テーマは「好きなものを好きに作ってみよう」…冠 徹弥 & K-A-Z/THE冠が『奪冠』制作背景を振り返る(脱線多め)

テーマは「好きなものを好きに作ってみよう」…冠 徹弥 & K-A-Z/THE冠が『奪冠』制作背景を振り返る(脱線多め)

2018年1月号の巻頭大特集『ヴォーカリストとギタリスト』において、企画を象徴するアイコンとして登場していただいた冠 徹弥。彼の率いるソロ・プロジェクト、THE冠の最新アルバム『奪冠』が去る9月末にリリースされており、遅ればせながらその内容にまつわるインタビューをお届けしたい。本作のギタリストを務めたのは、THE冠の立ち上げ時から関わって来たあの男…日本屈指の重低音請負人K-A-Zである。あちこち脱線しながら2人に90分間みっちり喋ってもらった内容を、ここではほぼノー・カットで記させていただいた。ちなみにインタビューの性質上、(笑)の数が非常に多くて読みづらいかもしれないが、ご容赦いただきたい。

テーマは「好きなものを好きに作ってみよう」

YG:2015年にミニ・アルバム『鎧兜鎖血』、2016年にベスト・アルバム『肉』『骨』をリリースしていますが、純粋なフル・アルバムとしては実は4年ぶりですよね。
冠 徹弥:そうなんですよね。ベスト盤に関して言えば、廃盤になった昔のアルバムを新しいファンが聴けない状態が嫌だったので、「とりあえずライヴでやる定番曲を改めて出そう」という発想だったんです。それも、レコーディングを改めてやり直して。

YG:あの2枚のベスト盤は、全曲K-A-Zさんが弾いているんですか?
K-A-Z:ほぼ俺ですね。充分良いクオリティだった1〜2曲に関しては以前と同じままだけど、基本的にはほとんどのギター・パートを録り直したかな。
冠:今、ライヴでやっているアレンジに録り直しましたね。
K-A-Z:昔の音源をそのまま詰め込むよりも、その方が楽しいよね。前とは違うギター・アプローチで構築しようとしたし。
冠:オリジナル・アルバムを持っている人は、聴き比べれば全然違うことが分かってもらえると思います。めちゃくちゃ面白くなってる!

YG:今回の新作『奪冠』もK-A-Zさんが全面参加しているわけですが…、お二人の関係性って不思議ですよね。THE冠はもちろんソロ・プロジェクトですが、K-A-Zさんが要所要所で必ず参加していますし、“名誉メンバー”みたいな立ち位置でしょうか?
冠:そうですね(笑)。そもそもこのプロジェクトを立ち上げた時の、初代メンバーでしたから。
K-A-Z:冠がSo What?をやっていた頃から一緒に飲んだりはしていたし、昔から仲は良かったよね。
冠:So What?を解散することになり、THE冠として最初のアルバム(2005年『冠祭』)を作る時にK-A-Zに頼んだら、快くOKしてくれて。本当に初期からずっとやってくれているので、確かに名誉メンバーという言い方は合っているかもしれないですね。

YG:あのアルバムの1曲目「エビバディ炎」は、ミュージック・ビデオも撮ったじゃないですか。その中に映っているK-A-Zさんを見て、「恐いギタリストがいるな…」と思っていました(笑)。
K-A-Z:ギター・ソロの場面にしか映ってないけどね。あそこだけミュージック・クリップらしい仕上がりで、他の部分はほぼVシネマ(笑)。
冠:そうそう。Vシネマの役者に出てもらったし、あと鉄工所で鉄兜を作ってくれた友達も出演してる(笑)。ワイヤー・アクションで空を飛んだりもしているから、考えてみるとすごいよな。
K-A-Z:制作チームだって、ちゃんとそっちの世界の人達だもんね。
冠:RIKI PROJECTが協力してくださって、竹内 力さんにも出ていただきましたし。スタッフのみなさんが「冠がやるんだったら金はいらん」って…。
K-A-Z:本当ならかなり金が掛かってるよね。
冠:数百万レベルだろうね。もちろんテープや火薬などの実費は掛かりましたけど。みんなが助けてくれたおかげでできた、1発目のミュージック・ビデオでした。

YG:当時は動画サイト自体が珍しい存在でしたし、もっと色んな人に観てもらえる場所がほしかったですよね。それぐらいのクオリティ。
冠:そうですね。MTVでガンガン流せるぐらいのプロモーション力があれば良かったんですけど(笑)。そんな時期を経て、今もこうやって活動しています。THE冠で活動を始めてから、もう14年ですよ!
K-A-Z:そんなに経つか…。2018年で15周年じゃん。
冠:あまりアニヴァーサリーとか関係ないバンドだから。10周年の時も「そろそろかな?」って思って数えたら、11年経ってたわ(笑)。

