驚いてもらえるような、非日常的なフレーズや音色を奏でたい
YG:次の「月夜のララバイ」は、弾き語り風パートからサビではシャッフルに変化し、ソロはストレートで速いビート…。様々なリズムが次々と出て来る構成が面白いですね。
AKIHIDE:元々はもっとシンプルなリズム・パターンの、シャンソンのような哀愁感のある曲だったんですけど、普通だな…と思ってしまって。冬にやったライヴではアコーディオン奏者に参加してもらったんですけど、じゃあこの曲にもアコーディオンを加えたら良いんじゃないかと。そこから、最初のパートのリズムを3拍子に変えようということになり、同じテンポで譜割りを変えることでシャッフルにもなる。さらに途中でビート・アップしたら面白いなと。楽曲のメロディー自体は古めかしいんですが、リズムを複雑にすることで現代的になりました。
YG:アコーディオンも、場を支配してしまう楽器ですよね。他の楽器を押し分けて存在感を発揮するというか。
AKIHIDE:確かにアコーディオンの色になってしまいますもんね。ちなみに基準ピッチが少し高いらしくて、A=442Hzなんですよ。僕はソロの時は、ジャズ系ライヴハウスのピアノに合わせてA=441Hzにしているから、アコーディオンが少し浮き上がって聴こえるんですよね。
YG:そういった秘密もあるんですね。8曲目「朝顔のマーチ」は、「月夜のララバイ」のゆったりしたアウトロから流れるように自然に始まっていて、曲順の選び方がとても上手く機能している感じですね。
AKIHIDE:そうですね。今回は時間をかけて、何度も聴き返しながら並べ替えたんです。この2曲はハマりましたね。毛色が似ているというか。
YG:イントロが終わるとリズムが超アップ・テンポになりますが、上に乗る歌声がすごく優しいので、全体的な雰囲気は常に穏やかなのが面白いと思いました。
AKIHIDE:久々に歌モノの楽曲をやって思ったんですけど、以前作った歌モノの『Amber』(’13年)なんかは、BREAKERZや他のアーティストに提供する楽曲と同じような作り方だったんです。でも今回は、自分が歌いやすい曲にしようと思って。僕の歌いやすいキー、歌いやすい譜割り、歌いやすくて伝えやすい歌詞のはめ方…をしたので、より自然に歌えました。特にこの「朝顔のマーチ」はリラックスして録れましたね。
YG:ただ演奏はかなり忙しそうなので、ライヴではなかなか大変ですよね?
AKIHIDE:まあメンバーは大変かもしれませんね(笑)。僕自身は別に、歩きながらでも自然に弾けます。特にこの曲は既に定番のようになっていて、けっこう落ち着いて弾けるようになって来ました。
YG:この曲のソロはわざと外すようなアプローチとは違い、ジャズ的な進行感のある音使いですね。
AKIHIDE:これは決め打ちで弾いていて、コード進行的にもメロディーのあらすじが作りやすいんですよ。
YG:つまりインプロではなく、作曲と同じ感覚で弾いているわけですか?
AKIHIDE:わりとそうですね。前半はある程度決め込んでおいて、要所要所で自由に弾いています。
YG:そして9曲目の「風の歌」は、「タンポポ」と同様のミニマルな編成から始まるインスト。
AKIHIDE:この曲はシンプルに、ギター1本で弾けるようなフレージングですね。中盤からちょっと宇宙みたいなサウンドが出て来るんですが(笑)、あれはデジテック“Whammy”を踏みながら、ストラトキャスターでヴォリューム奏法しながら弾きました。自宅で録ったものをそのまま使ったんですけど、聴いた人はみんな驚くんですよ。
YG:テルミンのような音色のパートですよね? テルミンにしてはメロディーがしっかりとしているし、何の楽器を使っているんだろう…と思っていました。
AKIHIDE:特に複雑なことはやっていないんですけど、この発想が出て来たのはラッキーでしたね。
YG:曲調が全体的に穏やかでありながら、終盤に入ると急に不安定な音階が目立って来ますが、これは何を表しているのでしょうか?
