グラハム・オリヴァー&ポール・クイン、サクソン時代には「2人でとても良い曲を書いてきた」GRAHAM OLIVER’S ARMY来日インタビュー

グラハム・オリヴァー&ポール・クイン、サクソン時代には「2人でとても良い曲を書いてきた」GRAHAM OLIVER’S ARMY来日インタビュー

去る6月上旬に来日公演を行ない、サクソンの往年の名曲を大連発して、オーディエンスを熱狂の渦に叩き込んだGRAHAM OLIVER’S ARMY。その激熱ライヴの模様は掲載済み(レポート)だが、続いて来日インタビューをここにお届けしよう! 2夜連続公演の初日を盛況に終えた翌日──6月6日のリハ後、首魁グラハム・オリヴァーとスペシャル・ゲストであるポール・クインが対面取材に応じてくれた。本家サクソンとグラハムの仲が決して良好とは言えない中、今回のポール客演は正にサプライズであり、ある意味では奇跡的だったとも言えよう。果たして、その真相やいかに…!?

どのみち、サクソンは1つなんだ

YG:昨日(6月5日)の初日公演はいかがでしたか? 個人的にも感動のあまりウルウルきてしまいました…。

グラハム・オリヴァー(以下GO):私も同じだったよ。

ポール・クイン(以下PQ):ああ、本当に素晴らしかったね。

GO:とても感動的で、良いショウだった。

PQ:俺達2人が揃っていたんだからな!

GO:まったくだ。大いに楽しんだよ。

YG:何年ぶりの共演だったのですか?

GO:1995年の正月以来かな? いや…、2019年にイタリアでもちょっとだけ一緒にプレイしたんだった。あれはウリ・ジョン・ロートと一緒にやったギター・ショウ(“THE WOODSTOCK LEGACY”)だったっけ。「Denim And Leather」で共演したよ。

PQ:あと、(ジミ)ヘンドリックスの曲も少し。

GO:そう、「Villanova Junction」だった。

ウリ・ジョン・ロート 2019年Woodstock Legacyイベント フライヤー

YG:グラハムは’19年にOLIVER/DAWSON SAXONとして来日しましたが、その後、ベースのスティーヴ・ドーソンが脱退し、バンドがGRAHAM OLIVER’S ARMYとなった経緯について、改めて話して頂けますか?

GO:スティーヴはリタイアせざるを得なかったんだ。手にリウマチの炎症を抱えていたんでね。それに、コロナ禍の2年間は全く(ライヴなど)仕事がなかった。それで、彼はもうプレイしないことを決め、引退する道を選んだのさ。

YG:今回、そんなGRAHAM OLIVER’S ARMYにポールが客演することになったのは…?

GO:友人達のアイデアだった。でも、私は実現すると思っていなかったよ。だから、アイデアをくれた友人達数名と、同意してくれたポールに感謝したい。彼が「やろう!」と言ってくれて、大いに助けられた。実は私も、左手に問題を抱えていてね。指が動き難くなっているから、かなり集中しないと上手く弾けないんだが、そんな状態だから、ポールが手助けしてくれたのは嬉しかったね。

PQ:正直言うと、メインでやっている仕事(サクソン)のことを考えると、影響が出ないかよく考慮する必要があった。だけど今は自由で、行動に制限がない。俺もリタイアした身だからね。もう1つのラインナップ(本家サクソン)では、あと1回──(スペインの)バルセロナでの公演(7月8日のフェス“BARCELONA ROCKS”出演)が残されているだけだ。その後、サクソンとはアルバム制作だけ。だから他のところに出向くことも出来る。実はね、今はコッチの方がとても楽しい。何故なら、長年弾いてこなかった曲もプレイ出来るからさ。

YG:サクソンからは脱退したワケではないのですよね?

PQ:ツアーはもうやらない。バルセロナでプレイしたら、それでお終いだ。

サクソン バルセロナ公演フライヤー

YG:次のアルバムのレコーディングや曲作りには参加する…?

PQ:多分ね。正式にはまだ(サクソンの)ソングライターだし、(スタジオ作では)プレイすると思うよ。

YG:ツアーからの引退を決めたのは、体力的なことが原因ですか?

PQ:主にストレスかな。それに、もう速い曲を再現するのは難しい。正直、シュレッドをやるよりも、自分流のスタイルの方が上手く弾けるしね。

YG:本家サクソンは、ダイアモンド・ヘッドのブライアン・タトラーが、ポールに代わってツアーで弾くそうですね?

PQ:サクソンとダイアモンド・ヘッドはバンド同士でも仲良くしているからね。彼等は凄く良いバンドだ。もしかしたら、(ブライアンは)ソングライティングでも貢献してくれるかもしれない。

GO:彼はラーズ・ウルリッヒ(メタリカ:dr)の友達だよね?

