音が伸びないと嫌なんですよ。思いっきり歪んでないとダメ
YG:レコーディングに使用した機材の話をさせてください。五味さんと言えばセイモア・ダンカンのテレキャスター・タイプですが、とりあえず作曲やレコーディングをする際はまずこれを手に取る…という感じですか?
五味:うん、そうですね。他のギターもあるんだけど、何故かいつもあれを手にとってしまうんです。他にもLSL Instrumentsというメーカーのテレキャスター・タイプを「NO CONTROL ~警告~」で使っていて、ライヴでも使いたいと思うぐらい良いギターなんだけど、テレキャスターの原型を目指すようなギターだから、プレートとかピックアップとかに処理を施してないんですよね。ちょっと歪ませただけで「ピーーー!」ってハウるので、大音量ではちょっと使えないんですよ。
YG:レコーディングでは全然アリだけど…みたいな?
五味:そう、だからやっぱりメインの方を手に取ってしまう。で、例えば曲作りの時、まずギターで適当に1コーラス分弾いて、仮歌を録って、ドラムを入れるでしょ? その時のベーシック・トラックのギターが、ほぼ最後まで残ることが多いんですよ。そのギターを抜いちゃうと、イメージが全然違ってくるから。そこはキーボーディストと違うところかもしれないですね。例えば大島君がアレンジする時なんかは、ベーシック・トラックは後で消すことを前提に作っていると思うんですけど、僕の場合は何も考えずに最初に弾いたギターが担う役割が、すごく大きいんです。
YG:それも“ギタリストあるある”ですね。よく分かります。
五味:何の意図もなく弾いたテイクがすごく良いというのは、バッキングに限らずソロでもそう。僕はファースト・テイクに勝てない人なんですよ。
YG:なるほど(笑)。ギターって歪ませた音で弾くと、本人も意図していない倍音がガンガン出ていたりするので、別のものに置き換えると「何か大事なものがいなくなった」みたいな違和感をおぼえることはありますよね。でも何がなくなったのかはわからないという…。
五味:そうそう! それなんですよね。
YG:事前にいただいた機材リストを見ると、IK Multimediaの“AmpliTube 3”の使用率が高いですが、今おっしゃったような理由なわけですね。デモで録った音をそのまま使っているという。
五味:そうなんです。
YG:しかも最新の“AmpliTube 5”ではなく、3というところが面白い。
五味:もう5まで出てるんだ? 僕ね、レコーディングしているMacの“Digital Performer”のヴァージョンがまだ7なんですよ。今は11まで行ってるのかな? MacのOSで言うと、Snow LeopardとかMountain Lionとか、その辺りで止まっている(笑)。
YG:まあでも、いったん完成して気に入ったシステムをわざわざ崩す理由もないですから。
五味:うん、何の不自由も感じない。ただ「これは良さそうだな」と思った新しいソフトが全然入れられないのは困りますけどね。だから新しいシステムも導入しようかなとは思ってるんです。
YG:Macをもう1台調達するわけですか?
五味:そう。それをメインにするんじゃなくて、新しめのソフトをエッセンスとして加える風に考えているんですけどね。パソコンやシーケンサーが新しくなると、音がすごく良くはなるんですよ。分離がすごく良くなる。でも、逆にどんどんロックっぽさはなくなっていくんだよね。
YG:解像度が高すぎて?
五味:そう、高すぎて。下手したら今使っている“Digital Performer”の7でも、まだ解像度が高すぎる気がする。だからそういう意味では、あんまり新しいところに行きたいと思ってないんですよ。
YG:適材適所なわけですね。そんな中で、例えばフェンダー“Princeton Reverb”といった実機のアンプも使っているみたいですが、これは?
五味:自宅でアンプで録る時は“Princeton Reverb”か、フェンダージャパンの“FAT3”を使うんですよ。“AmpliTube”だけで全部やっちゃうと音がデジタル飽和しちゃうんで、いくつかは本物のアンプに置き換えたくて。自宅では色々試しているので、どこでどのアンプを使ったかというのは正直おぼえてないです。でもスタジオに入ってアンプで鳴らしたものは、ハッキリおぼえてますね。まず「京恋唄」は、バッキングでまずヴェムラムの“Jan Ray”というオーヴァードライヴをかまし、1966年製のフェンダー“Twin Reverb”で弾いてます。ソロはマッチレスの“SC-30”で、Y.O.S.ギター工房の“Smoggy Overdrive”とidea sound productの“RTX”を直列にして弾いてますね。
YG:歪み系エフェクト2段がけというのは、面白いですね。
五味:下手したら3段がけすることもあるんですよ、T-BOLAN以外では。例えばelectro53とか“Being Guitar Summit”みたいなセッションでは、そうすることが多いです。だいたい初段に“Smoggy Overdrive”か“Jan Ray”、次に“RTX”、そして最後にファズとか。
YG:ものすごいゲインの上げ方ですね!
