フェイツ・ウォーニングのジム・マセオス(g)とFMのスティーヴ・オーヴァーランド(vo)──誰も予想だにしなかったコラボ作の登場だ。先日、セルフ・タイトル作『KINGS OF MERCIA』でデビューを飾ったキングス・オヴ・メルシアは、プログレッシヴ・メタルの始祖=ジムと、ブルージーなAORシンガー=スティーヴの運命的邂逅により、’21年に誕生した。アルバムの全曲を書いたのはジムだが、フェイツ・ウォーニングとはまるで異なる、シンプルかつオーソドックス、そしてブルージーでもある音世界が実に興味深い。また、ドラマーとしてあのサイモン・フィリップスが参加しているのも話題だ。
では、このキングス・オヴ・メルシアはどんな経緯で結成に到ったのか? 『KINGS OF MERCIA』収録曲はどのようにして仕上げられていったのか? 首魁ジムにたっぷり語ってもらった…!!
俺とスティーヴはまだ一度も実際に会ったことがないんだ
YG:まずはキングス・オヴ・メルシア始動のキッカケから教えてください。あなた自身、何か新しいプロジェクトがやりたいと前々から考えていたのですか? それとも、レーベルからの依頼で?
ジム・マセオス(以下JM):そのどちらでもない。言ってみれば、プロジェクトの狭間だった。フェイツ・ウォーニングで『LONG DAY GOOD NIGHT』(’20年)をリリースし、TUESDAY THE SKYの新作『THE BLURRED HORIZON』も録り終えたものの、コロナ禍でツアーが組めず、次にやることを探していてね。それでいつも通りに、何となく曲を書き始めたのさ。すると、最初の数曲がすぐ出来上がり、そのサウンドと方向性が気に入ったんで、「次にやるのはコレだ」との確信に到ったんだよ。
YG:曲作りを始めたのは?
JM:確か、’21年の早い時期だったんじゃないかな。特に“これ”といった方向性や考えナシにね。
YG:『KINGS OF MERCIA』を聴いての印象は“ブルージーなハード・ロック”でしたが、そうしたイメージやヴィジョンは元々持っていなかった…?
JM:始めるに当たって唯一持っていたのは、「フェイツ・ウォーニングとは違うことをやろう」という思いだけだった。だって、(フェイツ・ウォーニングと)同じようなことをただやるんだったら、既に完璧な現バンド・メンバーとやればイイんだからね。音楽的に似たようなことを、他のメンツでやっても意味がないし、そもそもそういったことには興味がない。僕がヘヴィでプログレッシヴなことをやるために、フェイツ・ウォーニングはあるんだからさ。
ブルージーなハード・ロックという点では、確かにスティーヴの声とメロディーがそうした雰囲気を盛り上げてはいるけど、音楽的にはかなりストレートなヘヴィ・ロックだと思っている。その手の曲は「Sweet Revenge」だけで、他はそれほどブルース寄りになっていないと思うな。
YG:ヴォーカルは当初、30~40人を試したそうですね?
JM:いや、シンガーの候補を考えた時、単に40人ほどリストアップしたというだけだよ。それに、そのリストはかなりザックリとしていて非現実的というか、到底(起用が)無理なシンガーもそこには含まれていたんでね。スティーヴを推薦される前に、実際に連絡を取ったのは2人か3人だったな。
YG:スティーヴを推薦したのは、懇意にされているジャーナリストだったそうですが、これまで彼とはあまり接点がなかったのでしょうか?
JM:初期の頃のFMは知っていたよ。でも、最近の作品は聴いたことがなかった。だから、スティーヴを推された時、最近のFMと彼のソロ作品なんかをチェックしたんだ。そしたら、彼のアプローチが──特に、(声の)トーンや(歌メロの)フレーズなんかが気に入ってさ。このプロジェクトにピッタリだと思ったね。
YG:リズム隊の人選も興味深いです。まずドラムスのサイモン・フィリップスは、昔から彼のファンだったそうですね?
JM:初めてサイモンの存在を知ったのは──多くのHR/HMファンがそうだと思うけど──ジューダス・プリーストの『SIN AFTER SIN』(’77年)だった。あのアルバムは今でも僕のお気に入りなんだ。それから、MSGのファースト『THE MICHAEL SCHENKER GROUP』(’80年)にも、全編に素晴らしいドラミングが収められているよね。勿論、その後の参加作品も好きなのが山ほどある。だから、彼のスケジュールが空いていてキングス・オヴ・メルシアの音楽を気に入ってくれたのは、本当にラッキーだったね。
YG:ベースはフェイツ・ウォーニングの同僚:ジョーイ・ヴェラですね?
JM:彼とはもう25年も一緒に仕事をしているけど、知り合ったのはそれよりもずっと前で──だから、何を期待すれば良いのか、僕にはよく分かっていた。当初は他のベーシストも候補に挙がったけど、やはり顔馴染みで信頼出来るヤツがイイな…と思ったんだ。
YG:バンド名の由来を教えてください。
JM:スティーヴとは、バンド名について何度もやり取りしたんだ。安易にOVERLAND/MATHEOSみたいな名前を付けるつもりはなかったからね。でも、どうして“KINGS OF MERCIA”になったんだっけ…。僕達2人が住んでいた場所をつなごうとしたのかな? スティーヴは英イングランド在住で、僕は米ニュー・イングランド在住。そうした場所について調べているうちに、ウィキペディアの“Kingdom of Mercia”(※中世イングランドに栄えたマーシア王国)というページに行き当たったんだ。その見た目と響きが気に入り、スティーヴも同様に気に入った…というか、2人とも気に入った名前はそれぐらいしかなかったから、すぐにそれで決定したよ。但し、この名前に何か意味を持たせたり、何かを象徴させたり…といったことは全くないんだ。
YG:歌詞と歌メロはスティーヴが書いたそうですが、曲を渡す際、何かアイデアやイメージを伝えたということは?