PQ:そうだっけ?

GO:そのハズだ。それもオマケになったかもしれないな。

YG:それにしても、今回のポール参加には本当に驚かされました。てっきり、本家サクソンとグラハムは未だ対立していると思っていたので…。OLIVER/DAWSON SAXONの頃には、バンド名の使用権を巡ってゴタゴタしていましたが、お2人の間には、特にわだかまりはなかったということでしょうか?

PQ:俺達は健全な関係にあったよ。

GO:競争相手ではない。どのみち、サクソンは1つなんだ。

PQ:ああ。

GO:今やGRAHAM OLIVER’S ARMYだからね。ただ、2人でとても良い曲を書いてきたのは事実だ。それにミュージシャンだから、演奏するのは大好きだし、その上で、日本を訪れるという、素晴らしい機会まで得られた。でも、これが最後かもよ? 2人とも71歳だからね。

PQ:いや、彼は俺より若いんだ(※当時グラハムは70歳で、7月6日に71歳になった)。

GO:そう、“ヤング・ギター”なんだよ(笑)。

YG:イイですね!(笑) 日本に来る前、リハーサルの時間はどれぐらい取れましたか?

PQ:2時間だったかな。

GO:2時間のセッションが4回だ。そのうち1時間は(演奏しないで)話してばかりいたけど(笑)。

PQ:それと、ちょっとジャムったぐらい。

GO:AC/DCとか、ジミ・ヘンドリックスとかね。

ポール・クイン初日
Paul Quinn

グラハム&ギャヴ 初日
Graham Oliver (l.) & Gav Coulson

YG:一緒にやって、昔の感覚が甦ってきましたか?

GO:すっかり心地好い状況に戻ったよ。一緒にやれて、とても嬉しかった。(往時のサクソンは)私のキャリアのハイライトだったからね。それをポールとシェア出来るのは最高だよ。まだキャリアを始めた頃のことだから、本当に素晴らしい思い出だ。音楽に正しいとかそういうのはない。音楽それ自体が語ってくれるからね。私達がやってきたことは、メタリカや他の若いバンドだけでなく、年上のバンドにさえインスピレーションを与えることになったんだからさ。今では、「何か成し遂げることが出来た!」という気持ちでいっぱいだよ。

PQ:それに、3人のギタリストでプレイするのも最高なんだよ。

GO:ああ、アイアン・メイデンみたいにね!(笑)

PQ:3人いれば、1人がソロを弾いて、残りの2人がバッキングを弾くことが出来る。

YG:ギター・ソロの振り分けはどのように? オリジナル・ギタリストであるお2人に加えて、ギャヴ(・クールソン)もいますが…?

PQ:グラハムは、元々自分が弾いていたパートをそのまま弾いている。俺はギャヴとパートを分担し、彼のテリトリーにちょっとだけ踏み込ませてもらっているよ。このバンドにとって俺は新顔だし、彼のやることを聴いているのも好きなんだ。実際、ギャヴはとても巧いギタリストだよ。

GO:リハーサルをやったら、実に上手くいったんだ。「Denim And Leather」では、私とギャヴがソロを弾くんだけど、サクソンで(ポールと)一緒にやっていた頃は、最初のパートを私が弾いて、ポールはサビのソロを弾いていた。1994年ぐらいの、私が(サクソンから)脱ける前はそうだったな。ただ、今はこれ(指の状態)が問題でね…。時間と加齢は容赦なく訪れる。78歳で亡くなったジェフ・ベックは、最後まで流暢なプレイを保ち続けた。ずっと努力し続けるものだな。でも、ジェフのような人もいれば、そうじゃない人もいる…ということさ。

YG:昨日のライヴを観る限り、お2人はまだまだプレイし続けてくれそうですね!

PQ:ありがとう。

GO:そう言ってもらえて嬉しいよ。

PQ:(日本語で)ドウモアリガトウゴザイマシタ。正式な言い方を思い出せて良かった(笑)。

プロとしての資質を試されていたのかも

YG:ところで、初日公演はロストバゲージでギターが届かず、レンタル機材でプレイしたとか…? 

GO:そう。私はPRSギターを弾いた。初めてだったよ。まるで気分はジョン・メイヤーさ!(笑) まぁ、プロとしての資質を試されていたのかもしれないな。だって、匙を投げてしまいかねない状況だよ。それでも、私達はやり遂げた。もうプロとして長くやっているからね(笑)。

PQ:俺はレスポール。お行儀が悪く、チューニングが難しいギターだったな。

YG:グラハムは、PRSを弾くのが初めてだった…ということは、リクエストしたワケではなかったのですね?

GO:そう。単に届いたのがあれだっただけだ。

PQ:元々は、バックアップ用さ。

GO:だから、今日もあのギターはキープしてある。弦が切れた時などのためにね。

YG:本来のギターは、何とか本日の公演に間に合ったようですね? それぞれ教えてもらえますか?

