ジェフ・コールマン『EAST OF HEAVEN』インタビュー:「これまでとはまったく違う作品になった」

ジェフ・コールマン『EAST OF HEAVEN』インタビュー:「これまでとはまったく違う作品になった」

近年では日本において矢沢永吉のツアー・メンバーの常連となったり、ピンク・フロイド『THE DARK SIDE OF THE MOON』(1973年)などで知られる伝説的エンジニア:アラン・パーソンズのアルバム及びツアーへの参加など、世界中で引く手あまたの名手:ジェフ・コールマン。ドラマーのシェーン・ガラース、ベーシストのケヴィン・チャウンと活動するトリオ・バンド:コズモスクアッドも含め多忙を極めている彼が、2014年の『HILLS OF GRANADA』以来7年ぶりとなるソロ・アルバム『EAST OF HEAVEN』を、昨年5月にリリースした。日本盤は同年10月25日に発表されており、エレクトリックとアコースティックの両方を得意とするジェフならではの、思慮深い楽曲が詰まったインストゥルメンタル作品に仕上がっている。

それでは早速、ジェフのインタビューをお届けしよう。ニュー・アルバムの制作背景を詳細に語りつつ、ギタリストへの細やかなアドヴァイスも盛り込んでくれたので、参考になれば幸いだ。また、レコーディングの使用ギターなども詳しく教えてくれた。こちらは最終ページの機材紹介をチェックしてみてほしい。

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JEFF KOLLMAN - EAST OF HEAVEN

EAST OF HEAVEN/JEFF KOLLMAN

CD|マーキー・インコーポレイティド | 2021年10月25日発表

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音楽ビジネスで生計を立てるなら、迅速に適応しなければならない

YG:ジェフとの取材は2019年暮れの来日以来になりますが、パンデミックに見舞われたこの約2年間、どう過ごしていましたか? あなたはツアーで年中引っ張りだこでしたから、大きく生活が変わったのではないでしょうか。

ジェフ・コールマン(以下JK):新作『EAST OF HEAVEN』を出す機会を得た時に、改めてパンデミックとロックダウンについて考えてみた。何しろ、僕たちが生きてきた中で経験したことのない出来事だったからね。世界中に、ポジティヴな感情とネガティヴな感情が入り混じっていた。僕にとっては、家族と過ごす時間が増えたのは幸いだった。シカゴ郊外にセカンド・ハウスを購入し、子供たちをアメリカ中西部で最高の公立学校に入学させることができたんだ。それまではカリフォルニアに住んでいたけど、あそこは昔も今後も娯楽ビジネスの中心地だ。NYやナッシュヴィルなどと並んで、ミュージシャンや俳優を目指す人が赴くべき場所だろう。でも、学校の質はあまり良くない。今回の引っ越しは僕の家族…特に娘たちにとって非常に大きなチャンスになったんだ。

さて、『EAST OF HEAVEN』の話に戻ろうか。このアルバムは2つの要素が重ならなければ実現しなかった。1つ目は、矢沢永吉との2回の冬のツアーを含め、僕のスケジュールから1年半のツアーがキャンセルになったこと。僕たちは日本へ入国できなかったんだ。そしてさらに重要なのが、パンデミックとそれに伴うジェットコースターのような感情が、自分の曲作りに異なる視点をもたらしたこと。おかげで、これまでの僕の作品とはまったく違うものが生まれたね。

YG:リリース自体は、2014年のアコースティック・アルバム『HILLS OF GRANADA』以来7年ぶりとなります。そもそも、この7年という歳月の間にも次作のことを考えることもあったかと思いますが…。

JK:まあ、僕は常にアルバムを作っているから、1枚を作るのに5年以上もかかっているわけではないということは分かってほしいね。コズモスクアッドの『THE MORBID TANGO』(2017年)、(エイジアのジョン・ペインとラナ・レーンのエリク・ノーランダーによる)デュークス・オブ・ジ・オリエントの『DUKES OF THE ORIENT』(2018年)などもリリースされたし、2019年にはアラン・パーソンズの『THE SECRET』も出ている。それぞれ、適切な音楽を適切な時期に出すことができたと感じているよ。無理矢理にではなく、インスピレーションに従って出すべきだから。時には、経済的な利益を得るためにツアーに集中することもあるよ。例えば2004年から2014年までの間は、映画やテレビ番組の楽曲提供に集中していた。主に映画の予告編の曲を作っていたよ。ヤング・ギターの読者が学ばなければならないことは、音楽ビジネスは常に変化していて、これで生計を立てようとするならば僕たちアーティストは迅速に適応しなければならないということだね。

YG:本作はアコースティックとエレクトリックの要素がバランス良く配置された、とてもオーガニックで心地よく美しい作品に感じました。以前「アコースティック・ギターを弾くことは癒しだ」と言われていましたが、やはり今回は世間がこのような状態であることを受けて、なおさらアコを手にする機会が多かったのでしょうか?

