梶山 章/GOLDBRICK「『THE BOUNDARY』では僕が表現したいサウンドにこだわったんです」

梶山 章/GOLDBRICK「『THE BOUNDARY』では僕が表現したいサウンドにこだわったんです」

本当の魂がパッケージングされていなかったら意味がない

GOLDBRICK - 藤井重樹 & 梶山 章

YG:リッチー・ブラックモアの名前が出ましたが、「Sail Away」のチョーキングで最高音がアウトしそうな変態具合はリッチー的ではないですか?

梶山:いやーそれは…そう言っていただいてありがとうとしか言いようがないですね(笑)。つまりリッチーの音楽を聴いた時の衝撃がそのまま出ているわけです。何も考えずに、「こんな感じかなあ」というイメージだけでギターを弾いたんですよ。どんな時でもそう。このプレイが聴く人からどう見られるかっていうことは気にせず、自分に正直に弾いたらこうなったという感じ。リッチーを聴いて育ってきたんだから、その影響は出て当然ですし、それをあえて封印してしまうのもどうかと思いますからね。尊敬するミュージシャンの猿真似をしているだけだったら僕自身も嫌ですけど、これが僕の考えるロック・ギターですから。プレイもサウンドもリッチーの真似を目指したところで、同じものは出るわけないですし。

YG:アルバムの後半、特に「On The Road」の辺りから、梶山さんのポップ・センスが出た曲が並んでいるなと思いました。梶山さんと言うと何かと様式美のイメージで語られることが多いですが、こういったポップさが本来染み付いているギタリストなんだと改めて感じましたね。

梶山:僕が洋楽に目覚めたのはフィフス・ディメンションの「Aquarious / Let The Sunshine In」(’68年)っていうヒット曲がきっかけだったから、やっぱり僕の好きな音楽はポップなんですよね。ポップな音楽なんてロックじゃない、軟弱だってよく言われていたし、ベイ・シティ・ローラーズだって、あのクイーンだってそう言われていましたけど、僕にはそういう音楽が染み付いているんです。リッチー・ブラックモアだってポップな音楽が好きじゃないですか。それを実現できたのも藤井のおかげですね。こういうメロディアスな曲は自分のスタイルじゃないとか、彼にはそういうのがない。でもそもそも僕ら日本人というのは、こういうメロディアスな音楽になるのが当たり前なんです。ギターもそう。今時のテクニックが凄まじい若いギタリストもそうだけど、僕らがいくら速弾きとかをやったところで、結局その根っこにあるのは演歌なんですよ。どれだけアメリカやイギリスのロックっぽいことをやっても、それは真似に過ぎないし、日本人らしさが出る。それを再確認できたことで清々しさを感じていますね。

YG:いちリスナーとしての印象を言わせていただくと、かつてのGOLDBRICKでは梶山さんの気負いのようなものが感じられたんです。でも今回のアルバムは曲作りにしてもギター・プレイにしても、自然体ですね。

梶山:ええ、とにかく嘘は嫌だと。本当の魂がパッケージングされていなかったら意味がないと思うんです。ギターも本来ならもっと綺麗にまとめることはできたんだろうけど、それだと嘘になるじゃないですか。

YG:それもあってか、インプロヴァイズしているところが多いですよね?

梶山:そうなんですよ。実はピッキングじゃなくレガートを連続でするのが最近は上手くできなくなっていたんです。でも「GLORY」をバーッと弾いている時は何となく気分が良かったので、勢いでレガートしていたら上手くできた気がして、一発録りのテイクを残しました。多分これは二度と同じようには弾けないだろうし、他の曲も全体的に何を弾いたのか憶えてないです。

YG:その時のフィーリングがそのまま出たソロが多いと思います。

梶山:そうそう。「このソロだったらこのフレーズしかないでしょ」ってキメキメになるところと、行き当たりばったりのところがあります(笑)。

YG:それこそ先ほど名前の挙がったクラシック・ロックのバンドだったら、そういうキメと勢い一発のフレーズが混在していることがありましたよね。

梶山:勢いで弾いた部分は、今時のロック・バンドだったらボツになってたでしょう(笑)。「よく弾いた! 頑張った!」っていう感じでいいんですよ。

YG:これがライヴではまた違ったフレーズになるかもしれないですね。

梶山:そうなるでしょう。レコーディングの時の雰囲気をパッケージングしていますから、ライヴだったらまた違う雰囲気になるだろうし。はっきり言ってレコーディングの時にとんでもなく難しいフレーズを弾いて、「どうだ!」とスーパーマン気分になったところで、それを維持するのは大変なんだって、そういう苦労を思い知ってますから。

YG:例えば「Crazy For Your Love」の速弾きですか?

梶山:そう。あれを弾けるようにするために筋力維持の練習をしていても、はっきりいって楽しくも何ともなかった(笑)。

YG:なるほど(笑)。梶山さんにとっても会心の一作ができたということで、今後のGOLDBRICKとしてのライヴ活動にも期待したいですね。

梶山:そうですね。今の所はインストア・イベント(下記参照)が決まってるだけですけど、ちゃんとしたライヴに向けても準備しています。以前はライヴをやるのが嫌だったんですよ。手は動かないし、震えるし。でも’14年ぐらいからはそれまでライヴをやれなかった分を取り返すように、セッションを沢山やらせてもらいましたし、GOLDBRICKでもそれぐらいの勢いでライヴをやっていきたいですね。

YG:ところで最近、リッチー・ブラックモアがハード・ロックに復帰してライヴを行なっていますよね。現在の彼のプレイは聴きましたか?

梶山:聴きましたよ。これについて言いたくて言いたくて仕方なかったんです(笑)。僕は現在のリッチーのプレイを聴いて、もう感動に震えましたね。だって指先から出る音質が何も変わっていないんですから。指の手術をしたから昔と同じようには弾けないけど、魂は再現する。その「変わってないぜ」っていう心意気が涙ちょちょ切れものだったんですね。「リッチーはもう弾けなくなったんだ」っていう意見も聞きましたけど、リッチーの何が好きなのかっていうところに評価が左右されるんでしょう。僕はリッチーの何が好きかと言うと、やっぱり一発の音の説得力なんですよ。例えば「Speed King」の『24 CARAT PURPLE』(’75年)ヴァージョン、あのオープニングの“バーーーーン”という一発の音に衝撃を受けたわけです(笑)。カリフォルニア・ジャム(’74年)のオープニングの4弦開放のD音…あのロー・コードの響きなんか最高じゃないですか。

YG:凄く細かい話ですけど、凄く共感できます(笑)。

梶山:ねえ。だから「弾けてなくてダメだ」ってがっかりする人は、ああ、“弾けてるリッチー”だけが好きなのかと。そういう意見も否定はしないですけど、共感はできない。しかも最近の映像を観るとシングルコイル・サイズのハムバッカーを使っているようでしてね。そういうものを使ってもリッチーの音が出るんだから、もうこの人には機材なんて関係ないんでしょうね。

INFO

アルバム『THE BOUNDARY』発売記念イベント

日程:2018年10月4日(木)
会場:dues新宿
詳細・お問い合わせ:GOLDBRICK『THE BOUNDARY』特設ページ | ワードレコーズ・ダイレクト