GO:私はVintage Guitarsを使っている。ホットロッドのストラトキャスター風で、“Pastcaster”と呼んでいるんだ。ピックアップは、ビル・ローレンス製の“L-500”。オリジナルのフライングVや昔のSGも持っているけど、国外に持って出るのはもうやめた。飛行機(移動)で紛失されることもあるからね。まぁ、時々イギリス(本国)でのライヴでなら弾くこともあるけどさ。

グラハム・オリヴァー 2023来日使用ギター

PQ:俺が持ってきたのは、EVHギターズ製のSTシェイプだ。

YG:サクソンでは使っていないギターですよね?

PQ:うん。サクソンでは、エンドースしているキャパリソンを弾いているから。

ポール・クイン 2023来日使用ギター

YG:エディ・ヴァン・ヘイレンのグラフィックとは意外でした。

PQ:実は友人から贈られたギターで、つい最近、手に入れたばかりなんだ。音はとても良いんだが、フィードバック音が鳴るから、その確認は必要だった。ハムバッカーの中域が気に入っているよ。

GO:最初のリハーサルでは、トレモロ付きのレスポールを持ってきたよな?

PQ:そう。だから、まだ(EVHは)使い始めて間もないんだ。

YG:アンプは日本で用意されたモノを?

GO:うん。こっちで借りた(マーシャル)“JCM800”を使っている。でも、音は指から出ているんだからね。ポールだって、使うアンプが変わっても常に良い音を出しているよ。結局はプレイヤー次第だと思うな。

PQ:俺は(マーシャル)“JVM”を使ったけど、いつもケンパーで出しているサウンドも“JVM”の音なんだ(笑)。D.I.につないで、(パワー)アンプのリターン端子に送られる。

YG:昨日、足元に置いていたのは? 

PQ:(テック21製の)パウル・ランダース(ラムシュタイン)のシグネチュア・マルチ・エフェクター“PL1 FLY RIG”、(エレクトロ・ハーモニックス)“Electric Mistress”のクローン、それから(ジム・ダンロップ)ミニ・ワウだね。とてもシンプルで、アンプでクリーン・トーンを作り、歪みは“〜FLY RIG”で賄っているんだ。

YG:エフェクターは紛失されなかったんですね?

PQ:ああ。手荷物に入っていたから。

ポール ペダルボード
Paul’s Pedalboard

●左上にはTONE CITYの歪み“Golden Plexi 2”、ジム・ダンロップ“CBM95 Cry Baby Mini Wah”、そして黒いテープが巻かれた小型のペダルが2個あり、左側は不明。右側はおそらくMuslady Moskyの”Golden Horse”でやはり歪みペダルだ。手前にあるのがはテック21“PL1 FLY RIG”。前面に巻かれたテープには「RHY or CLEAN」と書かれており、バッキング(RHYTHM)またはクリーンで使用されていると思われる。

GO:私はオールドスクールだから、BOSSのグラフィック・イコライザー(“GE-7”)のみ。つまり、自分で頑張る必要がある。でも、ヨーロッパでプレイする時もそうしているんだ。移動する際は、出来る限り荷物を減らしたい。あと、常にケーブル接続で、ワイアレスは使っていないよ。トラブルがあっても、すぐ対応出来るようにね。エフェクターを最小限にして、ライヴをコナすようになったのもそのためさ。要は、アンプとギターのトーン・ノブだけで音を作る。時には、小さな音量でプレイすると大変なこともあるけど、上手くいった場合は、大いに報われる結果が得られるんだ。最小限のセッティングでも、素晴らしいライヴをやることは出来るよ。自分の指と耳のみに頼ってやればね。

PQ:その方がダイナミクスが出せる。

GO:そうそう、その言葉を探していた。ある時、かつてジャニス・ジョプリンとプレイしたことがあるギタリストと会ってさ。彼は私のセッティングを見て、「この目で観て、自分の耳で聴いてはいたけど、それでも(“GE-7”だけとは)信じられない」と驚いていたよ。巨大なアリーナでのライヴで、大きな賛辞をもらった…と思ったな。そう、エフェクターは1つだけで、ケーブルも2本あればイイのさ。

グラハム使用ペダル
Graham’s Pedal

●グラハムの足元には、BOSSのグラフィック・イコライザー“GE-7”1個のみ。

YG:現在のチューニングは?

