現在発売中のヤング・ギター4月号にて、紹介記事を掲載しているアイバニーズのニュー・ギター・シリーズ“AZ”。すでに同モデルを使用している新進気鋭のギタリストたちのスペシャル・インタビュー動画を本サイトにて先行公開しているが、ここではその中から、“AZ”初のシグネチュア・モデル・アーティストとなったマーティン・ミラーとトム・クウェイルのインタビュー“完全版”をお届けしよう。
マーティンとトムは、モダン・フュージョン・シーンにおいてそれぞれソロとして活動しつつ、頻繁にコラボレーションも行なっており、先頃も2人がシグネチュア・モデルを使って一緒にプレイしたスタジオ・ライヴの動画がいくつか公開されたばかりだ。
百聞は一見に如かず──“AZ”のポテンシャルはそれら動画を見聞きすれば一目(一聴)瞭然だろうが、マーティン&トムには彼らのシグネチュア・モデル“MM1”&“TQM1”を手にしながら、改めて“AZ”の魅力をたっぷりと語ってもらった。
なお、併せてヤング・ギター4月号の紹介記事と試奏動画(プレイヤーはTRIX/有形ランペイジの佐々木秀尚!)をチェックしてもらえれば、“AZ”に関する「A to Z」をきっと理解していただけるはずだ。
アイバニーズのアイデアに僕なりの意見を出した(マーティン)
YG:早速ですが、それぞれのシグネチュア・モデルについて教えていただけますか? では、まずはマーティンから。
マーティン・ミラー(以下MM):僕のシグネチュア・ギターは“MM1”。ヘッドに僕のサインが入っているよ。アイバニーズがリリースした新シリーズ“AZ”を基にしたモデルで、僕も開発に関わっている。“MM1”の特徴的なスペックは、まずフレイム・メイプル・トップにトランスペアレント・アクア・ブルーのフィニッシュが施されていること。とても綺麗だろ? そしてボディー・バックはアフリカン・マホガニーで、こちらの杢目も美しいね。これは“MM1”ならではの仕様だよ。その他は通常の“AZ”と同じスペックだ。つまり、“エステック”という特殊な加熱処理が施されたローステッド・メイプルのネックとフィンガーボード、ゴトーとアイバニーズが共同開発したトレモロ・ユニット──これはイナーシャ・ブロックがスティール製、サドルがチタン製で弦間がちょっと狭くなっている(註:10.5mm)。それに、ゴトーのマグナムロック・ペグとジャンボ・タイプのステンレス・フレット。そして、これも“AZ”のために新開発されたセイモア・ダンカンの“Hyperion”ピックアップ──“MM1”にはハムバッカーが2基マウントされているよ。それから5ウェイ・ピックアップ・セレクターとAlterスイッチを搭載していて、これらの組み合わせによって10種類のサウンドを出すことが可能なんだ。
トム・クウェイル(以下TQ):僕のシグネチュア・モデルは、“TQM1”。同じくヘッドにサインが入っている。やはり“AZ”が基になっているんだけど、“TQM1”のボディー・トップにはモンキーポッドという木材が使われているよ。模様が美しく、音も素晴らしい。ボディー・バックは通常の“AZ”と同じ、アルダーだ。ピックアップは“Hyperion”でSSHレイアウト、5ウェイのセレクターとAlterスイッチの操作で、9種類のサウンドが出せる。ピックガードがないというのも、“TQM1”の特徴かな。あとは基本的に通常の“AZ”と同じスペックだ。
YG:2人は“AZ”の開発に初期段階から関わっているそうですが、どのような経緯で協力することになったのですか?
MM:僕が“AZ”の開発に関わり始めたのは、2015年11月頃からだ。アイバニーズから「今、新しいシリーズのギターを製作するプロジェクトが進行中なのですが、開発に協力していただけますか?」というメールが届いたんだよ。2〜3ヵ月後、メーカーの担当者が自宅に木材を持ってやって来てくれた。ボディー材や、巨大なサンプル・カタログを広げてヘッドのデザインやロゴ、カラーなどいろいろな見本を見せてくれたんだ。アイバニーズが元々持っていたアイデアはすでに素晴らしいものだったけど、これまでの経験を話したり、自分の気に入っているギターを見せたり、好きなものとそうでないものなどを伝えたり、こんな木の組み合わせが良いとか、ピックアップはこういうタイプが良いとか…僕なりにいろいろと意見を出したよ。それから数年、ミーティングを重ねていく中で試作途中のものを何度か見せてもらった。ボディーの形だけができていて、未塗装でピックアップだけが載っているようなものだったけど、それだけでも素晴らしい音がしたよ。その後、プロトタイプが自宅に2本届き、1年間テスト・プレイを続けたよ。それと並行して、なんと僕のシグネチュア・モデルも作ってもらえることになったんだ! プロトタイプの時点で“AZ”は優れたギターだったけど、そこからさらに自分が求めているスペックをじっくりと吟味した。その上でどの点を残し、何を変更してほしいかをアイバニーズに伝えた。そうやって、“MM1”が完成したのさ。
TQ:僕はマーティンより随分後になって開発に関わることになった。2017年のNAMMショウで、アイバニーズ・ブースにいた僕は突然とある小さな部屋に連れて行かれた(笑)。ケースが山ほど置いてあって、ようやく人ひとりが座れるぐらいのスペースしかなかったけど、そこで“AZ”のプロトタイプを渡されたんだ。ギターを縦にして弾かなきゃならないような状況だったけど、それでもそれを弾いた瞬間、ネックの形状が素晴らしいと感じた。僕の手に、見事にフィットしたね。新しいギターを触って、すぐに良いと感じる経験は滅多にない。陳腐な表現かもしれないけど、「探し求めていたギターはこれだ!」という感覚があった。あの小さな部屋で試奏するのは大変だったけど、これがとても精確かつ丁寧に作られたプロフェッショナルなギターであることは、はっきり分かった。それからスペックの説明を受けて部屋から出た後にも、「良いギターだったなぁ」ととても興奮していたけど、それで終わりだと思っていた──ある日、アイバニーズから「プロトタイプをチェックしに来てくれませんか。それから、あなたのシグネチュア・モデルについてもお話をしたいと思います」というメールが来るまではね! まさに青天の霹靂、信じられなくて、5〜6回はメールを見直したよ。そこからはマーティンと似たようなプロセスだった。すでに“AZ”シリーズにはマーティンの意見が反映されていたので、僕が口を出すことはあまり多くなかったよ。ありがとう、マーティン(笑)。そして完成した“TQM1”のクオリティには、とても満足しているよ。