ジャーマン・メタル界の重鎮中の重鎮:U.D.O.とは、ウド・ダークシュナイダー(vo)がかつて自身が結成したアクセプトの音楽性を継承すべく誕生したバンドだ。リスナーの間では、すなわち伝統的メタルの守護者というイメージが強いことだろう。特に’13年にアンドレイ・スミルノフ(g)が加入して以降、初期を思わせるハイテク・ギター重視のスタイルに回帰しており、相変わらずその強烈な個性をアピールし続けている。しかし彼らの面白いところは、単に過去の路線に戻るのではなく、常に実験精神を忘れないことだ。昨年はドイツ連邦軍楽隊のオーケストラとの共演作『WE ARE ONE』をリリースしてファンを驚かせたことも記憶に新しい。その『WE ARE ONE』ではディー・ダマーズ(g)とティレン・ハドラップ(b)という新メンバーが加入し、バンドにとってまた新たなフェイズの始まりを告げることとなった。
この現ラインナップによって制作された最新作『GAME OVER』は、’18年の『STEELFACTORY』以来となるレギュラー作品。パッと聴けば「いつものU.D.O.」でありながら、聴き進めていくほどに「いつもと違うU.D.O.」のカラーが次々に表へと現れてくる、実に意欲的なアルバムとなっている。この仕上がりにウドの脇を固めるメンバーたちの感性が大きく影響していることは想像に難くない。今回は技巧的にしてメロディアスという高度なギター・プレイを聴かせているアンドレイとディーのチームはもちろん、バンドの顔であるウドも加わった形で、その制作の裏側を語ってもらった。
感覚が全く違うことがアルバムに影響した
YG:今年3月に、ライヴCD/映像のセット作品『LIVE IN BULGARIA 2020 – PANDEMIC SURVIVAL SHOW』がリリースされました。ここに収録されているのは昨年9月、ブルガリアはプロヴディフの円形劇場で行なったライヴですが、新型コロナのパンデミックで世界に混乱が生じている中、国をまたいでライヴを行なうというのは相当チャレンジングなことだったのでは?
ウド・ダークシュナイダー:そもそも俺たちのアイデアではなく、いつも俺たちを招聘してくれているブルガリアのプロモーターから、野外でのショウをやる気はないかと提案があったんだよ。「OK」と応えはしたけど、パンデミックが起きているんだから、本当にできるのかどうかも分からなかった。ライヴ当日が近づいてくるにつれ、現実味を帯びてきて、俺たちもリハーサルをしたんだ。もちろん開催は簡単なことではなかった。このバンドにはドイツ人だけでなく、ロシアのギタリストがいるし、ベーシストはスロヴェニア出身だ。それぞれの国からブルガリア入りしないといけない。
ディー・ダマーズ:色々と厳しい規約があったので大変だったよ。僕たち自身はもちろん、観客の安全も守らなければいけないんだから。でもブルガリアへの入国と出国もスムーズだったね。
ウド:ああ。現場に行ってみたら、本当に素晴らしかった。すべてが上手く行ったのが驚きだったな。言葉にするのが難しいぐらいエモーショナルな一夜だったよ。これが俺たちにとって昨年唯一のショウだった。観客は最高で、雰囲気も特別なものがあった。これが実現したのはバンドにとってラッキーだったし、そこに関わる誰にとってもラッキーだった(笑)。
ディー:僕にとっても’20年中で最高の1日になった。本当に素晴らしかった…僕としては初めてウドと一緒にアクセプトの曲をプレイできたのも最高だった。あのライヴ映像は特別な作品になったよ。
アンドレイ・スミルノフ:まさしく。マネージメントがプロフェッショナルだったおかげだね。古代ローマの劇場でプレイできるなんて、最高の栄誉だった。2,500人ものファンが集まり、熱狂してくれている…その様を映像に収めることができたんだからさ。まるで影の王国に光が挿しているような、不思議な光景だった。この作品はドイツのフィジカル・チャートでトップ10入りしたし、配信も合わせてスウェーデンやチェコ、フィンランドなど他の国でも好調なセールスを記録したんだ。U.D.O.のライヴ/映像作品としては35年のバンド史上、最高の記録なんだよ!
