発売中のヤング・ギター8月号奏法企画『Neo-Classical Master Class』で、高難度リックを多数披露してくれたジョー・スタンプ。取材と前後して行なわれた電話インタビューでは、ネオ・クラシカルなギター・スタイルへのリスペクトを長時間にわたってしゃべり倒してくれたのだが、ここでは本誌に載せきれなかったパートとして、活動状況を中心とした内容をお届けしよう。ソロ・アルバムはしばらく日本盤が出ていないが、現時点での最新作『SYMPHONIC ONSLAUGHT』(2019年)をはじめ、サブスクリプション配信で聴けるものも多い。どれも単なるネオ・クラシカルのスタイル一辺倒にとどまらず、様々な要素を巧みに取り入れたエキサイティングなギター・インスト作品となっているので、インタビューを読み進めつつチェックしてみると良いだろう。ほかにもギターのサウンド・メイク、既にリリース待ちだというソロやアルカトラスの新作、メタル・シーンに輩出された数多くの“教え子”たち…などなど、興味深い話が満載だ。
俺はガス G.の師匠のようなものだった
YG:今回の動画でたくさんのシュレッド・プレイを聴かせてくれましたが、改めて、1音1音のクリアさに驚きました。これはテクニックだけでなく、機材面での音作りも関係していると思います。歪み系ではどんなサウンドを狙っていますか?
ジョー・スタンプ(以下JS):ゲインは結構な量をかけているよ。俺が普通アルカトラスのライヴやソロで使っているアンプは、いつだってマーシャルだ。そして特にアルバムでは、オーヴァードライヴ・ペダルを何種類か使っている。求めるサウンドによって使い分けているんだ。ネオ・クラシカル系の曲だったら、最近ではフェンダーの“Malmsteen Overdrive Pedal”を使っている。イングヴェイが、スティーラーからアルカトラス、『TRILOGY』(1986年)にいたるまでの初期ソロ作品で使っていたDOD“Overdrive Preamp 250”の初期モデルを元にして作られたものだ。俺は古いDODもいくつか持っているけどこのペダルは本当に素晴らしくて、モダンでクリアな音が出せるよ。あと、リッチー・ブラックモアにインスパイアされたトレブル・ブースターをいくつか。ダークなブラックモア風の音を出す時には、GuitarSlingerの“RB1011”かBSM“ RPA”“RPA Major”辺りがいいね。
アンプに関しては、最近レコーディングでもっぱら使っているのは、マーシャルのイングヴェイ・モデル“YJM100”。セッティングが50Wと100Wで切り替えられるけど、50Wセッティングは初期イングヴェイのようにすごくスムーズでクリアなサウンドが得られる。100Wにするとよりビッグで激しいサウンドだから、ゲイリー・ムーアやブラックモア風のプレイに使う。ギターも様々なサウンドのストラトキャスターを使っていて、それらとアンプを組み合わせ、用途に合わせていろんなトーンを出している…ネオ・クラシカルだったり、ヘヴィでザクザクしたメタルなサウンドだったりね。俺のアルバムにはスラッシュ・メタル、テクニカル・デス・メタル、ブラック・メタルの要素も入っているから、ヴァラエティに富んだトーンを出したいんだ。
YG:現時点でのあなたの最新ソロ・アルバムは『SYMPHONIC ONSLAUGHT』となりますが、この作品はネオ・クラシカルな要素と中近東風やブルージーなハード・ロックがセンスよくミックスされていて、飽きのこない内容でした。あなたのプレイもエネルギーに満ち溢れていて、弾くことの楽しさのようなものが伝わってきますね。
JS:あのアルバムは大好きさ。俺は、自分のアルバムの曲はいつだって誇りに思っている。誰だって、時速10億マイルでアルペジオを山ほど弾いたり、しゃれたマルチ・フィンガー・タッピングをやったりすることはできるけど、音楽性豊かにギターを聴かせるのは決して簡単なことじゃない。そういった点で俺は、『SYMPHONIC ONSLAUGHT』にとても満足しているんだ。オープニングの「Demonic Trance」ではとてもイーヴルなハンガリアン・マイナーを使っているし、「Hit The Deck」は「Chasing The Dragon」(2009年『VIRTUOSTIC VENDETTA』収録)といったこれまで俺が書いて来たたくさんの曲と同様に、ファストな2バスのドラムにネオ・クラシカルでクールなメロディー、クールなアルペジオ・セクションが聴けるよ。それから「Facemelting Devastation」。これはお気に入りで、まるでメガデスみたいなパワー・メタルとブラック・メタルの要素を掛け合わせたようなセクションがある。メロディーにはやはり、イーヴルなハンガリアン・マイナーが満載だ。とても満足しているよ。