GO:全弦半音下げだ。

PQ:(サクソンの)アルバムの殆どがそうなんだ。

GO:『INNOCENCE IS NO EXCUSE』はスタンダード・チューニングだったけどね。

PQ:あと、ドロップもあったな。

YG:そういえば、昨日驚いたのが、ヴォーカルのブライ(・ショウネシー)が、さらに(本家サクソンのシンガー)ビフ・バイフォードの領域に接近していたことでした。決して声質が似ているワケではないのに、すっかり自分のモノにしていた…というか。

GO:彼はこの手の音楽の大ファンだし、ごく初期から私達のライヴを観にきてくれていたからな。出身も(英国)バーンズリーで、私達と同じ地域だったし、彼に決まったのは自然な流れだったんだ。でも、彼は彼で自分らしく歌っているだけだよ。

PQ:そうそう。

ブライ
Bri Shaughnessy

GO:(ビフに)似せようとはしていない。完全に自然体だ。彼はサクソンの曲が大好きで、「Backs To The Wall」や「Freeway Mad」なんかは、彼から「やらないか?」と言われたんだよ。自分がローカルなバンドで歌っていた頃から、サクソンにすっかりハマってくれていたのさ。

PQ:そう。それどころか、(前身バンドの)SON OF A BITCHの頃からね。

GO:ああ。SOB(ソブ)の頃からだな。

PQ:COASTという名前でもやっていた。SOBはフリーの『TONS OF SOBS』(1969年)が由来で、COASTはトラピーズの「Coast To Coast」から採った名前だ。

GO:面白いよね。

YG:本日、2日目は少し演目を変えるそうですが、元々自分達の曲だとはいえ、2公演でかなりの曲数になるので、思い出したり覚えたりするのが大変だったのでは?

PQ:(曲の)エンディングが(本家サクソンと)違っていると、聴き馴染みがないので難しく感じたな。あと、ソロをどこで弾き終えて、いつギャヴに引き継ぐのか…といったタイミングもちょっと難しかった。ついつい長く弾き続けたり、早めに弾き終わってしまったり…。

GO:「Backs To The Wall」はアレンジを忘れてしまっていて、聴き直す必要があったよ。ただ、弾き始めるとすぐに記憶が押し寄せるように戻ってきて、40年前に弾いたのが最後で、それ以来だったのに、ちゃんと思い出せたんだ。グルーヴに乗ってしまえば、あとは弾くだけ。もう半世紀近くも前のことなのにさ。まぁ、自転車の乗り方を忘れることがないのと同じかな?

PQ:俺は「Devil Rides Out」にハッとしたよ。ライヴで弾いたことがあったかどうかも分からないな。

GO:(「Wheels Of Steel」の中間部に)ちょっと弾いただけだったけどね。それにしても、サウンド・マンは(トリプル・ギターの)音を拾うのが大変だっただろうな。ソロでは、それぞれの音を際立たせなきゃいけないし、そもそも専任のエンジニアじゃないんだからさ。

PQ:俺達ひとり一人に(ソロ用の音切り替えのために)ペダルを踏むところが見えるカメラを付けるべきなのかも(笑)。

YG:さて、GRAHAM OLIVER’S ARMYの今後ですが、ポールとはこのあとも、ちょくちょく共演することになりそうですか?

GO:今のところ、この2公演だけだよ。

PQ:まぁでも、(今後)どうなるかは分からない。“Never say never(再共演の可能性はある)”さ。

GO:ああ。また機会があるかもしれない。いずれにしても、今回こうして一緒にライヴをやれたのは良い経験になったよ。とても楽しい時間が過ごせた。

GRAHAM OLIVER'S ARMY 2023年来日公演

YG:1つだけ心配なのは、今回の共演でビフが怒ったりしないか…ということですが。

GO:それはないんじゃない? 友達が2人で、かつて一緒に作った音楽をプレイしているだけだから。敵意を感じることなんてないハズだ。ただの再会で、楽しみでしかない。色々言う人には「違う」「誤解だ」と言いたいな。何も問題はないよ。ビフにも、他のメンバーにも幸運を祈っている。

YG:ポールはもう、基本ライヴをやることはないのでしょうか?

PQ:そんなに遠くないうちに、2番目のバンドで活動を始める。そっちがメイン・バンドになっちゃうんじゃないかな?(笑)

YG:それはどんなバンド…?

PQ:THE CARDSといって、ピュアなブルースをやっている。言葉にするのは難しいけど、要はヘンドリックスからザ・ビートルズまで、あらゆる影響を反映したバンドだよ。

YG:ともあれ、日本のファンは今回、本当に貴重なライヴを体験することが出来た…ということですね!

GO:日本のプロモーターには、こういった千載一遇の機会がもらえて感謝している。これが最後とは言わないけど、次はいつになるか分からないからね。

PQ:俺もみんなに感謝しかないよ。

GO:音楽が旧友を結び付け、また一緒にプレイさせてくれたのさ!

[fro l. Rod FEarnley(dr)、Jamie Mallender(b)、Graham Oliver(g)、Bri Shaughnessy(vo)、Paul Quinn(g)、Gav Coulson(g)]