SUGIZO『愛と調和』YG掲載インタビュー後編「本当に理想とする世の中を実現するため、僕はこれからも動いていきたいし生きていきたい」

SUGIZO『愛と調和』YG掲載インタビュー後編「本当に理想とする世の中を実現するため、僕はこれからも動いていきたいし生きていきたい」

YOUさんが書いた僕の好きな曲の中でも、一番この曲に「祝福」を感じた

SUGIZO

YG:6曲目「The Gates of Dawn」。これもすごく楽器数が少ない曲で、しかも大きく2つぐらいのコードでゆったりと時間が過ぎていく…。こういう曲を作る時はやはり、精神をそういうモードに入るよう持って行ってからレコーディングするわけですか?

S:どうかなあ、これは自然にできてしまった曲なので。ある意味、フリー・ペインティングみたいなものですよね。作り始める段階からもう、自由に音をぶち込んでいく。音色の集積というか、コラージュですね。むしろメロディーやハーモニーといった、つまり人が聴きやすいと感じる要素は、本当に後半になってようやく出てきます。

YG:それは少しミュート気味に刻んでるギターだったり?

S:そうですね、それとピアノ。ゆったりしたアルペジオなんですけど、それがまずはギターで出てきて、それをピアノに置き換え、さらにミュートしたギターでディレイを絡ませるシーケンス・フレーズが生まれて…。そして最後にヴァイオリンで、何かこう、生命力を加えたかった。

YG:インプロと計算と、降りてくるような感覚が、絶妙に全部ミックスされてる感じですね。

S:ありがとうございます。実はこのパートは、シンセもとても重要で。相当なアナログ・シンセ、モジュラー・シンセ大会でしたね。

YG:7曲目「Mindfulness」。おそらくギターのヴァイオリン奏法やアーミングだと思うんですが、色々な弾き方でかなり自由に空間を作り出している印象です。これもやはりインプロ的にできた曲でしょうか?

S:実はギターのハーモニーからできた曲ですね。これと1曲目の「Nova Terra」は、自分なりの変則チューニングから生まれるすごく新鮮な響きから誕生しています。

YG:後半に…これは神楽鈴ですか? また別の美しい音色が出て来ますが、実はどんな調にでも合うわけではありませんよね。この鈴の音が先にあって、そこから全体の調を決めたのかな…とか、色々考えたんですが。

S:これはたまたまキーが合ったんですよね。実は自分の中では、この曲が最も、今回表現したかったことを実現できていると思うんです。意識が完全に、いわゆる高次元とつながってるイメージ。いい音で演奏しようとか、かっこいい音楽を作ろうとか、そういう自分を自分が認識していない。ただ音を出す道具になっているだけ。自分の肉体や意識、欲望とか、あらゆるものが宇宙とつながっている。瞑想で入り込んでいるような…。最も深くまで追い込んだヒーリング・ミュージックができたと思います。

YG:8曲目「CHARON 〜四智梵語〜」。最も際立つのは僧侶による声明(しょうみょう)ですよね。そこにエレクトリック・ギターが合うというのは、なかなか初めての体験でした。

S:実は一昨年、京都である素晴らしいイベントに参加した時に、僕のギターと真言宗の僧侶の方々とでセッションをやったんです。それがものすごく良くて、ギター・インストと声明が合うということをそこで確信しました。それを自分の作品に持ってきた感じですね。そのイベントをプロデュースされた立川直樹さん、僕がとても信頼する大プロデューサーがいらっしゃって、その方の導きで今回のセッションも実現しました。

YG:僧侶の方々に、スタジオに来ていただいたわけですか?

S:そうです。8人かな? イベントでご一緒したときは多分12〜15人とか、もっと多かったと思うんですけど。声明はね、いわゆるオーヴァーダブができないんですよね。一発録りなんです。彼らにクリックを聴きながらやってくださいと言うのは難しいので(笑)。最初は8人だと少ないかと思ったんだけど、全然そんなことなかったですね。

YG:全身が共鳴しているような声ですよね。

S:そうなんです。今回は音を鳴らしている場の周辺のエネルギーを録ることがとても重要で、先ほどの神楽鈴もそうですし、尺八もそう。パイプオルガンもまさにそうですね、あれはホールに行って録るわけですから。

YG:あとは笙(しょう)ですね。

S:笙もそうです。実は残念ながら、笙の奏者さんだけは今回タイミングが合わなくて、僕が持っているサンプルを使ったんですよ。それだけは残念でした。ただ、そのサンプルもものすごくレベルが高いものなので。それにあと、岩笛という楽器があって。途中からびゅうううっという音が出てくるでしょう? あれがとても重要。実は縄文時代から伝わっている楽器で、自分の中ではそこにつながるのがとても大事でした。

YG: 9曲目「光の涯」。これはもともと『ONENESS M』の時、DEAD ENDのMORRIE(vo)さんと一緒に作った曲ですよね。ただ歌い手が変わるともう、全く印象が変わってしまいますね。

S:そうですよね。今回のヴァージョンはもともと、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のエンディング・テーマとして作ったものなんです。そのお話をいただいてサンライズさんと内容を詰めていく中で、どうしても「光の涯」が自分の中でどんどん大きくなって。MORRIEさんとこの曲を作った時は、もちろんガンダムとは一切関係がなかったんですけどね。でも実は詩の内容やメロディー、曲想全体、曲の存在自体がとってもガンダム的で、「この曲がガンダムには絶対必要だ」と思えたので、敢えてセルフ・カヴァーをさせてもらうことにしました。で、MORRIEさんが書いたすごく観念的な詩を、その反対側にいる純粋無垢な少女のような子が歌ったら、絶対に新しい感動があるはずだと。

