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「50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしています」現在の最高経営責任者が語るギブソンの未来:James “JC”Curleigh/CEO of Gibson

「50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしています」現在の最高経営責任者が語るギブソンの未来:James “JC”Curleigh/CEO of Gibson
インタビュー&文●坂東健太 Kenta Bando

2018年11月1日からギブソンのCEOに就任しているジェイムズ・カーレイ氏が、2019年10月某日に来日を果たした。ご存知の通りギブソンは昨年5月に経営破綻に陥っており、氏はその再生請負人として抜擢された人物。ジーンズの老舗ブランドとして知られるリーバイスのCEOをかつて務め、再建に最大限の貢献をしたことでも知られる。その華麗なる経歴をお聞きすると共に、ギブソン・ブランドの向かう将来のヴィジョンについてたっぷりと語っていただいた。

ギブソンには“本物志向のストーリー”がある

YG:まずは自己紹介がてら、ジェイムズさんがギブソンのCEOになられた経緯を簡単に教えていただけますか?

ジェイムズ・カーレイ(以下JC):周りからは頭文字を取って“JC”と呼ばれています。今はギブソンのCEOに就任していますが、以前はリーバイスというジーンズの会社に務めていました。そこでは7年働き、リーバイスというブランドとライフスタイルの関係の見直しを行ないました。非常にエキサイティングな年月でしたね。その前はキーンという会社の立ち上げに携わりました。これは靴のブランドですね。その前はサロモンという、靴やスポーツ関連の会社のCEOを務めていました。

YG:様々な異なる業種に携わってこられたわけですね。

JC:世の中にスポーツ好きな人は多いですし、ファッションも音楽も好きな人は多いですよね。私はいわば、人生の3大要素すべてに関わって来たんです。どの会社でも毎回、そのブランドの経歴から振り返りつつ、将来に向けてどう育てていくかといったことを学んで来ました。

YG:それに加えて、製菓会社のマースにも携わっていましたね。

JC:ええ、マースは私の原点で、M&M’Sというチョコレート菓子で有名な会社です。ですから先ほど言った中に、食品も加えなければいけませんね(笑)。食品、スポーツ、ファッション、音楽…、関わっていないのは旅行関係ぐらいでしょうか? ただ、ギブソンにはこの先ずっといたいと思っていますけどね。

YG:例えば最初のマースでは、具体的にどういう仕事をされていたんでしょうか? 

JC:当時はカナダの大学を卒業したばかりで、私はロンドンに引っ越そうと思っていたところでした。就職先として色々な会社を調べていた中で、マースに入らないかという話をもらったのです。色々なことをしましたよ、プロジェクトを新しく立ち上げたり、スポンサーを探したり…。中でもオリンピックのスポンサーになれたことは、非常に興奮するできごとでした。チョコレートの未来を変え、新しい形にしていくチームの一員だったんです。

YG:そんな風にどのキャリアにおいても、ブランドが次にどういう風に進んでいくかを舵取りするような、そういう仕事をやってこられたわけですね。

JC:そうですね。新しいヴィジョンを作り、成長につながる施策を行なっていくんです。それと同時に、週末にはバンドでギターを演奏する生活でした(笑)。私の妻はソニー・ミュージックに務めていたので、ロンドンでの生活は音楽にどっぷりつかっていましたね。私の人生には常に音楽があったんですよ。それは個人的な情熱の話ですけどね。仕事においては、ブランドのヴィジョン構築に貢献し、ビジネスチームを作って、今までに行けなかったところへ到達できるよう模索することに情熱を捧げています。それを続けることで、ある日突然新しいことが可能になるわけです。

YG:全く異なる業種の会社に移る前は、もちろん徹底的に知識を仕入れるわけですよね?

JC:そうですね。最近のリーバイスを思い出してみて下さい。リーバイスは最初にブルージーンズを発明した会社で、それを象徴する歴史があります。一方、世代の異なる若い人たちに合わせて戦略を練ることも必要です。そこでリーバイスでは過去の歴史を生かしつつ、新しいライフスタイルを作り出すためのアイデアを考えました。そうすることであらゆる世代がつながっていくわけです。ギブソンにも同じように長い歴史があり、それはとても大切にすべきものですよね。ただギター界にも次世代の若いユーザーがたくさんいて、彼らに自社製品を理解してもらわなくてはいけません。このように、リーバイスとギブソンには共通点があるんです。どちらもギブソンはもう100年以上存在する会社で、リーバイスも同様。どちらも過去に発明を生み出したブランドで、それは大きなauthenticity(信頼性、確実性)をもたらします。

YG:authenticityというのは興味深い表現ですね。具体的にどういう意味か、もう少し細かく話していただけますか?

JC:例えばリーバイスは、リーバイ・ストラウスという人間が興した会社です。ギブソンも1人の人物によって作られました…オーヴィル・ギブソンですね。マンドリンを手作業で製作するところから、このブランドは始まっています。彼が演奏し、理解を深め、明確な目的を持って製品を作り出したところからスタートしたわけです。それが100年以上前のことですから、ギブソンにはただ製品がたくさんあるというだけでなく、人と人との物語や職人の技術、細部への配慮といった積み重ねがあります。そうやって時間をかけて作られていくのがauthenticityです。言い換えるなら“本物志向のストーリー”といったところでしょうか。

YG:ちなみにジェイムズさんは昔から音楽を演奏していたわけですから、ギブソンのCEOになる際はそれほど勉強する必要はなかったのでは?

JC:そうかもしれませんね。マースに入る前にはM&M’Sもスニッカーズも食べていましたし、サロモンに入社する前も、以前から私はスキーやスノーボードをやっていました。リーバイスにしても同様で、子どもの頃からずっとジーンズを履いていたんですよ。そして成長するにつれてギターを弾くようになったわけです。ですからもちろん、ギターに関しては入社する前からある程度知識がありました。レスポールやSGのことは知っていましたし、“ES”や“J-45”も知っていました。ギブソンのギターはすべて弾いたと言ってもいいでしょう。ただ、音楽のビジネスを知っていたか…と聞かれたら、それほどではなかったと答えざるを得ません。でも早く吸収するのは得意なんです。今はギターの作り方も1から学んでいるところで、長い時間を工場で過ごしています。加えて市場をじっくりと見ながら、アーティストやユーザーの意見に耳を傾けているところです。決して大変な勉強ではありませんが、とにかく耳を傾けて聴くことが大事なんです。