世界的にいまだ出口の見えないコロナ禍において、オンラインに活路を見出して表現を行ない続けるアーティストたちを目にするたび、彼らのたくましさに励まされるのは筆者だけではあるまい。BREAKERZの片翼として活躍するAKIHIDEもそんな逆境をプラスに転じる力を持ったミュージシャンの1人で、彼は2020年に何度か行なったソロでの配信ライヴをほぼ自身1人でオペレートしており、それ自体が独自の世界観を持つ1つの作品であるかのような、独自のエンターテイメントでファンを喜ばせている。
そんな彼が去る2020年12月19日、生としては実に10ヵ月ぶりの有観客ソロ・ライヴ“AKIHIDE SPECIAL LIVE X’mas LOOP WORLD”を、東京の大手町三井ホールにて行なった。その模様も生配信されており、筆者は自宅のPCから見せていただいたのだが…。AKIHIDEが2020年を通して模索していた“1人での音楽表現”と従来のバンド・スタイルでのパフォーマンスが絶妙につながり合うという、非常に印象深い内容。どんな状況も最終的に自分自身のアートへと昇華する、そんなポジティヴなマインドを持った人間は強いし、周りの人間も強くする。
そのライヴの核となっていたのが、彼が2020年11月25日にリリースした8枚目のソロ・アルバム『LOOP WORLD』である。前作『星飼いの少年』ではトリオ編成での表現を追求したAKIHIDEだが、今作ではシンプルさをさらに前進させ、ギター1本+ループ・ペダルのみでほとんどすべてを完結させるという大胆な手法を選択。YouTubeのBREAKERZ公式チャンネルにて、アルバムに収録されている楽曲のいくつかを実演している映像が公開されているので、ぜひ一度ご覧になっていただきたい(当記事の最後にその映像へのリンクを貼っておく)。その音自体はギター1本だからといって決して簡素ではなく、むしろループ・ペダルという武器を得たからこその複雑な響きがどの曲からも感じられるはずだ。
諸事情により公開が遅くなってしまったのだが、ここではこの『LOOP WORLD』という作品に関して、AKIHIDE自身に詳しく語ってもらったインタビューをお届けしよう。
ループ・ペダルを使うと1発録り、だからレコーディングはスリル満点
YG:前作『星飼いの少年』はシンプルな3人編成で録った作品でしたよね。それ以前にもAKIHIDEさんはガット・ギター1人で演奏するライヴを何度か行なっていたり、表現方法がどんどんシンプルになっていた印象で。今作『LOOP WORLD』も1人で完結する形態ですが、これは自然な流れだったわけですか?
AKIHIDE:『星飼いの少年』はウッドベースとパーカッションしかいない中で、ギターは如何にコード感をキープしがら弾くか…という辺りを意識して作った作品だったんですよね。それ以降はまた色々な編成やアレンジでやってみたいと思っていたんですが、ただこのコロナ禍の状況でセッションもままならないし、自分たちのライヴも出来なくなったり…。そんな時1人で配信ライヴなんかも何度かやってみたりしたんですが、その中で目をつけたのがループ・ペダル。「あ、これってすごく面白いな」と、改めて気付かされたんです。だから最初から計画していたわけではなくて、たまたまどんどん編成が少なくなり、とうとう1人になってしまった…そういう流れでしたね。
YG:AKIHIDEさんは以前から、ループ・ペダルをけっこう使う方だったんでしょうか?
AKIHIDE:簡易的なものは使っていましたね。でもBOSSの“RC”シリーズみたいな、ガチなやつはそれ以前まで使ったことがなくて。遊び程度でしか触ったことがなかったものを、きっちり構成を考えながら本腰を入れてやったのは、今回が初めてでした。
YG:AKIHIDEさんがYouTubeで公開している曲をいくつか見せていただいたんですが、その映像の中ではBOSSの“RC-1”を使っていましたよね。あれをアルバムでも活用したわけですか?