その自分の予想をはるかに超えた素晴らしいパフォーマンスを、アイナ(ジ・エンド)ちゃんが実現してくれました。

YG:SUGIZOさんの中では、アイナ・ジ・エンドさんはそういうイメージが強いわけですね。

S:感覚で動いている子で、それがものすごく研ぎ澄まされている。天才ですね。だから細かい観念的なこととか、詩の哲学的な内容をきっちり理解しなくてもいいから、本能でやってほしいとお願いしたんですね。miwaちゃんの場合は逆で、完全に理解をしてもらおうとしたんです。彼女は数ヶ月かけてそれを学んでくれました。でもアイナちゃんには何故かそうじゃない逆のアプローチで、この曲に接してほしくて。

YG:この曲のバッキングで弾いてるのは、アコースティックですか?

S:すべてアコースティックですね。

YG:これがすごく面白い音で、アコースティック・ギターであるにもかかわらず、ちょっと無機質なイメージがあるんですよね。ベロシティがずっと一定のまま続いてるような。これは弾き方でそうなっているわけですか?

S:弾き方ですね。でも同時に、原音と同じぐらい強くディレイがかかっています。イントロから最初のサビまではギターは1本だけで、そこにディレイが2つ、つまり3本分の異なるタイムの音が絡んでくる。重層的に聴こえるんですが、やっていることは高速のアルペジオだけ。実はディレイなしで聴くと、それなりに自然に揺らいでいます。

YG:そして本編最後の10曲目、「So Sweet So Lonely」。これはDEAD ENDのカヴァーですが、ご自身のアルバムをカヴァー曲で締めるというのは、何らかの意図を感じますね。

S:これはもう間違いなく、YOUさんの追悼がしたかったということです。YOUさんが亡くなったのが2020年の6月で、ちょうど僕がこのアルバムのコンセプトを追求していた頃。急に亡くなられたことがあまりにもショックで、ふと今回の作品で追悼ができたらと思ったんですね。YOUさんが書いた僕の好きな曲は本当にたくさんあるんですが、その中でも一番、この曲に「祝福」を感じたんですよ。そして感謝や慈しみといった気持ちを持って、YOUさんの魂があちらへ旅立つお手伝いをしたかった。それでこの曲をチョイスしました。

YG:先ほどの話にもあった通り、1つ前の「光の涯」はもともとMORRIEさんと作った曲じゃないですか。絶妙につながっていますよね。

S:そうなんですよね。不思議なんですが、たまたまなんです。ちなみにそもそも自分のオリジナル・アルバムにカヴァー曲を入れるのって、実は初なんですよ。カヴァー自体はよくやりますが、アルバムとしては考えてみたら初めて。それがYOUさんの追悼というのは、こんなに光栄なこともないと思います。

YG:私も先ほど、DEAD ENDの原曲をあらためて聴いてみたんですね。そうするとギターのフレーズが、6曲目の「The Gates of Dawn」に少し通じるところもあったりして。

S:そう、これもたまたまです。YOUさんと僕はお互いにディレイをからませて演奏するのがすごく好きだったので、そういった部分での共通性もありますね。

YG:そもそもYOUさんはSUGIZOさんが受けてきた影響の中で語ると、どういう位置にいるギタリストなんでしょうか?

S:僕のルーツとなった日本の三大ギタリストがいらっしゃるんです。最初に影響を受けたいまだに大きな存在が、土屋昌巳さん。いまだに到底かなわない憧れ中の憧れが、渡辺香津美さん。そして10代後半に最も影響を受けたのが、YOUさんなんですよね。とてもありがたいことに、近年はこのお三方ともすごく親しくさせてもらっているんですが、そのうちの1人が先に逝ってしまうなんて…。僕の方が若いから仕方ないことかもしれないけど、喪失感が大きいです。特にDEAD ENDの影響というのは、結成当時の僕らには計り知れないものがあって。LUNA SEAの初期はかなりDEAD ENDの影響下にあったと思います、コンセプトも演奏のイメージも。それは僕だけじゃなくて、RYUICHI(vo)もJ(b)もそうですね。

YG:1曲目からずっとヒーリング・ミュージックが続いた中で、最後のこの曲の中間部に、ギターのツイン・ハーモニーがあるじゃないですか。「ここはロックだな」と思って、何か妙にグッときたんですよね。

S:敢えてこの曲のギター・フレーズは、ほぼすべてYOUさんが弾いたままなんです。ヴァイオリンのためにキーを変えてはいるし、もともとバンド・アレンジだったものをアンビエント・アレンジにはしていますけど、それもベースとドラムを抜いたぐらいなんです、実は。ほとんど原曲のアレンジを踏襲したかった。だからギター・ソロも、極力YOUさんのイメージに近付けて弾いたつもりです。どうしてもそうじゃないところは出て来ますけどね。あとはYOUさんが歪んだ音でアルペジオを弾いていたところを、クリーンに変換したり。ちなみに魂を送るというイメージには、僕の中でパイプオルガンがすごく重要だったんです。それでこの曲にはふんだんに使ったんですけど…実はDEAD ENDも当時、同じようなパイプオルガンのサンプル的な音を使ってるんですね、デジタル・シンセだと思うんですけど。さらにもう1つ、祝福のイメージでとても重要だったのが、チューブラベルズ。実はそれらしい音もDEAD ENDは使っていたんですね。そんなところも実は、もとのアレンジをかなり活かしていると言っていいと思います。