グラハム・オリヴァーがポール・クインと共に日本でサクソン名曲を披露!! GRAHAM OLIVER’S ARMY来日公演 2023.6.5〜6.6 @新宿Zirco Tokyo

グラハム・オリヴァーがポール・クインと共に日本でサクソン名曲を披露!! GRAHAM OLIVER’S ARMY来日公演 2023.6.5〜6.6 @新宿Zirco Tokyo

GRAHAM OLIVER’S ARMY(GOA)なる聞きなれないバンドが来日決定と報じられたのは今年の3月。名前を見ればブリティッシュ・メタル界の大家であるサクソンのオリジナル・ギタリスト:グラハム・オリヴァーのバンドであるということはわかる。その詳細を調べてみると、どうやらグラハムが同じくサクソンの初代ベーシストだったスティーヴ・ドウソンと共に結成したOLIVER DAWSON SAXON(ODS)の実質的な後継バンドであり、スティーヴが音楽活動から引退するために脱退したことを受けて名称変更したということらしい。

ODSは2019年に初来日公演を行なっているので、GOAの来日決定の報せ自体にさほど驚きはなかった。今回もグラハム在籍期のサクソン楽曲を披露するライヴになるのだろう、と予測はつく。 が、サクソンのポール・クインがゲスト参加するという続報が出たとなると話は違ってくる。ポールもヴォーカルのビフ・バイフォードと共にサクソンを支え続けたオリジナル・ギタリストだが、去る3月にツアーからの引退を表明。それから程なくしての旧友グラハムとの合体である。そもそもODSが生まれた背景にはビフを中心とした本家サクソンとの権利を巡る争いがあり、両陣営は対立関係にあると見られていた。ツアーに参加しないとは言え、ポールが今なお本家側のメンバーであることに変わりはない。そのポールが“向こう側”に参加するとは一体どういうことか?

GRAHAM OLIVER'S ARMY 2023来日フライヤー

といった経緯を経て迎えた来日公演初日。ポールが具体的にどういった形で登場するのかは公表されておらず、数曲のゲストに留まる程度なのではと予測したファンも少なくなかっただろう。しかしいざ幕が開いてステージに現れたのは、グラハム&ギャヴ・クールソンのチームに加えて最初からポールを含むトリプル・ギターの6人編成。「Rock ’N’ Roll Gypsy」(’85年『INNOCENCE IS NO EXCUSE』収録)「Strong Arm Of The Law」(’80年『STRONG ARM OF THE LAW』収録)…と、’80年代のサクソンの名曲が次々にプレイされていくにつれ、実感したのは前回ODS来日時よりもさらに増した“本物のサクソン感”だ。前回グラハムとともにその本物のグルーヴを生み出す原動力となっていたスティーヴの不在は痛いのでは、と開演前まで思っていたが、かと言って現在ベーシストを務めるジェイミー・マレンダーのプレイが物足りないということはまったくない。やはり初見参となるドラマーのロッド・フィアーンリーと共にゴリゴリ感をドライヴさせるリズム・セクションは予想外に強力。2人それぞれジョン・ヴェリティやトニー・マーティンなどとのセッション経験もあるベテランとのことだが、ブギーな疾走感だけではなく、同時代のNWOBHM勢に比べて年齢がやや高めだった初期サクソンの絶妙ないぶし銀感すら醸し出していた。

ポール、グラハム 初日

ブライアン
Brian Shaugnhessy(L.)

ジェイミー・マレンダー
Jamie Mallender

ロッド・フィアーンリー
Rod Fearnley

言うまでもなく何より“本物感”を最も強調していたのは、28年ぶりにコンビ再結成したグラハムとポールの2人だ。パワー・メタル色を強めるようになって久しいサクソンの推進力になっていたポールの剛直なギターが加わり、骨太感が倍増。次々に繰り出される名ギター・リフに漲る力強さは、ファンが思い描くサクソンの音像そのものだ。嬉しいのはポールの弾くギター・ソロが、ファンの耳に馴染んだフレーズばかりだったこと。ギャヴには申し訳ないが、前回ODS来日時の唯一と言ってもいい問題点が、高速スウィープ・アルペジオを頻繁に叩き込む彼のリード・ギターが楽曲に全く合っていないことだった。その点、40年超の活動で曲のコクを知り尽くしたポールのプレイは、オリジナルに比べて若干のアドリブを入れた箇所もありつつ、楽曲の世界観を忠実に再現していた。もっともギャヴがすべてのリードをゲストに譲ったわけではなく、大方のソロは前半をポールが担当し、後半はギャヴが引き継ぐというリレー形式になっていたのだが、今回の後者は技巧を盛り込みつつも曲のラインを壊さないフレージングに注力していた。彼もまたサクソン楽曲に求められるものをより深く理解するに至ったに違いない。

ポール・クイン
Paul Quinn

ギャヴ・クールソン
Gav Coulson

一方主役たるグラハム。初日は俯き気味に直立不動の姿勢でギターを弾くことに没頭している様子で、加齢による疲れもあるのかと少々心配な気分にもさせられたが、「Frozen Rainbow」(’79年『SAXON』収録)や「Dallas 1PM」(『STRONG〜』収録)でのブルージーなソロは、まさにタッチが入魂。ベテランらしい粘りあるサウンドには唸らせられるものがあった。

