「音は全然違うけど、ギターは変わってない」五味孝氏、T-BOLANの新作『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』を語る&REC使用機材

「音は全然違うけど、ギターは変わってない」五味孝氏、T-BOLANの新作『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』を語る&REC使用機材

’90年代のT-BOLANでは、ギターをダブルで録るのって1回もやったことがないんですよ

T-BOLANライヴ

YG:アルバム全体を見渡してみると、ミクスチャーが入ったロック曲のグループと、ピアノを中心としたバラード系のグループ、大きく2つに分かれているイメージですね。ピアノ中心の曲に関しては、森友さんご自身が弾いたトラックを使っているわけですか?

五味:いや、確かに森友はピアノを弾きながら歌いますけど、レコーディングに使うほどじゃないんですよね。彼自身もアルバムで使おうとは毛頭思ってなくて、録音する時はピアニストに任せたいと。昔からピアノに憧れを持っているから、弾くのは大好きみたいです。

YG:だからこそ、アルバムに入る曲は専門のピアニストに弾いてもらいたいということですね。

五味:うん、そうそう。

YG:例えば森友さんが作曲した「祈りの空」。これはピアノとオルガンと歌だけで構成されたシンプルな曲で、五味さんのギターは入っていないじゃないですか。それこそ森友さんがピアノで作ったデモの形が、そのまま生きているのかな…とも想像したんですが。

五味:違うんです。これはね、最初彼から僕に「アレンジしてよ」って言ってきたんだけど、正直、あんまりいい曲だと思わなかったんですよ。一応1コーラスだけやってみましたが、自分でもピンと来なくて。で、あいつも別で違う形でやってみたようなんですけど、それもピンと来なかった。最終的にはキーボーディストの小島良喜さんと、レコーディング・スタジオの現場でやってみようということになって。僕もその場にいて、ピアノとオルガンだけで1から作り上がったのを聴いて、初めてその時に「あ、いい曲じゃん!」と思えた(笑)。

YG:素晴らしい。一流どころがそろうと、そんなことができるんですね。

五味:いや、小島さんはちょっと飛び抜けてますよ。普通、じゃあそこにギターを重ねて…ってなるでしょ? でも入れたいと思わなかった。「これはこの形で、もういいじゃん」って。入れる隙を感じなかったんですよ。

YG:ここまで話していただいた以外の曲に関しても、順番にお聞かせください。五味さんが作曲した1曲目の「A BRA CADA BRA ~道標~」、これは「Re:I」と同じ路線の、ミクスチャー風味のあるロック・ナンバーですね。

五味:これもね、もともと森友に渡していた中にあった曲で、「これいいじゃん、やろうよ」って。T-BOLANのために作ったわけじゃないアイデアが元になっているんですよ。

YG:かつてのT-BOLANだと、ギターは多くても2本ぐらいしか入っていなかったじゃないですか。でもこの曲は様々な場所にギターが重なっていて、アルバムの冒頭から「昔と音像が全然違う!」と感じたんですよね。

五味:そもそも’90年代は、鍵盤を中心に考えるアレンジャーさんと一緒にレコーディングしていたんですけど、今は自分でアレンジするとなると、どうしてもギターで考えることが多くなって。「A BRA CADA BRA ~道標~」は、確かに’90年代のT-BOLANに寄せることなんて全然考えていないですけど、でもこれも僕自身ですからね。変わっちゃったという認識もないし、今の自分がカッコいいと思うものを形にしたらこうなった。ちょっとU2をリスペクトし過ぎたかもしれないですけど(笑)。森友も僕も、U2は好きなんですよ。

YG:面白いですよね、U2って超ビッグな存在になったのは’90年代で、要はT-BOLANが活躍し始めた頃と同世代の音楽じゃないですか。当時もリアルタイムで聴いて、刺激を受けていたわけですか?

五味:そうですね。何かね、バンドとしての進み方に似たようなものを感じるんですよ。例えば個々で言うと、ジ・エッジってギターをギターとして捉えてないように思える。不思議なエフェクトのサウンドを常に見つけてはぶち込んで来たりとか、彼独自のスタイルがあるでしょ? 一方バンドとして見ると…アルバムで言うと何だったかな? 「Discotheque」とかが入っている…。

YG:『POP』(1997年)ですね。シンセ・ポップ三部作の辺り。

五味:そうそう。あの頃って多分、ボノ(vo)が歌えなくなっていた時期だと思うんですよ。だから打ち込みやエフェクトのテクノロジーといった、新しい要素を持ってきてカヴァーした。森友も歌えなくなった時期があったし、そういう意味で何か、ちょっと共通性を感じます。

YG:なるほど。2曲目は大島こうすけさんが作編曲された「NO CONTROL ~警告~」で…冒頭の曲もこの曲もファンク色が強いじゃないですか。五味さんってもともと、そちら側の人なんですか? 何か変な聞き方ですが(笑)。

五味:例えばインタビューとかで「ブルースお好きですよね?」なんてよく聞かれることがあるんですけど、それほどでもないです(笑)。もちろん聴くのは好きですが、そこからギターを弾き始めたわけではなくて。敢えて言うなら、歌謡曲がスタートかな。

YG:前におっしゃっていましたよね、Charさんなんかも好きだったって。

五味:うん。だから「ファンクの人なの?」って聞かれたら、好きだし聴きますって答えるけど、触れたのはけっこう後からなんですよ。でも跳ねたカッティングはすごく好き。でね、この「NO CONTROL ~警告~」を作編曲してくれた大島君とは、実は’90年代のT-BOLANで2回ほど一緒にやってみているんです。彼の跳ねたエッセンスが、T-BOLANに新しい何かを持ってきてくれれば…と思って。結局のところ世には出なかったんですけどね。でも彼のアレンジは以前からすごく好きで、今回改めて大島君に頼むに当たっては、何も注文せずに作ってもらいました。で、「あとはギターを好きに入れてください」っていう状態のものが上がってきたんですけど、好きにしろっていうわりにキメ・フレーズばっかりじゃん…みたいな(笑)。

YG:ということは、メイン・リフなどに関してはほぼデモのまま?

