ジェフ・コールマン『EAST OF HEAVEN』インタビュー:「これまでとはまったく違う作品になった」

ジェフ・コールマン『EAST OF HEAVEN』インタビュー:「これまでとはまったく違う作品になった」

生徒はまずテンポに合わせて演奏することを学ぶけど、巨匠はテンポを押し引きする

ジェフ・コールマン2

YG:「Montecatini Waltz」はジャズっぽさも感じさせる3/4拍子のワルツで、アコースティック・ギター主体ですね。バッキングもリードもアコで、エレクトリックに負けず劣らずの饒舌ぶりに驚きます。ご自身ではギターを持ち替える時に違和感を感じることはないのでしょうか? 

JK:うん、10代の頃からアコースティック・ギターやクラシック・ギターを演奏してきたからね。こちらにはエレクトリックとはまた違った感覚やアプローチがあるんだ。面白いことに、僕は曲をあまり分析しない。それよりも、全体的なフィーリングを考えるよ。僕はソロではテンポを少し伸ばして、ルバートで演奏している。ロマンティックなクラシック曲でも、このような手法を聴くことができるよね。生徒はまずテンポに合わせて演奏することを学ぶ。しかし巨匠は、ドラマティックなムードや効果を得るためにテンポを伸ばしたり、押したり引いたりする方法を知っている。

YG:「Isolation 2020」はまたエレクトリック・ギター主体になりますが…。

JK:ゆっくりした曲だよね。こういったものは映画や映像のための短い組曲だと考えているよ。僕は、音楽が映像とどのように連動するかを見ることで、大きなインスピレーションを得るんだ。

YG:なるほど。静けさと孤独感がありつつもどこか希望を感じさせる雰囲気ですね。ここはスライド・バーで弾いていますか? トレブルが強調された、ちょっと変わったサウンドに思いましたが、特殊な音作りをしたのでしょうか? 

JK:フェンダー“Wildwood Blue Tens”モデルのストラトキャスターを1965年製のフェンダー・アンプ“Twin”に接続している。スライド・バーとアームを同時に使ったり、行ったり来たりしているよ。

YG:人の声か呼吸のような効果音も聞こえますが…?

JK:統合失調症の人の雰囲気を掴もうとしたんだ。ある時娘のライラが「頭の中では、声はどんな風に聞こえるの?」と訊いてきた。そこで僕たちは、精神病患者に症状が表れている時の様子を捉えたサウンド・クリップをいくつか見つけ、トラックに入れた。耳を澄ませば、たくさんのことが起こっているのが分かるよ。

YG:幻想的に始まるタイトル・トラックの「East Of Heaven」は素晴らしいですね。タブラを彷彿させるパーカッションや音使いなど、エスニックなサウンドが満載です。ソロはしっかりロックで、骨太なトーンによる力強いプレイが楽しめます。ジミ・ヘンドリックスの「The Third Stone From The Sun」も浮かびました。

JK:この作品はジョノ・ブラウンとの共同制作だ。彼と僕は、映画やテレビ用の曲を多数作っている。ここでのアプローチは、よりテクスチャーとレイヤーを重視したものだ。ひとつのギター・パートにこだわらず、色や陰影を表現している。ソロの箇所は他の部分と大きく対比をつけるため、本当に集中して録った。このアルバムの中で一番好きなソロだよ。ジミ・ヘンドリックスのことは演奏する時によく頭に浮かぶね。彼はまさにこの世のものとは思えない、革新者的な存在。楽器を超越しているよ。

YG:2本のアコースティック・ギターのメロディーがカウンターポイント(対位法)のように美しく絡み合う「So Long Ago」。これは1つのパートを先に思いついて、もう片方のパートを考えていったのでしょうか? スムーズに出てきましたか?

JK:対位法を使うに適切なメロディーを見つけるのに少し時間がかかった。カポを使っていて、それもこの曲に少し変わった質感を与えている。ソロはナイロン弦のクラシック・ギターで、ケニー・ヒルというメーカーだ。メインのリズムはマーティン“000-18”のスティール弦でフィンガー・ピッキングにしたよ。爪を使わない音が好きなんだ。皮膚の部分でピッキングすると、ジェフ・ベックのように人間的に聴こえるから。

YG:「Hidden Dimensions」は、半音でぶつかるアコのメイン・フレーズが印象的。美しいメロディーとオリエンタルな響きは「East Of Heaven」にも通じる内容です。後半はバンドが入って、“隠れた次元”が顔を見せるように荒々しいギター・ソロが展開されますね。どんなところからインスピレーションを得ましたか?

