に浮かんでいて、この言葉を上手く使えないかと考えていた。ある日ヴォーカルのヴァシリス(ジョージオウ)から「“sunburst”ってどうかな?」と提案されて、「それだ!」と思ったんだ。
YG:スイサイダル・エンジェルズで来日した際のインタビューでは、非常に幅広い音楽性を好んでいるという話をしていましたが、どちらかと言えばサンバーストの方があなたの持っている要素を出しやすいのではないですか?
GD:うん、僕は色んな音楽を好んで聴くし、もちろんそれをサンバーストに活かしたいと思ってもいるんだ。例えばプログレッシヴ・メタルやパワー・メタル、スラッシュ、エクストリームなブラック・メタルはもちろん、メタル以外の音楽や(映画などの)サウンドトラックからの影響なんかまで、様々な要素がここにはある。音楽的な違いは特に意識してないけど、スイサイダル・エンジェルズはよりアグレッシヴなスタイルで、サンバーストはよりヴァラエティに富んでいるという違いはあるかな。
YG:中でもドリーム・シアターやシンフォニー・エックスといったプログレッシヴ・メタルからの影響が強いと公言していましたが、このバンドはまさにそういった方向性を狙ったわけですか?
GD:そうだね。その2バンドからの影響をかなり受けているし、同じ方向へ向かっているというのは間違いないと思う。でも同時に僕たちは独自のスタイルも確立していると思うんだ。
YG:サンバーストのメンバーたちを簡単に紹介してください。
GD:まずはヴォーカリストのヴァシリス。彼は素晴らしいシンガーであり、キャメロットのオーディションを受けたこともある。ドラムのコスタス・ミロナスは、ボストンにある名門バークリー音楽大学を優秀な成績で卒業した奴だ。実は彼もかつてスリップノットのオーディションを受けたことがあるんだ。ベーシストのニック・グレイは自身でレコーディング・スタジオを経営している才能豊かなプレイヤーだ。そして最後に僕、ガス・ドラックスがこのバンドのギターを務めている。
YG:1曲目の「Out Of The World」のイントロから7弦ギターの低音を活かしたリフが出てきますが、このバンドではヘヴィさを表現するために7弦を多用しているのですか?
GD:全曲に渡って7弦ギターだよ。7弦が好きだから使っているというのもあるし、6弦モデルよりも色んな音の要素を音楽に加えられるからさ。へヴィさが増すだけでなく、様々なコードを効果的に作ることができるしね。
YG:「Symbol Of Life」のイントロのタッピングは、まるでシーケンサーかのように正確に繰り返されるので、エレクトロニカのような感触もあって面白いですね。このイントロは曲を書き始めた時からあったアイデアなのでしょうか?
GD:そうなんだよ! これは8フィンガー・タッピングのアイデアから発展させた曲なんだ。この曲はアルバムの中でも人気の曲なんだよね。またこの曲のコーラス部分は僕のお気に入りのパートなんだ。
YG:アルバム全編、フラッシーなソロが満載されていますが、テクニックに頼ることなく、あくまでメロディーを大切にしているという印象を持ちました。やはり一番大事にしているのはそこですか?
GD:そうだね。ただスケールを上下したり、アルペジオを弾くだけなんていうソロを弾くのは嫌だから。僕のソロはあくまで「歌」として聴いてほしいから、いつもテクニックとメロディーの両立にはとても気をつけているんだ。すべてを含めて1つの曲だからね。例えば「Symbol Of Life」はとても速くて荒々しいソロだけど、きちんとメロディーを奏でている。バラードの「Lullaby」のソロに関しては、より感情を込めることに注力しているんだ。
YG:どの曲もヴォーカルが引き立つようなアレンジを心がけているのではという印象もあったのですが、そこはいかがですか?
GD:そうだね、それは合っていると思う。僕たちは常に「歌」を書くことを念頭に置いているんだ。このバンドには素晴らしいシンガーがいるわけだし。
YG:プログレッシヴなメタル・バンドのインストはとかく複雑になりがちですが、「Beyond The Darkest Sun」は決してギターを弾きすぎることなく、非常にコンパクトに、勇壮なメロディーで組み立てられていますよね?
GD:これはアルバムで唯一のインスト曲だね。僕としてはただ演奏している感じではなく、きちんとした“曲”に仕上げたかった曲なんだ。もちろんソロ・パートも沢山含んでいるんだけれど、ギターを弾きまくることが目的ではなかった。
ギター・サウンドをパワフルにするために“加速するスペース”を持つ
YG:例えば「Forevermore」のギターは’80年代メタル的なテイストをモダンにしたという印象がありますが、サンバーストではあの時代のメタルからの影響も色濃く出そうとしているのでしょうか?
GD:確かにこの曲には’80sメタルのフレーバーが必要だと思って加えたかもしれないけど、僕たちなりの解釈で付け加えた感じかな。この曲にはクイーンズライクやフェイツ・ウォーニングからの影響がかなり反映されているね。
YG:最後の曲「Remedy Of My Heart」は12分を超える壮大な曲で、ドラマティックに展開しますね。これはどういったプロセスで作っていったのですか?
GD:元々はいくつかのギター・リフから始まったんだけど、そこから僕と ヴァシリスで試行錯誤して、最後まで作り上げたんだ。全部をレコーディングし終えたところで、オーケストラ・アレンジのアイデアが浮かんで、友達であるバイオメカニカルのジョン・K(vo, key)にアレンジをお願いできないか訊いてみたんだ(註:ガスはバイオメカニカルにも在籍経験がある)。彼は喜んですぐ快諾してくれた。そこでジョンがアレンジしやすいように、キーボードが入ったものと無いものという2つのヴァージョンのテイクを送ったところ、数日して完成したアレンジを送り返してくれたんだけど、あまりの出来の良さに驚愕したよ(笑)。これは僕らが誇りに思っている曲だ。
YG:レコーディングに使った機材を教えてください。
GD:今回のレコーディングでは、僕のシグネチュア・モデルであるシギ・ブラウン製ギターは持って行かなかったんだ。使ったのはシェクター“Hellraiser”シリーズの7弦ギターで、アンプはピーヴィー“5150”。マクソンの“OD808”(オーヴァードライヴ)をかけている。とてもシンプルなセッティングだけど、凄く良い音なんだ。これがリズム・パートでのメインになるトーンで、ソロではリヴァーブやディレイを少し足したよ。
YG:ギター・サウンドはパワフルでありながらクリアに録れていますね?
GD:そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとう。いつも気をつけているのは、音をパワフルにするために“加速するスペース”を持つことなんだ。ただ大きくて、飽和してうるさいだけの音作りではなく、“余白”を残すことが大事だと思う。だからいつも、出来るだけ全体のバランスが取れた音を出すよう心掛けている。僕は7弦ギターを使ってビッグなコードを弾いているけど、低音がルーズになりやすいから、1音1音をクリアに出すことはより重要になってくる。その辺に関して、僕はちょっとした完璧主義者かもしれないね。
YG:サンバーストとしてはかなりライヴを頻繁に行なっているのですか?
GD:まずは4月からギリシャとヨーロッパからアルバムのプロモーションのためにツアーを開始する予定だよ。日本にも是非行きたいと思っているんだ。
YG:最後に、日本のギター・キッズに向けてメッセージをお願い出来ますか?
GD:ヤング・ギターを読んでる皆、ハロー! インタビューを読んでくれてありがとう! そして僕たちの『FRAGMENTS OF CREATION』を気に入ってくれるといいな。ギターの練習にも役立つネタも色々と見つけることができると思うしね。すぐに会える日が来ることを楽しみにしているよ!