JM:歌詞もメロディーも100%スティーヴによるモノで、最初に「Humankind」で彼の成果を確認した時、僕から何か指示や助言をする必要はないと確信したよ。
YG:スティーヴと直接会って、一緒に楽曲を仕上げていったのですか? それとも、ネットを介してファイルのやり取りで?
JM:実をいうと、俺とスティーヴはまだ一度も実際に会ったことがないんだ。(共作の)すべてはリモートで行なわれた。というのも、それこそが僕の好むコラボの方法だからね。誰かに監視されることなく、自分の力で新しいアイデアを消化・吸収し、色々なことを試す時間がある──僕はそうするのが好きなのさ。
YG:『KINGS OF MERCIA』収録曲の中には、過去のアイデアの流用や、元々他のバンド用に書いた曲なども含まれていますか?
JM:ほぼ全曲、このプロジェクトのために作ったけど、2曲だけ未使用のアイデア・フォルダに眠っていたのを引っ張り出してきた。「Everyday Angels」と「Sweet Revenge」さ。どっちも、何年か前に書いたものの、どこで使ってイイのかよく分からなかった曲だった。
キングス・オヴ・メルシアだとより快適にソロを弾けた
YG:『KINGS OF MERCIA』のレコーディングでのギター周りの使用機材を教えてください。ますはギターから。
JM:曲によって多少の違いはあるけど、基本的に’09年製のPRSギターズ“SC245”と’91年製の同“Custom 24”を左右それぞれのチャンネルで使った。あと、いつも’73年製のギブソンSGをどこかで使うようにしていて、今回は「Your Life」のセンター・パートの一部で使っている。クリーン・パートに関してもPRSギターズで、主に“Hollowbody II”で弾いたけど、コイル・スプリットのオプションが付いている“S2 Custom 24”もクリーンに向いているから、それも使ったな。
YG:アコースティック・ギターは?
JM:古いオべーションの“Elite”を使った。元々はあまり好みの音じゃなかったんだけど、ここでは正しい選択だったと思う。あまりキラキラしていないし、かといって素朴過ぎないからね。
YG:アンプは何を?
JM:今回、初めて完全にデジタルのみにしたんだ。いつもは本物のアンプとモデリングやプロファイリングのコンボなんだけど、今回エレクトリック・ギターはすべてをケンパーで鳴らしたよ。
YG:リアンプなどは?
JM:(ミックス&マスタリング・エンジニアの)ヤコブ(・ハンセン)がかなりリアンピングしていたようだけど、何を使ったのかは分からないな。
YG:全曲のチューニングを教えてください。
JM:色々使ったよ。全弦半音下げもあれば、ドロップC♯やドロップD、全弦1音下げもあったと思う。正直言うと、正確には憶えていないんだ…。
YG:ギター・ソロはどれも気負いなく、リラックスして伸び伸び弾き、より素のあなたが出ているように感じました。
JM:その表現は嬉しいね! まあ、フェイツ・ウォーニングやARCH/MATHEOSなんかの場合、ソロに関しては少し自意識過剰になることがあるからさ。でも、僕のソロのスタイルは元々シンプルでメロディックだから、複雑な楽曲においては、必ずしも音楽を引き立てているとは言えないし、何も加えることが出来ていない…と感じることもあるんだ。そうした点でキングス・オヴ・メルシアだと、自分の自然なスタイルが曲によりフィットしていると感じることが出来て、より快適にソロを弾くことが可能だった。殆どのソロはインプロで弾いているよ。
YG:『KINGS OF MERCIA』収録曲の中で、ヤング・ギター読者に最も注目して欲しいギター・プレイというと?
JM:アルバム全体、全楽曲に満足してはいるけど──ギターの作曲の観点からすると、「Your Life」が際立っているかもしない。特にソロ・パートが気に入っていて、それに続くギターの対位法的な旋律をまとめるのも楽しかったな。
YG:ちなみに、キングス・オヴ・メルシアは一度きりのプロジェクトですか? それとも、今後も継続され、セカンド・アルバムの計画もあるのでしょうか?
JM:スティーヴとは既に“KoM2”について話しているよ。実は、ファースト・アルバムのセッションで残った曲が幾つかあるから、恐らくそこから取り掛かることになるだろうな。もし、みんなのスケジュールが上手く調整出来たら、来年(’23年)の後半にはまた何かリリース出来るんじゃないか…と思っているよ。まあ、まだどうなるか分からないけどね。
YG:ライヴ/ツアーの予定はどうでしょう?
JM:現時点では、何も予定はない。もしオファーをもらったら、ツアーをするのも楽しいと思うけど、どうだろう…。まだ分からないな。
YG:ライヴをやるとなるとセカンド・ギタリストが必要になるかと思いますが、誰か候補はいますか?
JM:う~ん、どうだろう? でも、ギター1本の4人編成のままライヴに臨み、必要な時だけスティーヴがセカンド・ギターの役割を担う…というのが理想かな。でも、まだまだ先の話だな…。