AKIHIDE:いや、レコーディングで活用したのは“RC-300”ですね。3つのループを切り替えながら使える機種を使っています。あの映像の場合は野外ロケで、電池で動くものでやらなければいけなかったので、敢えて簡易的にだいぶアレンジし直しました。今作で色々試してみて思ったのは、演奏自体が大事なのは当たり前なんですけど、アレンジや曲構成も同じぐらい重要なんですよね。最初に設計図を書いておかないと、面白い音楽にならないということに気付いたというか。
YG:設計図というと、曲の構成をあらかじめ紙などに書いたり?
AKIHIDE:いや、頭の中で。アルバムのためにレコーディングするといっても、ループ・ペダルを使うと結局1発録りになるんですよね。だからレコーディングはスリル満点でしたよ(笑)。実はアイデア段階では普段のレコーディングと同じように、マルチトラックでオーヴァーダブしながら録るというのもやってみたんですが…つまらなかったんです(笑)。僕自身のテンションが上がらないというか。それに不思議なもので、クリックを鳴らしてそれに合わせて弾くのも、面白くないんです。やっぱり微妙にリズムが揺れているのが面白いんだって、そう感じました。1つのループの中でも4拍目と3拍目のタイミングが微妙に違っていたりとか、その時に感じたグルーヴで弾いていく方がいいんです。
YG:演奏の話を詳しくお聞きする前に…、ここ何作もAKIHIDEさんは、音楽と自作の物語を組み合わせるという、コンセプト・アルバム的なスタイルでやってきたじゃないですか。最近はもう、ストーリー無しだと物足りない感じですか?
AKIHIDE:そうかもしれないですね(笑)。特に今回は世界中のみんなが厳しい状況の中にあって、僕自身にも伝えたい思いが出て来たので。最初に僕、絵を描くんですよ。スタッフさんとイメージを共有するための、イメージボードみたいなものを。それを描いた時に物語の核になる、“月とそれに絡んでいる枝”という絵がパッと浮かんで来て、そこからストーリーがどんどん出て来たんです。どうしてそういうシーンが思いついたのかは分からなかったんですけど、でも後から考えると、コロナウイルスを樹に例えるようなモチーフが勝手に合致してきたんです。
YG:なるほど。あまり詳しくしゃべるとネタバレになってしまうので控えますが…、ウイルスを示唆するものや時がループするといったコンセプトは、最初からあったわけではなかったわけですね。
AKIHIDE:ただ、いわゆるステイホームの期間中、朝起きても今日が何曜日なのかよく分からなくなるような感覚がずっとあったんですよね。ライヴもできないし仕事も滞る中で、いつから今日でいつから明日だったかな、みたいな。何か繰り返されているような、ループしているような…そう感じた瞬間「LOOP WORLD」というワードが生まれた、すぐに月というモチーフが出て来た、そういう感じではありましたね。
YG:鬱屈した思いがずっとあって、自然とアートに結びついて行ったと。
AKIHIDE:そうですね、自分の中にあったわだかまりを出したかったんだと思います。
YG:例えば小説家だったら、物語1本でやっていく人が多いわけじゃないですか。AKIHIDEさんの場合は、物語ができた時点で終わりじゃないというのが面白いところですよね。
AKIHIDE:シンプルな作品もいいんですけど、色々やりたがりなものですから(笑)。
YG:例えば以前インタビューさせていただいた『機械仕掛けの遊園地 -Electric Wonderland-』(2018年)だと、物語と歌詞が直接的にはリンクしていない形でしたよね。今回の作品の場合は、わりとしっかり相互に補完し合っているように感じます。
AKIHIDE:そうですね、今回はわりと、物語の時間軸に沿って歌詞も進む形になっています。
YG:例えば物語単体で読めば、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかよく分からないじゃないですか。そして音楽だけを聴くとわりとポジティヴな印象で。でも2つを合わせると、さっきまでポジティヴだと思っていた曲がすごく妖しい雰囲気になったり、物語の方も実は希望のある終わり方だったんだと気付かされたり。それが面白いと思いました。
AKIHIDE:おっしゃる通りで、ストーリーの方で描いていない内容の先を、音楽の方では描いているので、確かに補完し合っているとは言えると思います。でもお話でそこを描いてしまうと面白くないというか、自由に想像ができないのはつまらないと思ったんですよね。