YG:そしていよいよ、約3年ぶりのレギュラー・アルバムとなる『GAME OVER』がリリースされます。
ウド:タイトルを見て「U.D.O.の最後のアルバムなんだな」と思ったファンもいるだろうけど、そうじゃないよ(笑)。今回はパンデミックのせいで、以前と全く違う状況に置かれていた。今までだったらメンバーから曲のアイデアを集めて、1つのリハーサル・ルームで顔を合わせてレコーディングしていた。今回はSkypeやZoom、Facetime…いろいろあったけど、インターネットを使って、各メンバーとやり取りしながら録ったよ。
アンドレイ:当初はパンデミックが起こる前にプリ・プロダクションを始める予定だったんだよな。
ディー:ケルンに集まって曲作りのセッションをするはずだったんだよね。でもそれは不可能になった。メンバーはドイツ、ウクライナ、スロヴェニア、スペインと、それぞれ住んでいる国が全然違うからさ。それでデータのやり取りをすることになった。全員集まることができたのはブルガリアでのショウの時だけだったしね。
YG:レコーディングもメンバー全員が個別に行なったんですね?
ウド:インターネットで交流しながらアレンジを進めていって、スタジオでの作業も1人ずつだった。
ディー:そう。僕は“Holy Noir”という自分のスタジオで録った。最近動画撮影用にスタジオを拡張したところでね。僕にとってはやりやすかった。プロデューサーに「今の良かったね。じゃあ次の曲に行こう」と言われて「あと10テイクは弾かせてよ!」なんていうやり取りを繰り返す必要もない。ラフな状態でいいものが弾けたら、それをプロデューサーやウドに送って意見を求めていたよ。
アンドレイ:でも、そういう意味では最初から最後まで、全員が関わる共同作業を貫いていたよね。毎日24時間、ネットで全員がつながっていて、俺がよくできたと思ったアイデアを提出してみると、他のメンバーが「もっとだ」とプッシュしてきたりして。テクノロジーの賜物だな。俺としてはスタジオでみんなが集まる方が好きだけど、今回は上手くいったし、あれだけいい曲をたっぷり書けたんだから良かったよ。
ウド:そうだな。結果的に日本盤ボーナスを含めて17曲も作ることができたし、満足しているよ。こうしてメディアからインタビューを受けていても、反応はいいしね。
YG:今作には「Metal Never Dies」に「Metal Damnation」と、“Metal”という単語が使われたタイトルが2曲もあります。なので、王道のメタルをプレイしたアルバムなのだという印象をまず抱きました。
ディー:僕としては「フル・メタルなアルバム」を作ることだけが目標だったよ。『WE ARE ONE』のような特別なアルバムの後だけにね。
アンドレイ:俺はオールドスクールなメタルを愛しているし、モダンな要素を入れつつも、U.D.O.に求められるものもそこだからね。
ウド:「Metal Never Dies」という曲はタイトルの通りだ。俺はこの業界にもう40年もいるけど、まだまだ若い世代が登場してくる。まさに“Metal Never Dies”だよ。ただ、アルバム全体をこの曲のイメージに合わせるというようなことは考えなかったよ。いつだって最初は、最終的にどういうアルバムに仕上がるかなんて分からないものだ。まず曲のアイデアを集めていっただけだからね。
ディー:僕たち全員がアイデアを出し合って、ウドがそこから使うものを選び出してから曲作りが始まるんだ。
ウド:今回出てきたアイデアは35曲分はあったと思うよ。俺が1つ1つ見ていって、「これはU.D.O.に合わない。自分のバンドで使ってくれ」というものもあったりした。そこから20曲に絞って、17曲が出来上がった。
アンドレイ:曲は常に書いているし、アイデアはいくらでもあるからね。曲を作ることこそがミュージシャンの生き方だと思うし。
YG:アルバムを聴く前は「Metal Never Dies」が先行公開されたこともあって、前作『STEELFACTORY』と同じく原点回帰の作品になるのかと思い込んでいました。しかし実際には、メタルの原点を大事にしつつも、まったく性格の違うアルバムになっていますよね?