グラハム・オリヴァー
Graham Oliver

そして加えて、ヴォーカルのブライアン・ショウネシーが頼もしい。ビフ・バイフォードとは性質が特段似ているというわけでもなく、ましてやモノマネする気も全く感じられないのだが、節回しなどの雰囲気が何故か似ている…という不思議なテイストをODSの時と同様に感じさせるパフォーマンスだ。観客を煽るスキルも上手く、MCはフレンドリーで親しみやすい。本来なら換えが効かない絶対的フロントマン=ビフの代役という難しいポジションをこなせるのも、NWOBHMの時代からグラハムたちと親交があったベテランならではの地力なのだろう。

ブライアン・ショウネシー
ブライ

セットリストの基本線はODSの時と同様に、ほぼやって当たり前の鉄板曲ばかりが並ぶ。そんな中でもレア曲がいくつか組み込まれており、ZZトップ的なリフが力強い「Stand Up And Be Counted」(’80年『WHEELS OF STEEL』収録)はある程度予測できる曲だったが、ファンからのリクエストに応えたという「Suzie Hold On」、さらに本家サクソンも滅多にやらない’90年代の曲「Requiem(We Will Remember)」(’91年『SOLID BALL OF ROCK』収録)というポップな2曲を入れてきたのは想定外だった。「Suzie~」は1980年の傑作『WHEELS〜』に収録されているだけに知名度は抜群で、ギャヴとポールによるツイン・リードに対する反応の大きさもかなりのものだったが、「Requiem~」は意外すぎてブライの曲名コールにも気づかなかったファンが多かった模様。またギャヴがCCRの「Bayou Country」を独唱してから「Motorcycle Man」(『WHEELS〜』収録)につなげるという展開もODS来日時にはなかった趣向だ(今回はそのギャヴがシンガーとしてもなかなかの実力を持っていることが確認できた)。

意外な曲といえば、「Wheels Of Steel」の途中で「Devil Rides Out」(『INNOCENCE〜』収録)を組み込む構成は前回同様ではあるのだが、本家のライヴでもまず選ばれないこの曲、ポールにとっても演奏する機会が長年皆無だったと思われ、ギャヴのソロ・パートの間にギターをチューニングしている姿を見て、「慣れてないから弾かないのかな」と思ってしまった…実際のところはどうやらギターにトラブルがあったらしいのだが。

グラハムが「See The Light Shining」(『WHEELS〜』収録)や「Sixth Form Girls」(『STRONG〜』収録)などのリフの一部を弾くという、アンコール開幕直後の短いソロ・コーナーもあり、前回はリフだけで終わってしまった「Never Surrender」(’81年『DENIM AND LEATHER』収録)が最終的に始まった時の歓声には凄まじいものがあった。続いてラストを飾ったのは第1回“Monsters Of Rock”にサクソンが出演したエピソードから生まれた「And The Bands Played On」(『DENIM〜』収録)。「その会場には俺もいて、当時8歳だった」と大嘘な年齢ギャグをいちいちかますブライが観客を煽りに煽り、ポールの弾くメロディーと共に大団円を迎えた。

2日目は前日よりも集客が伸び、バンドも日本の空気に馴染んだのか、メンバーはよりリラックスした感があり、グラハムもステージ前方に出てきて観客と目を合わせながらプレイする場面が多くなった。実は前日、日本到着時にロストバゲージが起こり、機材はすべてレンタル品を使ったのだという。対してこの日はメンバー各自の手に馴染んだギターやベースが使えたため、それもバンドの士気に影響したのかもしれない。

楽曲面では「Stand Up And Be Counted」と「Requiem~」が外れ、「Backs To The Wall」(『SAXON』収録)「Freeway Mad」(『WHEELS〜』収録)という快速ロックンロール2曲に交代。この選曲もショウ全体の勢いに拍車をかけていたと言えるだろう。結果、盛り上がりの面でも2日目は初日より向上。終演時はバンドの6人の表情も実に晴れ晴れとしていた。

グラハム 2日目
ポール、ブライ 2日目

よくよく考えてみればグラハムとポールのオリジナル・コンビが日本のステージで揃ったのは、1981年のサクソン初来日以来、42年ぶりのことになる。意外にも国外のニュースサイトなどで話題になっているのを目にしないが、’90年代中盤から袂を分かっていた2人が共演するというのは実は奇跡的なことだし、サクソンというバンドにおけるギター・プレイの個性と魅力を改めて見せつける結果となった。「ビフがいないサクソンなんて本物ではない」という頑固なファンも多いだろうが、そのパフォーマンスはむしろマニアこそ納得できるクオリティだったと断言できる。

さて、こうなってくると本家の方も日本で久々に観てみたいものだが…?

GRAHAM OLIVER’S ARMY 2023.6.5 @新宿Zirco Tokyo セットリスト

1. Rock ‘N’ Roll Gipsy
2. Strong Arm Of The Law
3. Denim And Leather
4. Frozen Rainbow
5. Stand Up And Be Counted
6. The Eagle Has Landed
7. Dallas 1pm
8. Suzie Hold On
9. Requiem (We Will Remember)
10. Crusader
11. Princess Of The Night
12. 747(Strangers In The Night)
13. Motorcycle Man
14. Wheels Of Steel
[Encore]
15. Never Surrender
16. And The Bands Played On

GRAHAM OLIVER’S ARMY 2023.6.6 @新宿Zirco Tokyo セットリスト

1. Rock ‘N’ Roll Gipsy
2. Strong Arm Of The Law
3. Denim And Leather
4. Frozen Rainbow
5. Backs To The Wall
6. The Eagle Has Landed
7. Suzie Hold On
8. Dallas 1pm
9. Freeway Mad
10. Crusader
11. Princess Of The Night
12. 747(Strangers In The Night)
13. Motorcycle Man
14. Wheels Of Steel
[Encore]
15. Never Surrender
16. And The Bands Played On