「50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしています」現在の最高経営責任者が語るギブソンの未来:James “JC”Curleigh/CEO of Gibson

「50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしています」現在の最高経営責任者が語るギブソンの未来:James “JC”Curleigh/CEO of Gibson

「新しいギブソンが大好きだ」と思ってもらいたい

YG:単刀直入にお聞きしますが、ジェイムズさんが関わる前のギブソンは、何が問題だったのだと思いますか?

JC:大きな問題は、ヴィジョンがあってもそれを実現できなかったことでしょうか。当時のギブソンは、ギター以外のカテゴリーに参入しようとしていました。例えばエレクトロニクスです。ただ私が思うに、ギブソンは素晴らしい楽器の工場や製造者、技術を備えた会社であっても、工業製品のブラックボックスを作る会社ではありません。つまりコアビジネス外のものをたくさん買収する必要がありました。そこに予算を大きくつぎ込んだことで、大きな赤字を生み出してしまい、結果ギブソンという船は一度沈んでしまいました。決してギターのせいではなく、ギターから外れたヴィジョンを見ていたわけです。今、私たちはそれを建て直し、ギターを中心に物事を考え直しているところなんです。

YG:私たちギター・ファンからすると、ギブソンというブランドは今やギター界の象徴ともいうべき存在なので、おそらく何があってもこの先なくなるものではないだろう…という確信はあるんです。ただ、結局何が問題だったのか分からないと、不安になる人も多いと思うので。

JC:確かに偉大なブランドが決して死に絶えることはないと思います。そしてどのように再生されるかがとても重要で、私たちはギブソンの新しいヴィジョンを創造しているんです。最もrelevant(適切)で、最もたくさんの人に演奏される楽器を作ること、そして最も愛されるギター・ブランドに再びなることを考えています。それが今のヴィジョンであり、そこに向かっています。

YG:relevantというのも、ちょっと面白い表現ですね。

JC:言い換えるなら、正しいギターを作るということです。みんなが弾きたくなるようなギターですね。「ああ、これはいいギターだな! 音も良いし弾き心地も良いし、感触も良い」ということです。on trend(時代に合っている)と言ってもいいでしょう。時代に適した製品を作ることなのです。「新しいギブソンが大好きだ」と思ってもらいたいんですよ。もちろんヴィンテージのギブソンでも良いですが(笑)。

YG:つまり、求められていないものは作らないということですね。

JC:その通りです。もちろん、ギブソンは常に新しく発明的なソリューションを提供する必要があります。単に目新しいだけではなく、真に画期的なものを生み出せば、どんなブランドでもたいてい成功します。例えば何年か前のギブソンは、すべてのギターに自動チューニング・マシンが付いていました。あれは残念ながら、真の発明とは言えません。全員が受け入れられるものではなかったんです。悪い案ではなかったのかもしれませんが、「要らない」という人が多く出て来れば、下り坂に向かうだけです。ちなみにギブソンUSAの現在のラインナップは、“Original Collection”と“Modern Collection”に大きく分かれています。このうち前者に関しては、原点を重視するモデルを作れば良いわけです。一方後者においては、色々な試みを行なうことができます。新しいアイデアを試したり、新しいパーツを入れたり、新しいシェイプを作ったり、はたまた現代的なプレイヤーに異なる弾き方を提案したり。アーティストから新しいアイデアを聞き出すこともできます。しかし、まずはオリジナルに忠実に作ることが何よりも先決です。

ギブソン“Les Paul Standard '50s”
ギブソン“Les Paul Standard ’50s”(写真●ギブソン)

YG:昔からギブソンは、カスタム・ショップで“Historic Collection”などのモデルを30年近くにわたって作り続けてきましたから、伝統を守ることに関しては得意ですよね。

JC:ええ。最近のカスタム・ショップは特に、過去に製造されたモデルにどこまでも限りなく忠実に再現することに、ものすごい力を注ぎ込んでいましたからね。木材、製法、セット・ネックの仕込み、どんなタイプの材を使うのか、フィニッシュの種類、電気系統…。過去の製品そっくりそのままのレプリカを作っているのです。それがカスタム・ショップのやっていることです。バースト・レスポールが60周年を迎えたことを記念して、大々的に祝っていたりもします。それにスラッシュのダブル・ネック・ギター。今作っているのはチャック・ベリーの“ES-350T”で、カスタム・ショップが自ら世界一だと改めて銘打ち、完璧なレプリカを作り上げています。加えて、新しいギターのアイデアもどんどん出しています。「こんなのはどうだろう?」といったやり取りを頻繁にしていますし、新しいシェイプも常に考え続けています。

YG:それが“Modern Collection”にも通じるわけですね。ちなみにジェイムズさんが考えるモダンというのは、具体的にどういうものでしょうか? 

JC:多くのギタリストが過去のスペックを活かしたギターを求めることは分かっていますが、一方で「ギブソンにもう少し現代的な仕様を取り入れてもらいたい」といった要望もありますし、さらに「重量が大き過ぎる」「細身のネックがほしい」といった細かいリクエストも上がってきました。様々な音を出せるようにしてほしいとか。そういった要望に応えるのが“Modern Collection”です。こちらでは例えばボディー内部にウェイト・リリーフを設けたり、非対称ネックやコンパウント・ラディアスを採用していたりします。プッシュ・プル・スイッチを備えたものもありますね。そういったモダン・スペックであっても、ギブソンならではのクラシックな仕様は残っているわけで、ユーザーは両方を手に入れることができるわけです。

YG:ラインナップを見ていて思ったんですが、そういった新しい仕様を「外から見ても分からない」ような絶妙なバランスで取り込んでいるように思いました。これは意図的なところですよね?

JC:その通りです。オリジナルが完璧であることをまずは確認した上で、じゃあ現代のギタリストがネック形状や指板R、重量バランスなどにどんな要素を求めるのか、それをじっくり考えました。ですから一瞬見ただけでは違いに気付きませんが、プレイしてみれば良さが分かるんです。例え方を変えてみましょう。リーバイスの“501”はギブソンのレスポールに当たります。これが原点であり、ブランドを有名にした1つの製品です。それを重要視する必要はありますが、未来も重要視する必要があります。リーバイスでは“501”を作り、テーパード・スタイルや女性用のショート・パンツなど、ライフスタイルに合わせて様々なものを作っていきました。レスポールもオリジナルやモダン、ハイ・エンドのカスタム・ショップからギブソン・インスパイアの入ったエピフォンまで、様々なモデルと共に旅を続けていくことになります。いかに“501”の歩んできた過去を次世代に印象づけるか、それはレスポールでも同じです。やりがいのあるチャレンジですよ。

James “JC”Curleigh/CEO of Gibson