現在のギブソン最高経営責任者、ジェイムズ・カーレイが語る未来「50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしています」James “JC”Curleigh/CEO of Gibson

現在のギブソン最高経営責任者、ジェイムズ・カーレイが語る未来「50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしています」James “JC”Curleigh/CEO of Gibson

ベストなブランドというのは、粘り強くソリューションを追究するもの

YG:過去のギブソン製品とは見た目から全く異なる、超斬新なモデルを作る予定は今のところないわけですか?

JC:これまでに携わってきた仕事から学んできたことですが、まずは自分自身に正直であることが大切です。正真正銘の本物になるべきで、すなわちそれはクラシックなバースト・フィニッシュのレスポールであり、ダブル・カッタウェイのSGであり、アコースティックでいえば“J-45”などです。歴史のDNAを示す責任があります。これが第一。過去を忘れて未来に進もうとしても、上手くいきませんからね。ですから昨年は、基礎に忠実に製作を進めていきました。ただこれから数年は、新しいシェイプを考えても良いのではないかと思っています。より若いアーティストを招き入れれば、もしかしたらこれまでに考え付かなかったソリューションを見付けられるかもしれません。時を遡ってみましょう。1959年から1960年代前半はギブソンの黄金時代で、たくさんのことが起きました。レスポール、SG、フライングV、エクスプローラーが生まれ、ロックンロールが変化しました。音楽シーンにとって、当時の約7年間は魔法のようでした。同じように、ここからの7年間でギブソンにどんなことが起きるか、考えてみるとワクワクしませんか? 今から30〜40年後の人たちが「2020年はすごい時代だったなあ! 新しいシェイプや新しいサウンド、新たなギターの作り方が確立された。ギブソンはまたしても黄金時代を作ったんだな」と語られるようになったとしたら。大きなチャレンジではありますが、ぜひチームとして取り組んでいきたいと思っています。1つ言いたいのは、50年前の歴史はとても大事ですが、今の私たちも変化を起こしているということなんです。

YG:確かに、私たちが生きている間にギブソンから全く新しいシェイプのギターが出てきて、それが定着したらすごく嬉しいですね。

JC:それが新しいヴィジョンです。ただ現代というのは、物事が一瞬で判断されてしまう時代ですよね。今何か新しいことをやったとしても、基礎ができる前に「駄目だな」と言われがちです。ベストなブランドというのは、粘り強くソリューションを追究するものなんです。周囲から「それは違う」と言われ続けても、「分かっているけど、このやり方をすればより上手くいくんだ」と思い続けることです。大事なのは、アーティストの意見にもっとしっかり耳を傾けることでしょう。昔ながらの考え方をせずに生きてきた、次の世代を担うアーティストの話を聞いてみる。彼らはデジタル時代で、もっと素晴らしいアイデアを持っている、スタートアップ・カルチャーなんです。例えば、ホテル業とAirbnb(註:宿泊施設や民宿を貸し出す人向けのウェブサイト)の違い。映画ビジネスとNetflix。タクシー業とUber。そういうことを考えるんです。これらは未来に焦点を当てたビジネスで、ギブソンも125歳にしてスタートアップしていくべきなんです。

YG:私たちがイメージするギブソンのアーティストと言えば、やっぱりジミー・ペイジだったりスラッシュ、ジョー・ペリーなどですよね。彼らはもちろん素晴らしいギタリストですが、確かにもっと若いギブソン・ユーザーのスーパースターが出てきてほしいとも思います。

JC:同感です。これまでの遺産は大切ですし、私はギブソンを弾いてきてくれたミュージシャンのことが大好きです。レス・ポールは彼自身ミュージシャンでしたしね。他にもギブソンを手に取ってくれた人たちはたくさんいます。エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス…。ただ、あなたの意見は全くもって正しいですよ。次世代を担うギタリストは誰なのか、それは私たちの課題でもあります。例えばグレタ・ヴァン・フリートという若いバンドが最近出てきたおかげで、最近はSGを弾く人が多くなりました。それからポスト・マローンは“J-200”を弾いていたはずです。彼のことはグラミーの授賞式で見かけましたが、異なる音楽ジャンルにも目を向けている素晴らしいミュージシャンですね。カントリーの盛んなナッシュヴィルにも、ギブソン・プレイヤーは大勢います。他にエピフォンも入れると、ものすごくたくさんの人が私たちのギターを手に取って音楽を始めています。ザ・ビートルズ、オアシス、ゲイリー・クラーク・ジュニア、ピーター・フランプトン…みんな、初期の頃にどこかでエピフォンを使っていました。そういったことが次の世代につながってくれるといいなと思っていますね。そうそう、最近新しい試みを始めたんです。“G3(Gibson Generation Group)”という、若いミュージシャンが集まるためのプロジェクトで、日本出身の人もいますよ。世界中どこの出身でも、若いギタリストであれば彼らをサポートし、未来のギター・ゴッドになる手助けをするんです。今私たちは、過去と同じぐらい未来のことを考えています。常にチャレンジはつきまといますが、スポーツで考えてみると、伝説的なアスリートが登場した後も次々と新しい才能が出て来ています。ギブソンでもそういう考え方をしなくてはならない。新しいギター・アスリートを支えていかなければいけません。