JK:「East Of Heaven」と同じアプローチだ。録ったスタジオも同じで、共同作曲者もジョノ。タイトルが示すように、様々なムードや次元を通過していく曲だ。ある評論家が指摘していたけど、誰にでも、ちょっと落ち着かないような緊張感のある瞬間を経験することがあるよね。それを意図的に表現したというわけ。歌詞というツールを使わずに、絵を描こうとしたんだよ。

YG:「The Darkness Resides」はアコのみによるダークな印象。前半はテンポが自由なのでインプロヴィゼーションかと思いますが、リフから弾きまくりのソロまで自由自在ですね。

JK:この曲は、アルバム中最も演奏が難しいんだ。ソロ・ギターというのは裸のようにむき出しで、隠れようがない。だけどコードのハーモニーには、これまでの曲作りでは発見できなかった面白いムードを見つけることができたんだ。冒頭のコードから、人工ハーモニクスでテンション音を鳴らしている。1st、♭5th、♯7th、m3rd、♯5thという音をすべて使って、オルタードと呼ばれるコードを形成しているんだ。

YG:「See You On The Other Side」は、『HILLS OF GRANADA』の「Brother To Brother」に続き、亡きお兄さんのトミーへ捧げるアコースティック曲とのことですが、親しみやすさと温かみを感じる内容です。最後にはエレクトリック・ギターでソロが展開され、フィードバック音も含めたロング・トーンによる美しいメロディーが印象的ですね。今回、どんなことを思い浮かべながら形にしていきましたか?

JK:トミーの命はあまりにも早く奪われてしまった。僕の唯一の兄弟であり、音楽的なソウル・メイトだった。きっと、エドワードと兄のアレックス・ヴァン・ヘイレンも同じような絆で結ばれているだろう。トミーは10代の頃、僕のプレイを指導したり批評したりしてくれたけど、言うまでもなくとても素晴らしいドラマーだった。17歳になるまでに何百もの曲を一緒に作ったけど、彼が僕に与えた影響の大きさは計り知れないね。音楽的な道標だったし、同時に僕の人生の案内役にもなってくれた。「See You On The Other Side」のような曲を書く時、僕はただ放心状態になる。頭で考えるのではなく、感じたものをそのままをプレイに出しているんだ。このソロは美しくもあり、同時に根底には絶望と憧れがあるね。

YG:わかりました。さて、ジェフの近況についてですが…。現在のメイン活動はプログレ/ロック界のレジェンド:アラン・パーソンズだそうですね。他にはどんなプロジェクトが進んでいますか? 先日、コズモスクアッドでのライヴも行なわれたようですが、ライヴに関してもまたスケジュールが埋まりつつありますか?

JK:本当に忙しくなっているよ。2021年11月に、フロンティア・レコードからアランの 『THE NEVERENDING SHOW』というライヴDVD、CDボックス・セット、そしてアナログ・レコードをリリースした。フランスのチャートでは、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズ、ABBAなどを抑えて1位を獲得したんだ。このバンドに参加することはとても素晴らしいことだ。アランは本当にメンバー思いで、僕にギター・ソロのスポットライトと創造の自由を与えてくれる。とても幸せだった。今回レコーディングに参加したアランの新作は、春の終わりにリリースされる予定だ。1月下旬からは世界ツアーを開始し、年内いっぱいかけて行なう。現在のところ、日本での公演は予定されていない。アランと話し合ったけど、彼もバンドも日本に行きたいと思っている。幸運を祈っているよ。

コズモスクアッドについては、新譜とまではいかなくても何曲かレコーディングすることになっている。ロックダウン中にいくつかのショウを行なったよ。僕たちはメンバー3人の予定を合わせさえすれば、活動できるから。もしコズモスクアッドの「Morbid Tango」(『THE MORBID TANGO』収録)を聴いていない人がいたら、ぜひお薦めするよ。シェーンとケヴィンと僕の最高のコラボレーションだ。ケヴィンと僕の関係は、ヘヴィ・メタル・バンド:エドウィン・デアーの時代に遡る。彼は完璧にフィットしているよ。25年以上前からの知り合いが、いまだに皆一緒に演奏しているなんてすごいよね!!!

YG:また日本へ戻って来てくれるのを楽しみにしています。読者にメッセージをお願いします。

JK:君の音楽が、君の人生に大きな幸せと喜びをもたらすことを願っている。インスピレーションを大切にしてほしい。2022年には会える予定だから、準備をしておいてくれよ!!