ロック/メタル界きってのワーカホリック・ギタリスト/コンポーザー/プロデューサー:マグナス(マグヌス)・カールソン。ギターだけでなく、ベースは勿論のこと、キーボードなどもコナすマルチ・プレイヤーで、アレンジャーとしても才気を揮いまくっている彼は、果たして休むことがあるのだろうか? ここ1〜2年で、彼が何らかの形でリリースに携わったバンド/プロジェクトは、プライマル・フィア、マグナス・カールソンズ・フリー・フォール、ハート・ヒーラー、アレン/オルゾン、そしてアネット・オルゾンのソロ…と、かなりの数に上る。それでも、かつて「曲を書けば書くほど、どんどんアイデアが湧いてくる」と発言したこともあるその勢いは、まだまだ全く止まる気配すらない。アネットのソロ作『STRONG』が’21年9月に出てまだ半年も経っていないのに、つい先頃、ザ・フェリーメンのサード・アルバム『ONE MORE RIVER TO CROSS』がリリースされたのだ。
ザ・フェリーメンとは、マグナスがロニー・ロメロ(vo:ローズ・オブ・ブラック、リッチー・ブラックモアズ・レインボーなど)&マイク・テラーナ(dr:イングヴェイ・マルムスティーン、アクセル・ルディ・ペル、レイジ、マスタープラン、ヴィジョン・ディヴァインなど)と組んだ、言わばプチ“スーパー・バンド/プロジェクト”。これまでに『THE FERRYMEN』(’17年)『A NEW EVIL』(’19年)を発表しており、飽くまでオーソドックスながら様式美風味もあるドラマティックなHR/HMサウンドで人気を博している。
今回、新作において、従来の路線をしっかり引き継ぎつつも、これまでになくシンフォニックな曲想に挑んだりもして、ザ・フェリーメンに新たな息吹を吹き込んだマグナス。これまで通り、ドラム以外の楽器パートをひとりで担当した彼に、改めてザ・フェリーメン始動の経緯から、『ONE MORE RIVER TO CROSS』制作のあれこれまでを語ってもらった…!!
INFO
いつだって、それぞれのプロジェクトやシンガーに合わせて曲を書いている
YG:そもそも、ザ・フェリーメンはどのようにしてスタートしたのですか? あなたがロニー・ロメロやマイク・テラーナと「何かやりたい」と思い立って?
マグナス・カールソン(以下MK):最初に「ロニーとアルバムを作らないか?」と提案してきたのは、フロンティアーズ・レコードのセラフィーノ・ペルジーノだった。それでロニーに連絡してみたら、彼がドラマーとしてマイクを推薦してくれたのさ。2人とも素晴らしいミュージシャンだから、すぐに「一緒にやりたい!」とセラフィーノに言ったよ。バンド名は、「Ferryman」(『THE FERRYMEN』収録)という曲が先にあって、そこから付けたんだ。
YG:最初からスタジオ・プロジェクトとして始動したのですか? それとも、当初はバンド編成を計画していたものの、ベーシストやキーボーディストが見つからず、結果的にトリオのプロジェクトになったのでしょうか?
MK:最初から、スタジオ・プロジェクトとして始めたよ。ベーシストとキーボーディストを探すのはそんなに大変なことではなかったけど、「自分でやるのも良いかな」って思ったんだ。まぁ、今後もしライヴをやることになったら、誰かを雇うことになるけどね。
YG:ロニーとマイクのことは、それ以前からよく知っていたのですか?
MK:マイクのことは、イングヴェイ(・マルムスティーン)のバンドでプレイしていた頃から、アルバムを聴いて知っていたよ。本当に素晴らしいドラマーで、正にレジェンドだ! 一方、ロニーについては、YouTubeでカヴァー曲を歌っているのを観たことがあってね。確か、彼がレインボーに迎えられた頃だったと思う。それで、あの歌声に圧倒されたんだ。だから、レーベルに彼を推薦された時は正に二つ返事だったよ。
YG:ザ・フェリーメンを始めるに当たって、目指した音楽性はありましたか? ロニーがレインボーのシンガーで、ローズ・オブ・ブラックでも歌っている…ということを意識して曲を書いたということは?
