“もう1つのサクソン”奇跡の来日! OLIVER DAWSON SAXON 2019徹底レポート

“もう1つのサクソン”奇跡の来日!  OLIVER DAWSON SAXON 2019徹底レポート

サクソン楽曲をオリジナル2/5の演奏で楽しむ

サクソンと言えばNWOBHMムーヴメントをアイアン・メイデンらとともに牽引し、今やブリティッシュ・メタル界を代表する存在として君臨する老舗バンド。HR/HMリスナーであれば決してファンでなくとも名前は知っているだろうが、OLIVER DAWSON SAXON(ODS)となると事情が異なってくる。OLIVER=ギタリストのグラハム・オリヴァーは’95年まで、DAWSON=ベーシストのスティーヴ・ドウソンは’86年までサクソンに在籍した初代メンバーだ。グラハムはかつて過去のライヴ音源の取り扱いについて、サクソンのフロントマンであるビフ・バイフォードと衝突して解雇され、後にスティーヴと再会。ヴォーカルに元サンダーヘッドのテッド・ブレットを、ドラムにやはりサクソンの初代メンバーだったピート・ギルをそれぞれ迎え、サクソンと改名する前に名乗っていたSON OF A BITCH(SOB)名義での活動を開始してアルバムも発表した。その後グラハムとスティーヴはメンバー・チェンジを経てSOBをODS名義へと発展させている。バンド名やロゴの使用を巡る問題を本家サクソンによって法廷に持ち込まれたりもしたが、その後も20年近くに渡って実質的なもう1つのサクソンとして活動を続けているのだ。決して本家のように大規模なツアーを繰り返しているわけではないものの、ライヴ作品を複数発表した他、2012年には『MOTORBIKER』というスタジオ・アルバムも作るなど、地道に歴史を重ねている。

そのODSが2019年9月に来日を果たした。サクソン自体はこれまでに計4回の来日公演を行なっているが、グラハムとスティーヴの2人が日本のステージに立ったのは1981年の初来日時のみ。「“日本に来ませんか”という(プロモーターからの)メールをもらうまで、また来られるなんて想像できなかったよ」とスティーヴが語っていたように、ODSのパフォーマンスが日本で拝める日が来るとはこちらにとっても嬉しい驚きだ。ただしこの2人以外のメンバーはODSの活動が始まった当初から大幅に変わっている。まずシンガーはNWOBHMが勃発する前からの友人だったというSEVENTH SONのブライ・ショウネッシー。リード・ギターのギャヴ・コールソンはグラハムとスティーヴが使うVintage Guitarsのスタッフでもある、2017年加入のテクニカル派。またドラマーは2010年からグラハムの息子であるポール・オリヴァーが務めていたが、来日直前にカイル・ヒューズへと交替していた。

OLIVER DAWSON SAXON 1

東京は新宿のZirco Tokyoで一夜のみの開催となった来日公演、プレイされたのはすべてグラハムとスティーヴが在籍した時代のサクソンの楽曲だ。こういったセットリストになったのはプロモーターからの要請だったとのこと。「SOBやODSの曲をやったところで、みんな曲を知らないのが現実だ」とグラハムも本音を吐露していたが、SOB時代の出色の曲だった「Past The Point」はやってもらいたかった…というのはさておき、初期サクソンの曲をオリジナル・メンバー2/5を含むバンドの演奏で楽しむというコンセプトは明快だ。

そのオープニング曲は「Rock ‘N’ Roll Gypsy」。‘80年代中期にサクソンがポップ路線に傾いた時期の曲から攻めて来ることを意外に思ったファンも多いかもしれないが、ODSがかつて発表したライヴ・アルバムでもオープニングに選ばれていたので、彼らにとっての必殺曲ということだろう。実際のところマニアの間ではポップ期においてもトップ級の人気を誇る曲ゆえ、グラハムがコード・アルペジオのイントロを弾くと同時にサクソン・ファンの心をガッチリとキャッチ。続く3rdアルバムのタイトル曲「Strong Arm Of The Law」のブギーなリフがさらに熱気を高める。