AKIHIDE:聴いた方々の想像にお任せしたいとは思いますが、強いて言うなら、この物語に出て来るのは砂漠のど真ん中に棄てられている錆びた遊園地なんですよ。そこにあるのは砂と風だけ。そしてその砂と風は、穏やかだった時も大変だった時も、ずっとその景色を見て来た…と、そういった色んな気持ちを込めました。
YG:なるほど。そこはぜひ、絵本を見ながら聴いてもらいたいところですね。次の「瓦礫の王様」、これはまず真っ先にベースとピアノのラインが耳に飛び込んできました。
AKIHIDE:砂山淳一くんという素敵なベーシストがいるんですけど、この曲のキーはFなので、運指が超しんどかったみたいですね(笑)。最もテンションがキツい1フレット近辺を押さえ続けなければいけないので、かわいそうなことをしました。ピアノの小林岳五郎くんもすごく頑張ってくれて、デモではもっとたくさん弾いたんですけど、あまりに非人道的だと思ったので間引きました(笑)。ドラムもすごいことになっていて、そんな風にみんなが頑張ってくれたからこそ、こういう疾走感のあるハードなジャズ・ロックができたんだと思います。
YG:AKIHIDEさん的には、ギタリストよりもヴォーカリストとしての役割が中心ですね。
AKIHIDE:そこそこ弾いているんですけど、聴いてみるとギターの音量がちょっと小さいですね(笑)。ライヴではガンガン弾いているので、また違って聴こえると思います。
YG:「砂の海」は曲調自体は穏やかですが、不協和音っぽいストリングスのイントロがあり、エンディングのギター・フレーズも不協和音のアルペジオ。最初と最後が不穏な音で挟まれている構成が面白いですね。
AKIHIDE:最初のノイズ部分は、当初のアイデアには無かったんですよ。ライヴでは砂の海のおどろおどろしさをお客さんに感じ取っていただくため、ああいう音の上で語りを入れていたんですが、いざ音源にする時に「ああ、あのパートは良かったな」と思い出して付け足しました。そこから曲が進むにつれて色々な景色が現れ、最後に現実に戻るのがエンディング。足で踏む音で終わるんですけど、あの音の雰囲気を上手く出すために、エンジニアさんがアシスタントの人に夜な夜なペットボトルを踏んでもらって、その音を録ったみたいです(笑)。そういう細かいところにこだわってくれるのが嬉しかったし、感謝していますね。
YG:この曲にも「My Little Clock」と同様のポリリズムが出て来ますが、こういうネタは普段から溜めているのでしょうか?
AKIHIDE:あれは元々、ルーパーを使う予定だったんですよ。それを敢えて人力でやるところに意味があるというか、不思議なグルーヴが生まれて来るんです。2つのリズムが延々とずれて行くうちに、だんだんトリップするような状態になって、気持ちよくなって来るんですよね。それが面白くて。
YG:最後の「夕凪のパレード」は、ゆったりしたメロディーやコードに対して速いビートを合わせる手法ですが、今作は同様の作り方がわりと多いですよね?
AKIHIDE:さっき言ったように、相反するものが好きなんですよ。そもそもタイトルも「夕凪」という静かな状態と「パレード」という賑やかなものの組み合わせで、そういう曲にしたいと思っていました。周りは穏やかだけど心は賑やかなのか、あるいはその逆なのか…、そこは聴いた方に解釈してもらえれば。
YG:Aメロにあたるパートの右チャンネルで、付点8分系のギター・フレーズが聴こえますが、あれはさすがに人力ではありませんよね?
AKIHIDE:あれはディレイを使っています(笑)。僕はヴィンテージのディレイが好きでいつも使っていたんですけど、ただ困ったことに、録ってみると上手くタイムが合わないんですよ。内蔵クロックがおかしくなっていたみたいで、ミックスしてみると曲が進むにつれてどんどんズレて行く。だから急遽ラインで弾き直し、“Pro Tools”のプラグインでディレイでかけ直して、やっと落ち着きました。だから苦労したフレーズでもありますね。
YG:レコーディングに使用した他の機材についても教えてもらえますか?
AKIHIDE:アンプはフェンダーの“Deluxe Reverb ’68 Reissue”、歪み系ペダルはヴェムラムの“Jan Ray”、KLONの“Centaur”がメインですね。“Centaur”は特に好きなので3台ほど持っているんですけど、弾き比べると個体によって全然音が違うなと改めて思って。今回は絵柄付きのやつが今回1番合っていて、それを使いました。あとはちょっと歪み具合を変えたり、ピックアップの組み合わせを変えたりするくらいで、ほとんどおなじようなセッティングです。
YG:事前にいただいた資料にはボグナーのアンプなどの名前もありますが、歪みが強いフレーズを録る時、たまに使うぐらいですか?
AKIHIDE:そうですね。「プラネタリウム」のリフとか、ああいうロック色の強いフレーズに使っています。それから「Wonderland」のちょっとエッジの効いたカッティングの時に、JMIの“AC30”を使いました。
YG:では最後に、作品に関してオススメの一言をお願いします。
AKIHIDE:僕は日常からふと離れた世界に連れて行ってくれるような音楽、映画、本が好きなんです。だから自分もそういうものを作りたいと思っていました。現実から一旦離れて休憩し、旅に出ることができるような作品ですね。ギターに関しても「どうやって弾いているんだろう?」と驚いてもらえるような、非日常的なフレーズや音色を奏でるようにしているので、ぜひギター好きの方に手に取ってもらえれば嬉しいです。