MK:勿論、それらのバンドのことは意識したよ。あと、ディオもね。オールドスクールなリフとプログレッシヴな要素をミックスし、その上で幾らかヘヴィな曲を書こうとしたんだ。まぁ、ロニーの歌を聴けば、誰だって自然とディオをイメージしちゃうよね。だから、そういったバンドからインスピレーションを得た…とは言えるだろうな。
YG:過去2作について、それぞれ簡単にコメントを頂けますでしょうか?
MK:ファースト・アルバム(『THE FERRYMEN』)はいつだって特別だ。どう転んでいくか分からない…という点でも面白い。殊に、メンバー全員が違う国にいて、スタジオで顔も合わせない…となるとね。実際のところ、ロニーともマイクとも個人的な付き合いはなかったから、最初はどういう結果になるか見当すらつかなかったよ。個人的なハイライトは、写真撮影とビデオ撮影のために(スペインの)マドリードで3人が初めて顔を合わせた時だったな。
そして、セカンド(『A NEW EVIL』)の時はもう、お互いのことがよく分かっていた。ロニーは俺が以前にやっていたラスト・トライブのことを気に入ってくれていて、「あんな感じの曲も書いてくれないか?」と言っていたし。どっちのアルバムも誇りに思うけど、ファーストよりもセカンドの方が、よりお気に入りの曲が多いかな。
YG:ニュー・アルバム『ONE MORE RIVER TO CROSS』の制作はいつ始めましたか? その時点で、同時進行していたプロジェクトはありましたか?
MK:多分、1年ちょっと前じゃないかな。同時進行でやっていたことはないよ。少なくとも作曲の過程では、ひとつのアルバムに集中するようにしている。色々やっていると、それぞれを切り離すことが難しくなるからね。
YG:今回もレコーディングは3人個別に行なったようですが、あなたはプロデューサーとして、リモートでつなぐなどして指示を出したりもしましたか?
MK:いや、いつも自分のスタジオでデモを作るんだけど、打ち込みドラムや仮歌を入れて、全体の雰囲気が伝わるようにするだけで、ロニーとマイクには「自由にやってくれ。デモを真似する必要はないから」と言っているよ。
YG:アルバム・タイトルを『ONE MORE RIVER TO CROSS』にした理由を教えてください。“越えるべきもうひとつの川”というのは、何かの比喩ですか? コロナ禍の現在の世界を表しているような気もしますが…?
MK:アルバム・タイトルはロニーの提案で決まったんだ。このバンドはいつも、収録曲をすべて用意してからその中の曲名をピック・アップしてタイトルにしている。“越えるべきもうひとつの川”というのは、人生の大きな変化のことだよ。コロナ云々というワケではなく、人生を送る上で大きな変化を起こすためにどうやって強さや勇気を見出すか──そういうことだ。
YG:『ONE MORE RIVER TO CROSS』収録曲はすべて書き下ろしですか?
MK:そうだよ。僕はどの作品でもそうしている。使い回しは一切しない。いつだって、それぞれのプロジェクトやシンガーに合わせて曲を書いているんだ。
YG:あなたはギターでもキーボードでも曲作りを行ないますが、新作の中で「これはギターで書いたからこそ」という曲はありますか?
MK:う〜ん、どうだろう? 正直、分からないな…。ギターやキーボードで曲を書くこともあれば、ヴォーカルやドラムから…という時もあるし、時には“すべて一斉に”ということだってあるからね。
YG:新作は前2作に比べてよりヴァラエティに富み、楽曲スタイルの幅が広がったと思いました。これは意図して? それとも、たまたまそうなっただけでしょうか?
MK:曲を書く時は、あまり考えないようにしている。楽しんで、かつ自分が聴きたい音楽を作るよう心掛けているよ。
YG:特に驚いたのが、これまでになくシンフォニックなテイストが強い「One More River To Cross」です。シンフォニックという点では、「The Other Side」も新機軸ではないですか?
MK:僕はオーケストラ・サウンドを用いるのが大好きなんだ。より良いサウンドを得るために、いつも多くの時間を費やしている。そもそもシンフォニックな要素は、HR/HMとの相性がとっても良いと思う。だから、これまでにも多くのプロジェクトで使用してきたよ。