今だからこそ音楽を始めとするあらゆる芸術やエンターテイメントが、僕らには必要
YG:続いてPremium Editionの[Disc 2]に収録されている2曲について。それぞれ20分台、16分台というかなりの長さですが、これは2019年7月7日と8日に行なわれた“SUGIZO聖誕半世紀祭”での演奏を、ライヴ・レコーディングしたということですね?
S:そうです。2日間のオープニング・アクトとして演奏した時のテイクを、丸ごと収録しました。
YG:まず谷崎テトラさんとのユニットであるS.T.K.の「Rokkasho」ですが、構成としては、前半は完全なインプロヴァイズということでしょうか?
S:そうですね。後半も僕はインプロなんですけど、トラックを出しているテトラさんはDJ的にどんどんその場で音を抜き差ししています。
YG:どういうタイミングでどういう合図があって、何故ここでこう展開するんだろう…という、セオリーが見えない状態が続くのが不思議で不思議で(笑)。これはライヴならではのマジックということなんでしょうか?
S:そうですね、ただテトラさんはある程度構成を考えながらやっていると思います。それに対して僕はもう、ほぼリハなしに乗っかる感じ。
YG:すごいですね。20分もの尺を破綻させることなく、頭の中で構成して再現する、その時間把握能力が。
S:テトラさんは本職が構成作家なので、もともと得意なんですよ。ただ最初の10分ぐらいはほぼインプロで、リズムが出始めたぐらいから段々と曲になっていく…、つまり最初はそれぞれのパーツが場を浮遊しているんです。それが徐々に重力に引っ張られて集積し、楽曲という態になっていく。何か、星が生まれる時のようなイメージですね。
YG:そこに敢えてノー・プランで挑もうとするSUGIZOさんも、とてつもないですが。
S:S.T.K.はずっとそうなんです、この形でもう15年やってますから。テトラさんが基本は仕込んでくるけど、それを本番で解体していく、最初からそういうコンセプトなので。ある程度サウンド・チェックはしますけど、あまりリハーサルもやらないですね。
YG:SUGIZOさんの中のインプロヴァイザーとしての側面を引き出すためのプロジェクトということですね。
S:そうです、あと同時にエレクトリック・ヴァイオリンに特化するということですね。
YG:2曲目の「Multiverse Traveler」は、HATAKENさんとのユニット。これもやはりギターはインプロヴァイズですか?
S:そうですね。そしてHATAKENさんのモジュラー・シンセも、完全にインプロです。音色やシーケンスのデータはあらかじめ何となく仕込んでいますけど、それをどう演奏するは、もうその場次第。このSUGIZO×HATAKENユニットの音は、完全に即興で生まれていると言っていいですね。例えばあらかじめデータがあるものを出しながら、それをDJ的に抜き差ししたり即興で演奏を加えたりするのがS.T.K.だとすると、HATAKENさんは同期していないし、シンセのシーケンスだけで成り立っているので、フレキシビリティははるかに高いです。
YG:モジュラー・シンセというものをステージでああいう風に演奏する姿は、若い世代だと初めて見る人もけっこう多いですよね、おそらく。
S:そうでしょうね。でも実はかなり古い楽器で、そろそろ60年ぐらいは歴史がありますよね。それがああいうユーロラックの形式になってから…それでももう20年は経つのか。だから決して、誰もが見たことない珍しい楽器だとは思わないですけど。ただもちろんモジュラー・シンセをああやって非常に音楽的に表現できるプレイヤーって、そうそうはいないです。もっと感覚的に、いわゆるアヴァンギャルドなノイズ・マシンとしての方が使いやすい。それをああやって調性がハッキリとした聴きやすさで表現するというのは、実はものすごくレベルが高くないとできないです。
YG:随所にビートのないパートがありますよね。おそらくステージで演奏する方はそういう場面で、自分の心臓の鼓動を何となく基準にしているんだろうな…と思っているんですが。この曲調で考えると、SUGIZOさんの鼓動は常にゆったりとしたまま安定しているように思えます。実際のところはどうですか? けっこうアドレナリンが出ているわけでしょうか。
S:心臓の鼓動を意識したことはなかったですね。ただ、ビートが出ていない部分で表現するのはすごく気持ちがよくて、僕は大好きです。グルーヴが中心の音楽ももちろん好きだし得意ですけど、そのグルーヴに自分が合わせにいかなければならないじゃないですか。でもビートがない状況での演奏というのは、当然、何かに合わせる必要がないんですよね。制約がない。そういう意味では僕にとって、最も自由に音の場を泳げる時間なんです。それがとても快感ですね。
YG:なるほど。…といった具合に全曲を解説していただいたわけですが、最後にSUGIZOさんから何か、読者の方へ簡単にメッセージをいただけると嬉しいです。
S:こういうコロナの状況下なので、「みんなで乗り切りましょう」としか言えないんですが…。ただ音楽は、今、絶対に必要なものだと僕は思っています。例えばヨーロッパのいくつかの国では、音楽家やアーティストは世の中に本当に必要な存在だと、そういう意識でしっかり国もサポートしてくれているし、存在をちゃんとリスペクトしてくれている。でも残念ながらそうじゃない国もたくさんあり、日本はそうじゃない国の1つで…。昨年、特にコロナのひどい状況の時、音楽はすごく無下にされてきたと思います。今もまた緊急事態宣言中で、まともに演奏活動できる状況じゃない。だけどそんな今だからこそ音楽を始めとするあらゆる芸術やエンターテイメントが、僕らには必要だと強く思います。このままだと文化が崩壊しますよ。だからみんなであきらめずに、この苦境を乗り切りたいと心から思います。冒頭にも言いましたが(ヤング・ギター2020年3月号参照)、これは一部の人たちが作っている状況なんですよ。もしかしたら本当に、アメリカのトランプ政権を終わらせるために作られたんじゃないか…と思うぐらい。トランプは威張ったおっさんだったけど(苦笑)、でも彼の政策によってアメリカの経済はすごく上向きになりましたよね。雇用も増えた。人間的印象としては好きとは言えないですけど、大統領としてはめちゃくちゃ面白かった。有言実行だったじゃないですか。横柄な人かもしれないけど(笑)、非常に有能な人ではあったと思う。でも「コロナ禍で経済をガタガタにしたトランプ」という風潮を作るため、アメリカを後ろでコントロールしているディープステートたちが作った状態なんじゃないか…とも勘ぐってしまう。まあそれは置いておいて、とにかく誰かが作った状況であることは間違いない。だけどそれに屈せず、我々が本当に理想とする世の中を実現するため、僕はこれからも動いていきたいし生きていきたい。そのために音楽や、映画、お芝居、美術、いわゆる自分たちが求めるアートを絶対にあきらめてはいけない。みんなも絶対に理想をあきらめるべきではない。今だからこそ強くそう思っています。
INFO
『愛と調和』SUGIZO
2020年12月23日発売
Premium Edition
Regular Edition
[Disc 1]※Regular EditionとPremium Edition共通
- Nova Terra
- Childhood’s End
- A Red Ray feat. miwa
- 追憶
- ENDLESS〜闇を超えて〜 feat.大黒摩季
- The Gates of Dawn
- Mindfulness
- CHARON 〜四智梵語〜
- 光の涯 feat.アイナ・ジ・エンド(BiSH)
- So Sweet So Lonely
[Disc 2]※Premium Edition特典
- S.T.K. / Rokkasho from SUGIZO HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.
- SUGIZO×HATAKEN / Multiverse Traveler from SUGIZO HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.