YG:アーティストのシグネチュア・モデルでいうと、ファイヴ・セカンズ・トゥ・マーズのマイケル・クリフォード・モデル、あれは“Melody Maker”が元になっていますよね。今の若い世代があまり知らないシェイプなので、逆に新しいものに見えるところが、ちょっと面白かったです。

エピフォン“Michael Clifford Signature Melody Maker”
エピフォン“Michael Clifford Signature Melody Maker”(写真●ギブソン)

JC:ええ、そこがまさにポイントで、ギブソンには過去に作ってきたモデルがたくさんあります。それらに手を加えれば、より新しく感じるものを生むことができるんです。“Melody Maker”の他にも、ダブル・カッタウェイだったり、“ES”シェイプだったり。“ES-335”も今また、多くの人に愛され始めているんですよ。デイヴ・グロールがトリニ・ロペス・モデルの“ES-335”を弾いてしばらく経ちますし、ジェイムズ・ベイも弾いていますよね。それにチャック・ベリーが弾いていたモデルを、最近の若い人たちも弾いているんですよ。私たちにとって“ES”は非常に伝統的なギターですが、それを新しいと感じさせる必要があります。日本のアーティストも増えていますよね。特に生形真一(ELLEGARDEN/Nothing’s Carved In Stone)、この人は面白いと思いました。

YG:確かに長い歴史を持つギブソンのようなメーカーだと、昔生産終了したギターを新しいアーティストが使い始めて、急に注目されることは多いですよね。

JC:正直に言って、昔のギブソンはアーティストが私たちをどこに連れていってくれるのか、知る由もありませんでした。スラッシュやキース・リチャーズなどがレスポールを使って作る音楽は、それまでと全くタイプの異なるものでしたから。思い出してみてください。1950年代後半から1960年代初めにかけて、フライングVは全く流行りませんでしたよね。酷いものでした(笑)。エクスプローラーやフライングVのようなモデルは、当時あまりにも先進的でした。でも今の時代ならピッタリです。ですからどんなブランドにも、歴史の中では軽視されていたとしても誰かに見出され、突然意味のある楽器になることがあります。それがギブソンの魔法で、エピフォンにもそういうことがあると思います。何より独自性があり、ギブソンよりも古いクールな歴史がありますから。

YG:ちなみに生産の拠点として、ナッシュヴィル工場にこだわり続ける理由は何なのでしょうか?

JC:3つ理由があります。1つ目は、ナッシュヴィルがアメリカ有数の音楽の街であること。2つ目は、ナッシュヴィルを我々のホームだと考えているということ。本社がありますし、かつてのメンフィス工場の施設をナッシュヴィルに移して“ES”の生産も行なっています。そして3つ目に、カスタム・ショップもここにあります。つまりナッシュヴィルで、ギブソンが発売するすべてのエレクトリック・ギターが生産されているんです。USA製であること、クラフトマンシップを活かした細部にこだわる製法を採用し続けること、さらに現代的な工場の設備を持ちながら過去の遺産も受け継いでいること。これらはとても大事ですね。

YG:アメリカでの物作りにこだわっているということですね。

JC:そうです。単なるメイド・イン・アメリカというだけでなく、プライドを持って作っています。アメリカの職人技がありつつ、その精神を受け継いだ海外製品もあるということです。

YG:では最後に、日本のギブソン・ファンに一言メッセージをお願いします。

JC:私は日本が大好きです。家族を連れてくるほどですし、何度も訪れています。日本文化は過去への尊敬と未来を考えるバランスが、最も良く取れていると思いますね。過去に忠実でありつつ未来に新しいアイデアを持ち込んでいく、その過程において日本はいつも参考になります。日本から新しいアーティスト、新しい考えが出て来ること、新しいコラボレーションができることを願っています。ザ・ビートルズやジョー・コッカーが「With A Little Help From My Friends」(註:友達の助けを借りて、という意味)という曲を歌っていますが、私たちもこれまでギブソンを支えてくれた日本の友人たちに感謝しています。これからの未来も一緒に考えていければ嬉しいですね。

James “JC”Curleigh/CEO of Gibson