五味:テレキャスター・タイプのギターだからだと思うんですけど、僕ね、音が伸びないと嫌なんですよ。チョーキングでウ~~~~ンってやってる最中で切れられるのは、本当に嫌(笑)。思いっきり歪んでないとダメなんです。そういう意味での3段がけ。
YG:テレキャスターって指板のRがきついから、チョーキング時に音切れする確率が高いですし。
五味:そう!(笑) で、「声なき声がきこえる」はソロもバッキングもマッチレスで、バッキングに“Smoggy Overdrive”と…トレモロをストライモンの“FLINT”でかけてますね。ソロは“Smoggy Overdrive”に、フルトーンの“OCD”を足す形です。あと「My life is My Way」は、“Twin Reverb”に“Smoggy Overdrive”だけですかね。
YG:アンプではフェンダージャパンの“FAT3”がちょっと懐かしくて、個人的に気になりました。
五味:あのアンプがすごく好きで、家でよく使ってたんですよ。フェンダージャパンが’80年代末から’90年代に出していた、オールチューブの10万円以下で買えるモデルだったんですよね。“Princeton Reverb”と弾き比べると、日本製らしい音がするんです。もちろんフェンダーらしくはあるけど。日本ってどっちかと言うと、メサブギーの“Mark Ⅰ”みたいな方向性を目指してたアンプ・メーカーが多かったですよね。ジャグボックスとか、エルクの“Vessser”とか。そういう影響もあるのか、あるいは日本人が作ると自然とそうなるのかは分からないですけど、“FAT3”は何となくフェンダーとブギーを足して2で割ったような印象で、ちょっと大人げな感じなんですよ。あんまり暴れないというか。まとまってる感じ。
YG:なるほど、面白いですね。では最後に…昔からアルバムを待っていたファンはもちろん、今回初めてT-BOLANの音楽に触れる方も含めて、何かひとこといただけますか?
五味:T-BOLANは’90年代に3年ぐらい、バーっと走り抜けて残してきたものがあって、その時の音と今の音は耳触りが全然違うと思うんですよね。でも今回改めてアルバムを作ってみて感じたのは、「全然進化してねえな、ギター」ってことで。
YG:ええっ?(笑)
五味:テクノロジーは進化しましたよ。でもギターは全然変わってないなと。例えば“Being Guitar Summit”みたいなセッション・ライヴで、増崎さんや(WANDSの)柴崎 浩とかと一緒にやることがあるでしょ? 彼らみたいに縦横無尽に弾けたらいいなあ…と思う自分と、いやいやこれが俺のギターだから!と思う自分、両方が心の中にいるんです。そもそも元を辿ると、僕はデビューするまで、自分を器用なギタリストだと勘違いしていたんですよ。でもいざプロとしてレコーディングするとなると、自分とものすごく向き合うじゃないですか。で、「こんなフレーズも弾けないのかよ!」とか「何回やっても同じフレーズかよ」と思い知って、「自分は不器用でこれしかできないんだ」というのを初めて知るんです。器用だと思っていた自分が、ガラガラと崩れていく。でも決して卑下しているわけじゃなくて、「俺はこれなんだ」って初めて認識できた瞬間だったわけですよ。で、そのままずっと今までキャリアを続けてきて、「今も変わってない」と。そう再認識したわけです。あれから28年も経ってようやく作った6枚目のアルバムで、テクノロジーのおかげで耳触りの違うものが出来ましたけど、基本的に森友のヴォーカルも含めて「変わってないなあ」と思いますね。それがみなさんにどういう風に伝わるかはちょっと分からないですけど、例えばこのアルバムを初めてのT-BOLANとして聴いた方なら、例えば’90年代の曲をYouTubeとかで聴けたりもしますから、ぜひ触れてみてほしいです。そして過去を知っている人には新しいものとして認識してもらいつつ、違いを感じてもらえれば。で、作り手としては「果たしてどうでしょうか!?」っていうのをおうかがいしたい。
YG:むしろリスナーへ問いかけたい、ということですね。
五味:そうですね(笑)。