あと、「Stratocastle」もいいね。これはレインボーのアルバム『DIFFICULT TO CURE』(1981年)収録の「Midtown Tunnel Vision」にヒントを得た。あの曲のリッチーのソロは最初、ジミ・へンドリックス風のブルージーなプレイから始まり、そこからイーヴルな中近東風セクションへ進んでいく。ハンガリアン・マイナーやビザンティン・スケールを使って、スライドも取り入れたりして。そこで俺も、ああいうものをやりたいと思ったんだ。“ロックなリッチー風”から“中近東なブラックモア風”に行く流れをね。
YG:グルーヴィなハード・ロックにオリエンタルな風味があるところが面白いですね。
JS:ああ、それにメロディーがミクソリディアンになっている。俺がメジャーKeyのメロディーを書くのは稀なんだ。ちなみにこれを思いついたのは、バークリーのオンライン・レッスンで生徒に教えている最中だった。「ちょっと待ってくれ」と言ってサクッとまとめて、「さあ、レッスンに戻ろう」という感じだったんだ。
YG:なるほど。バークリーといえば、あなたの教え子として有名なのがガス G.ですね。現在も自身のバンド:ファイアーウインドを率いる彼は、一時期はオジー・オズボーンのバンドにも在籍しました。
JS:ガスのことは、バークリーで教えていたわけではないんだ。確かにガスとは学校で出会った。サマー・プログラムに参加していて、その後入学するはずだったけど、バークリーが好きでないことに気がついたんだ。彼が好きだったのは俺だけだったんで、週に数日俺のアパートに来て、俺と一緒に勉強していたんだよ。俺はガスの師匠のようなものだった。単なる先生という感じではなかったんだ。
YG:ガスは短期滞在しただけですぐに帰国し、ギタリストとして活動を始めたと聞いていましたが、あなたとはそういった交流があったのですね。
JS:2020年1月に久々に再会したよ。とても嬉しかったね。彼が活躍しているのも嬉しかった。素晴らしいプレイヤーだし、すごく良いヤツでもある。俺のソロ・ツアーにガスを連れて行けたらきっと楽しいだろうな。
YG:他にも、あなたの卒業生の中で活躍しているギタリストがいるかと思いますが…。
JS:ああ、多くの生徒がいるよ。レヴォケーションのデイヴ・デイヴィッドソン(Dave Davidson)もその1人だ。若い頃のデイヴはメタルをやっていたけど、バークリーではジャズに専念し、その感性をレヴォケーションに取り込んだ。リフの面でも、単音の面でも、彼はモンスター・プレイヤーだ。あとはロブ・カッジアーノ(Rob Caggiano)。彼も俺と同じくニューヨーク出身で、アンスラックスにいたこともあり、今はヴォルビートにいる傍ら、いろんなバンドのプロデュースも手がけている。キルスウィッチ・エンゲイジのメンバーもだし、サマー・プログラムやマスター・クラスといった期間限定コースで教えた人たちもいる。アニメ番組『METALOCALYPSE』の劇中デス・メタル・バンドを手掛けるブレンドン・スモール(Brendon Small)も生徒だった。才能ある大勢の人に教えることが出来た俺は幸せ者だ。彼らがみんな活躍しているのを見られて嬉しいよ。名前は挙げだしたらキリがない。なにしろ1993年からここで教えているからね。
YG:ジャズを中心に始まった学校であり、あなたもかつては同校で学んでいたそうですね。
JS:もちろん、ギターのカリキュラムをこなすにはジャズの知識がないとだめで、ジャズのコード・ヴォイシングの知識、そしてジャズ関連の様々なアルペジオやスケールが弾けないといけない。だから、そういう知識は俺にもあるし、若い頃はジャズやフュージョンも弾いたよ。でも、それはもう遠い昔のことだ。
バークリーのカリキュラムは確かにいまだにジャズ主体だけど、内部はとっても幅広いんだ。ギター科には60名の講師メンバーがいて、あらゆるスタイルのギター・スタイルが網羅されている。ベルタ・ロハス(Berta Rojas)はクラシック・ギターの達人だ。デイヴ・トロンゾ(Dave Tronzo)はアヴァンギャルドなスライド・ギタリストであり、音作りの天才だ。デイヴ・フュージンスキー(Dave Fiuczynski)はエクスペリメンタル・マイクロトーナル・フュージョンの達人だね。もちろん、ジャズやフュージョン、ブルース、カントリー、フィンガー・スタイルのプレイヤーも凄腕揃いだ。ガイ・ヴァン・デューサー(Guy Van Duser)はチェット・アトキンスと一緒にやっていたフィンガー・スタイルの名手で、彼の授業だって受けられる。だから、ギター科1つとっても決してジャズだけではないんだよ。