JK:ああ、そのこともあるけど、ちょっと違うんだ。ランディ・ローズがオジー・オズボーンの音楽にクラシックの要素を取り入れているのを聴いて以来、僕はずっとアコースティック・ギターを弾いてきた。また、2000年にトミー・エマニュエルと会ってジャムったことも、僕に大きなインスピレーションを与えてくれた。最近の僕がスティール弦のアコースティックで弾く演奏は、トミーに大いに影響を受けているんだよ。作曲スタイルはトミーとは少し違うけどね。彼はカントリーの名手チェット・アトキンスからの影があり、僕もそこが大好きだけど、僕自身のスタイルの一部というわけではない。

YG:あなた1人で完結していると思われる楽曲とバンド・アンサンブルの楽曲とに分かれているようですが、バンド曲で参加したメンバーはドラムにおなじみのシェーン・ガラース、そしてジョノ・ブラウンが参加。ポール・シハダがベース、ガイ・アリソンがキーボードを務めていますね。

JK:音楽の人生の旅を続けていると、音楽の解釈の仕方を僕と同じように理解していたり、適切な部分を加えてくれたりするミュージシャンを見つけるようになる。例えば、シェーンは僕と2日しか誕生日が違わない。1997年にアリゾナで宇宙が僕たちを引き合わせてくれたんだ。まるで兄弟のようにお互いを理解している。また、2012年に亡くなった兄のトミー(・コールマン、ドラマー)ともこのようなつながりがあったよ。

『EAST OF HEAVEN』に入った曲を聴いていると、様々なプレイヤーによって曲がどのように発展していくかを想像することができるよ。例えば、ECM(ECMレコード時代)のパット・メセニーのような曲ができたとしよう。ここにはシェーンが適役かな? そうかもしれないね。あるいは、ピーター・アースキンのようなスタイルの巨匠に声をかけるかもしれない。これはプロデューサー視点で判断していくんだ。「Montecatini Waltz」でベースを担当したポール・シハダは、ジャズのバックグラウンドを持ち、メロディックなソリストでもあるので、完璧な選択だった。このアルバムに唯一入っているベース・ソロを担当しているよ。

YG:自分の中でまずアイデアを出していくうちに、この曲は1人で、この曲はバンドで…という振り分けができていったのでしょうか?

JK:新曲を作る時はいつもそうだよ。「この曲はどんな風にしようかな」と自問する。「ソロ曲? インストゥルメンタル? ヴォーカル曲? 誰が歌えばベストなのか? 詞の内容は?…」とね。『EAST OF HEAVEN』の制作期間中、僕たちはロックダウン下にあったので、その状況に対応せざるを得なかった。例えば、シェーンやキーボードのガイ・アリソンに曲(のデータ)を送ったりね。僕だけで作った曲もある。これらは、作曲の過程で決めていくものだよ。緊急事態宣言の前とあまり変わらなかったけど、一緒の部屋でジャムりながらアイデアを練ることはないんだ。

YG:バンドが関わっている楽曲はオーガニックなやり取りが求められるロック・ソングばかりですが、レコーデイングは対面でできなかったんですよね? 

JK:そう、すべてネットを介して行なったよ。でも僕が望んでいたことは非常に具体的だったので、難しくはなかった。彼らはプロ中のプロで素晴らしい耳を持ち、アイデアを適切に実行する能力があるからね。

YG:ちなみに、これまでの共演ミュージシャンのヴァラエティを見ても、多才なテクニックとセンスでどんなジャンルにも対応できるのがジェフの魅力だと常々感じていますが、アイデアが豊富過ぎてコンセプト作りに迷うことはないのですか? それとも自分のソロ作品の方向性は、自分らしさを表現できるかどうか…といったことを基準にしているのでしょうか?

JK:年を重ねるごとに、より集中して時間をかけることができるようになった。作曲方法も以前とは少し変わってきた。常に感情の深みが増し、色や陰影の豊かな音の情景を作ることができていると感じているよ。

ジェフ・コールマンとSG