OLIVER DAWSON SAXON 2

フロアを埋めた観客はどの曲もサビをよく歌う。はっきり言ってサクソンではなくODSのライヴに足を運ぶほどのファンというのは、サクソンの楽曲自体を心底愛し、またそれらをライヴで聴くことに飢えている筋金入りばかりのはずだ。何しろ欧州と日本での人気に大幅な格差があるせいか、サクソンというバンド自体が滅多に日本に来ない。生でサクソンの曲を聴きたがっている人間が集まれば盛り上がるのは当たり前であって、筆者も含め誰もがブリティッシュ・メタル史に残る楽曲を楽しんでいた。ただ初めてもしくは何十年ぶりに日本に来たメンバーにしてみたら予想外の反応だったようで、ブライも興奮のあまり「Welcome to Japan!」と口走ってしまうほど。急いで「Welcome to Barnsley!(バーンズリーはサクソンのメンバーやブライの故郷である南ヨークシャーにある街) バーンズリーは東京よりデカいぞ!」とごまかし…いや訂正していた。そのブライの「俺がまだ生まれていなかった40年前に戻るぞ」とのジョークに続いて始まったのが、「Rainbow Theme」を前奏にしての「Frozen Rainbow」、つまり1979年のデビュー作『SAXON』冒頭を飾った名曲だった。ブリティッシュ・ロックの湿り気を受け継いだNWOBHM黎明期らしいフォーキーな曲の中で、リヴァーブをたっぷりかけた音でソロを弾くグラハムのヴィブラートが哀愁を誘う。さらにカイルの短いドラム・ソロが聴きなじみのあるリズム・パターンに切り替わると、ライヴのクライマックスを飾るイメージの強いアンセム・ソング「Denim And Leather」が早くも炸裂。ここでもメインのソロはグラハムが執った。

Graham Oliver & Bri Shaughnessy
Bri Shaughnessy

ODSというバンドの性格上、何かと本家サクソンとの違いが取り沙汰されるのは仕方のないことだが、ファンにとって最大の違和感は「ビフ・バイフォードがいない」という1点に尽きるのではないだろうか。サクソンの特異性はビフというシンガーの表現力に依るところが大きい。ブライはざらついた声質で歌い上げるタイプで、ビフの甲高い声とはまったく違うのだが、それでもヴィブラートをかける時などの声の端々にビフを思い起こさせることが度々あった。しかも最近の朗々とした歌唱スタイルではなく、使う音域が狭いのにメロディーの広がりを存分に表現するという、’80年代中期ぐらいのビフの不思議なテイストに似ているのだ。それもあって聴き慣れたサクソンの曲のイメージを壊すことなく非常によくハマっている。

そしてグラハムとスティーヴが醸し出す、軽快ながらしっかり骨太な演奏の感覚は、重厚パワー・メタルとなった2000年代以降のサクソンしか生で見たことのない後追いファンにも、NWOBHMムーヴメントを先導したオリジナル・サクソンのロックンロールでハード・ブギーなノリを追体験させてくれる。パワー・ヒッターなドラマーが叩いているだけに、昔そのままというわけではないのだろうが、 “SAXON”という名称を使う権利が彼らにもあるのだという事実を演奏そのものが証明しているかのようだ。

Steve Dawson
Kyle Hughes
Gav Coulson

2人のギタリストの明確なキャラ立ち

5曲目のイントロとしてギャヴがはじき出したリフは、なんと ‘80年代前半ぐらいにしかライヴで取り上げられなかったであろう「Hungry Years」。コレも初期サクソンのノリにぴったりハマる選曲だ。これに独特の物悲しさに載せたグラハムの渋いブルージーなソロが光る「Dallas 1PM」が続き、そしてダークな「The Eagle Has Landed」でギャヴが激しく音を詰め込んだソロを展開。こういった流れの中に、2人のギタリストのリード・パートでのキャラ立ちの違いがはっきりと現れて来る。

やはり「あの曲」「あのフレーズ」を求めているファンにしてみればグラハムに軍配が上がる。現在のサクソンでは元々彼がソロを弾いていたパートを後任のダグ・スカーラットが担当しており、そのダグはオリジナルから大幅にフレーズを変えて荒々しくプレイすることが多い。その点ODSではグラハムのソロが本人の演奏で聴ける。派手さは皆無だがメロディアス、そして歌えるというソロが生で聴けるというのはファンとして感無量だ。

Graham Oliver 2

逆に本家サクソンにおけるポール・クインのソロ・パートを担当するのが相方のギャヴ。バッキングの時も含めて、いい塩梅に乾いた抜けの良いトーンはサクソン楽曲にぴったりなのだが、一方でソロは決め所に5本弦スウィープのような大技を叩き込んだりして個性を発揮していた。が、メロディーやバッキングとの調和を破壊してまでシーケンシャルなアルペジオを繰り返すのはやり過ぎ感が否めず、他の曲は目をつぶるにしても「Crusader」終盤の壮大なソロや「747(Strangers In The Night)」イントロのリードという、サクソン史上一二を争う美味しいギター・パートまでそれで通したことは“これじゃない”感があまりに強く…正直に言えばここだけは納得がいかなかった。

そんなことを思いながらも「747〜」のヴォーカル・パートが始まれば、極めてシンプルなのに不思議なほどドラマティックという初期サクソンを代表する最強の楽曲に感激し、ソロ云々は置いておいて…という気分に。さらに「Princess Of The Night」の鋭いリフを聴いて、やはりサクソンの楽曲パワーというものを思い知らされた。