YG:すみません、『奪冠』の話に戻ります(笑)。久々のフル・アルバムということで、何かテーマみたいなものはあったのでしょうか?
冠:前作『帰ってきたヘビーメタル』(’13年)は「よりメタルらしく」という意識が強くて、ゴリゴリのメタルのイメージを崩さないようにしたかったんですが、その後ベスト盤を作ったことで、自分の中では一旦リセットしたような気持ちなんですよ。今作のテーマは「好きなものを好きに作ってみよう」、そこが大きな違いですね。もちろんメタルは体に染み込んでいるので、その上で歌謡曲やミクスチャーといった、大好きな要素を自分なりに消化して取り入れました。

YG:歌詞を読みながら聴かせていただいたんですが、かつては自虐的に哀愁を誘う内容が多かったじゃないですか。今回も同路線かと思いきや、むしろ振り切って逆にポジティヴになった印象を受けました。
冠:よくぞ言ってくれました。自虐で笑いを取る曲ももちろんあることはあるんですが、数年前から自然と減りましたね。今は自信を持ってやっているんだと。バラードだって、ボケもなく真面目に歌っていますから。
K-A-Z:しっとりとな。
冠:K-A-Zさんのエモいギターの上でね。昔は「ここで面白いことをしよう」とか「笑いを取ろう」「かっこいいことをやろう」なんて意識していましたが、今はほぼ自然体に近付いています。もちろん言葉の選び方はすごく考えているので、その中でも面白い内容にはなっていると思いますけど。

YG:ギター・サウンドに関して言えば、1曲目の「奪冠」なんてものすごく激しい曲調なのに、全然ハイ・ゲインじゃないのが面白いですよね。ヘヴィではありますが、クランチ系と言えるぐらいの歪み方で。
K-A-Z:いつものことなんだけど、シングルコイルで弾いているのが大きいんだろうな。今回はシェクターの“Hellraiser V-7”っていう、Vシェイプのギターで録ったんですよ。ミラー・トップに改造してあるモデルなんだけど、それも影響してか、すごくブライトな音でね。シングル・タップできるEMGピックアップを載せてもらって。ザクザク感を出すためにゲインを上げるよりも、トーンをブライトにしようという発想ですね。おそらく普通の人が弾いたら、全然歪まないと思う。ピッキングの強弱やアタックの力加減で、押し引きを使い分けたりしながら、前後の立体感を出してるんだよね。歪ませ過ぎるとそういうコントロールが効かないから、面白くない。

YG:冠さん的には、「メタルと言えばハムバッカー」という意識はあったりしません?
冠:楽曲にハマってれば何を使ってもOKですね。実際、あまり歪み過ぎていると奥に引っ込んだりして、逆にあまりヘヴィに聴こえないんですよ。ライヴでも埋もれてしまいますし。K-A-Zがやっているように、あまり歪まない音をピッキングで前に出す方が、よりヘヴィに聴こえたりする。
K-A-Z:エグさはその方が圧倒的に出るね。俺、いつもそういう「エグッ!」っていう感じを求めてるんですよ。最近世の中で流れているようなアニソンとかアイドルものだと、かなりきっちり歪んでいる音が主流でしょ? そういうサウンドは全然エグく聴こえない。どんなにチューニングを下げていてもね。芯を食ってない音というか、チップみたいな感じ。

YG:レコーディングは具体的にどのように進むんですか?
K-A-Z:アレンジがほぼ終わった楽曲のアイデアが冠から送られて来て、俺はそれをどうやってエグくするかを考えるんですよ。MIDIで打ち込まれた整理されたギター・パートを、生身で弾くことでエグさを出すのがポイントになってくる。楽曲のパターンに関しては、メタルもあればミクスチャー的だったりハードコア的だったりもするから、そこはそれぞれに合わせたフレーズを自分の引き出しから出す。
冠:俺のやりたいことはK-A-Zも察してくれているから、メタル好きがにやけるようなフレーズも入れつつ、今時の海外のメインストリームみたいなこともやってくれたり。振り幅が大きいんですよね。

YG:冠さんから先ほど“歌謡曲”というキーワードが出て来ましたが、今回もわりとそれっぽいパートは多いですよね。「奪冠」のソロ明けなんか、’70年代フォークみたいで(笑)。
冠:あのしっとりゾーンが大好きなんですよ。ギター・ソロの前や後に“落としパート”を作るのって、往年のハード・ロックやヘヴィ・メタルでもあったじゃないですか。オジー・オズボーンの「I Don’t Know」みたいな、ああいう展開が好きで。歌のメロディー・ラインは歌謡曲ですけど、基本的にはあの時代のメタルの血が流れているんです。

YG:その前に来るギター・ソロは、どメタルのスウィープ・アルペジオから始まります(笑)。
K-A-Z:あそこは俺の中で「スウィープしかないだろ!」って。最初のデモではあそこが空いていて、冠から「K-A-Zは何を入れて来るんだ?」っていう期待を感じていたから。
冠:俺もスウィープか激しいチョーキングで来てほしいと思っていたんだけど、ふたを開けてみればゴリゴリのスウィープが(笑)。期待の上をいくので、もうさすがとしか言いようがなかった。1曲目はぶりぶり攻めてほしいところだしね。