五味:そう、わりと最初からあったイメージのまま。自分なりに変えてますけどね。大島君はキーボーディストなんで、やっぱり緻密なんですよ。

YG:でも、素晴らしくT-BOLANに合いますね。’90年代には上手くいかなかったかもしれないですけど、これからは大島さんともアリですね。

五味:うん。やっと形にできたなぁって。

YG:「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」は五味さんの作編曲ですが、これも同様に、森友さんに送ってあったアイデアの中から? 

五味:そう、そこからブラッシュアップしていった感じですね。

YG:この曲と8曲目の「俺たちのストーリー」はわりとシンプルで、私のイメージだと、昔ながらのT-BOLANに一番近い気がします。

五味:なるほどね。森友に渡してあったアイデアからスタートはしてるんですけど、結局レコーディングし始めたら、全然違う形になったんですよ。それは歌詞によるところが大きいですね。「愛の爆弾=CHERISH」という言葉をより有効に効かせたいということで、最初に持ってきたりとか。あと「俺たちのストーリー」で言うと、一番最初にサーフ系みたいなギターが始まるでしょ? あれは後付けなんですよ。これも最初のアレンジとは全然違う形になっちゃいましたね。

YG:パンチライン的なものを一番最初にドンと聞かせるという発想ですね。でもまあ、最初に思い描いていたものと全然違うものになるというのは、“バンドあるある”ではありますよね。

五味:そうですよね。例えば13曲目の「ありがとうのうた ~あいのたね~」で言うと、オルガンが入っているじゃないですか。僕の中には入れる構想はなくて、代わりにアコースティック・ギターが入っていたんですよ。でもオルガンを入れるアイデアが途中で出てきたことによって、アコギがクビになって(笑)。

YG:面白いですね。

五味:オルガンを入れたいって言ったのは森友だったんですが、僕もアリだと思ったので試してみたら、小島さんのオルガンがもう素晴らしくて。そんな風に、もともと中心にいたものが別のものに差し代わるというのはよくあるんです。

YG:とりあえず思いつくものを足して足して、後から引いていくという方法論ですか? 

五味:そうそう。ちなみに’90年代で言うと、T-BOLANではギターをダブルで録るのって、1回もやったことがないんですよ。バッキングとかもね。デビュー作(1991年『T-BOLAN』)はアースシェイカーのMARCY(西田昌史)さんにプロデュースしてもらっていたんですけど、レコーディングの時に1回弾いて安心していたら、「はいもう1本」って言われてびっくりして。「ダメよ、ダブんなきゃ。ダブんなくていいのはジミヘンだけ」って(笑)。言われて試してはみたんですが…そうすると僕の音じゃないんですよ。ヴォーカルも一緒で、当時のディレクターに言われてダブルも試してみたんだけど、僕も森友も「いや、これは嵐士の歌じゃない」「俺の歌じゃない」って。確かにピッチのズレみたいな細かいことが気にならなくなるので、耳障りが良いんですけどね。’90年代はそんな感じでした。で、今回はダブルで弾いているパートもあることはあるんですけど、結局後で片方をクビにしたりとか。

YG:オルガンと言えば11曲目の「Crazy Me Crazy U」なんかも、ギターのオーヴァードライヴ・サウンドと混ざることですごく分厚くなって、カッコいいですよね。収録曲の中で一番、クラシック・ロックっぽいサウンドだと思いました。

五味:この曲もね、オルガンを入れる構想はなかったんですよ。森友は本当に、ピアノとオルガンが好きなんだよね(笑)。だから僕的にはちょっと嫌だったんですけど、小島さんの演奏がまた、想像を超えてくるんですよ。

YG:達人ならではの嬉しい驚きですね。12曲目「My life is My way 2020」は、もともと『SO BAD』(1992年)に入っていたスピーディーなロック曲ですが、それがしっとりしたピアノ・バラードになるとは思いませんでした。別の曲と言ってもいいぐらいの仕上がり。

五味:この曲をなぜバラードにしたかは、もちろんメロディーと詞が良いからという大前提はあるんですけど…T-BOLANで2019年に、アコースティック・ツアーをやったんですよ。その時に、’90年代からピアノを弾いてくれている小野塚 晃君が、何となくこの曲のイントロを弾いたんです。「えっ、何それ!」って驚いて聞いたら、「My life is My way」のバラード・ヴァージョンだって。そこから発想がスタートしたんですよね、ちょっと続きやってみようよって。リハーサルの現場でバラードに仕上がっていったんです。

YG:このタイトルの曲が20数年ぶりのアルバムに入るのは、とてもしっくり来ていいですよね。我が道を行く、という。

五味:そうですね。自分たちで作っておいて言うのも何ですけど、良い仕上がりになったなと。焼き直しって意外に不評なことが多いんですけど、この曲は周りの評判がすごく良いし、自分でもしっくり来てます。ただ今後、ライヴでどっちをやるかは分からないですけどね。アップ・テンポにするのかバラード・ヴァージョンにするのかは。