グラハムがエンジン音を模したアーミングとパワー・コードのリフで「Motorcycle Man」をスタートさせると、バンド、ファン、そして会場全体の爆走ムードが一気に加速する。そして本編最後、クライマックスと言ったらやはりこれしかないだろう、「Wheels Of Steel」。この曲では観客と掛け合いをするというのがお馴染みだが、その前にブライが「Devil Rides Out」のサビを歌うとギャヴが同曲のギター・ソロ・パートに移行するという展開が面白かった。「Devil〜」なんて本家サクソンのライヴでまずやらない曲なので、完全に意表を突かれた形だ。

OLIVER DAWSON SAXON 3

アンコールではまず1人で登場したグラハムが、「Sixth Form Girls」や「Never Surrender」などのリフを1回しずつ弾くことで“この曲を聴けるのか!”とファンを期待させて落とすというじらし作戦を展開し、さらにジミ・ヘンドリックスやAC/DC、盟友モーターヘッドなどの有名リフでタメにタメてから「Power And The Glory」がスタート。このリフもまたサクソンの作り上げた歴史的名リフだが、そこからあふれるグルーヴ感とスケールはまさしく往年のサクソン。そして最後を飾ったのは「And The Band Played On」。曲中に登場する“Rainbow”という言葉をブライがわざわざ“Ritchie Blackmore’s Rainbow”と言い換えていることに笑わせてもらいつつ、観客の合唱も交えて大団円を迎えたのだった。第1回モンスターズ・オブ・ロック出演時の思い出を歌ったこの曲には、ODSの面々が東京で初めてプレイしたという記念の意味が新たに刻まれることになった。

OLIVER DAWSON SAXON 4

欲を言えば「20,000 Ft.」などのスピード・ナンバーがもっとあっても良かったのではないか、ODSが頻繁に演目に組み込んでいた「Redline」がなかったのは残念だなどと、セットリストに注文をつけようと思えばいくらでもつけられる。要するに聴きたい曲が多すぎて時間はまったく足りなかったし、あと1時間は歌い続けられるというサクソン・マニアは多かったのではないか。しかし少なくともグラハムとスティーヴの発散するかつてのサクソンそのもののサウンドが、真性ブリティッシュ・メタルに飢える我々ファンの心を見事に満たしてくれたことは間違いない。

初期の頃はピアノを頼りにチューニングしていたんだ

ちなみにこの機会に、筆者は長年抱えていた疑問をグラハムとスティーヴにぶつけてみた。初期サクソンの4作品は全弦半音下げチューニングが基本ながら、特に最初の3枚辺りの曲をコピーしようとすると、微妙にチューニングが合わないという問題が起こることも間々あるのだ。もしや初期のヴァン・ヘイレンのように基準値を微妙に変えたりしていたのだろうか? これに対する2人の回答は至極単純で微笑ましいエピソードだった。

グラハム:最初の頃はピアノに合わせてチューニングしていたんだよ。ポール(クイン)がスタジオにあるピアノを「ポーン」と鳴らして、それを聴いてギターとベースを合わせるわけ。ギター用のチューナーなんて滅多に買えないような時代だったから。 

スティーヴ:それと、ビフがヴォーカルを入れる前にバック・トラックが出来た時点で、テンポが速すぎる、もしくは遅すぎると感じたら、バック・トラックのテンポを調節していたんだよ。でも2トラック・テープの時代の話だから、テンポを変えるとピッチまで変わってしまう。1stアルバムは曲によってチューニングが何種類もあるけど、それが理由なんだよ。俺があのアルバム通りのピッチで全曲演奏するとしたら、それぞれチューニングの異なるベースを3本は用意しないといけない(笑)。

グラハム:「Frozen Rainbow」でのチューニングは、セミ半音下げといったところかな(笑)。

スティーヴ:そういうわけでピアノが頼りだったわけ。そのピアノがちゃんと調律されてなかったら、俺たちも狂ったチューニングで弾くハメになるんだけどね(笑)。

OLIVER DAWSON SAXON 5

OLIVER DAWSON SAXON @Zirco Tokyo 2019.9.6 セットリスト

  • 1. Rock ‘N’ Roll Gypsy
  • 2. Strong Arm Of The Law
  • 3. Rainbow Theme〜Frozen Rainbow
  • 4. Denim And Leather
  • 5. Hungry Years
  • 6. Dallas 1 PM
  • 7. The Eagle Has Landed
  • 8. Crusader
  • 9. 747(Strangers In The Night)
  • 10. Princess Of The Night
  • 11. Motorcycle Man
  • 12. Wheels Of Steel
  • (encore)
  • 13. Power And The Glory
  • 14. And The Bands Played On