ウド:『STEELFACTORY』とはまったく違うね。あのアルバムは、ダークシュナイダーのツアーで昔のアクセプトの曲だけをプレイしたこともあって、かつてのアクセプトのようなサウンドに原点回帰したアルバムだった。今作は原点回帰ではなく、U.D.O.のU.D.O.らしい部分を出したアルバムだ。時にすごくヘヴィで、時にメロディアスで、色々な曲がある。
YG:曲のヴァラティが増えたのは、やはりバンド内にソングライターが増えたからでしょうか?
ウド:もちろん。しかも2人の若くて新しいメンバーがいる。ディーとティレン・ハドラップだ。彼らはそれぞれ28歳と30歳。彼らが入ることで、俺以外のメンバーがすっかり若返った。70歳の俺の次に年がいっているのは35歳のアンドレイなんだから、俺を除いて若者のバンドになってしまった(笑)。ディープ・パープルやブラック・サバスを聴いていた俺の世代とは感覚がまったく違う。それがこのアルバムに影響しているんだな。しかしそれでもU.D.O.らしいというアルバムになっている。
アンドレイ:俺は「Fear Detector」「Prophecy」「Metal Never Dies」「Like A Beast」「Don’t Wanna Say Goodbye」「Marching Tank」「Midnight Stranger」「Time Control」「Metal Damnation」を書いた。
ディー:僕が書いたのは「Holy Invaders」「Empty Eyes」「I See Red」「Kids And Guns」「Unbroken」、そして日本盤ボーナスの「Wilder Life」だ。ただ「Unbroken」のヴァースの始まりはアンドレイが作ってくれたよね。
アンドレイ:ああ。この曲のヴォーカル・メロディーは俺が書いたから。
ディー:そんな感じで、共同作業で作った部分も沢山あるよ。プロデューサーや僕がウドのメロディーを作り替えたこともあったし。
アンドレイ:「Marching Tank」と「Midnight Stranger」にはティレンもクレジットされているしね。
ウド:歌詞は俺が息子のスヴェン(ダークシュナイダー/dr)と一緒に書いていて、彼はヴォーカル・メロディー作りにも関わっている。ドラマーがメロディーを色々試すんだ(笑)。「これは面白いんじゃないか」と。俺の声もまだまだ出るし、トライできることは沢山ある。歳をとってヴォーカルが良くなるというのは俺にも理由が分からないね(笑)。
YG:実際、近作の歌メロは以前のU.D.O.になかったタイプのものが増えていますしね。ウドとしても、若いメンバーからの提案を積極的に受け入れる姿勢なのですね?
ウド:そうだね。ここまでアイデアがたっぷり出て来るというのも、俺にとっては幸運だよ。’96年にU.D.O.を再始動させて以降、他のメンバーが曲を書くことはたまにあったとはいえ、基本的には俺とステファン・カウフマン(g/’96~’12年に在籍)の2人だけが中心だったから、本当にバンドで曲作りしていたとは言えなかった。U.D.O.の最初の4作は“バンド作業”だったんだよ。今回はそれに近い。
YG:U.D.O.の作品で、レコーディング・メンバーの5人全員がクレジットされるというのは…。
ウド:ああ、『MEAN MACHINE』(’89年/2nd)以来のことだな。
YG:歌詞は曲によって様々なテーマを取り上げているようですが、「Kids And Guns」では銃社会の問題を歌っています。以前アクセプトでは「Guns ‘R’ Us」(’94年『DEATH ROW』収録)という曲でも似たテーマの歌詞を取り上げていましたが、ウドにとってはずっと気にかかっている問題なのですね?
ウド:重大問題だよ。アメリカでは大統領が就任するたびにロビー活動が行なわれて、新しい法が作られる。「自分を守るため」という理由の下に、武器を持つことを正当化させてね。ブラック・ライヴス・マターの運動が起こった時──確かテキサスでの出来事だったかな。テレビを観ていると、住人が家の前で銃を持って「近づいたら撃つ」と言っている映像が流れたんだ。俺はあまり政治的なことは言いたくないし、それぞれの立場があるのは分かるけど、こんなことが起こるという状況自体が間違っていると思う。これはアメリカでのことだし、ここドイツで武器を買うには厳しい審査があって、誰もが買えるわけじゃない。しかしアフリカでは若者が攫われて兵士に育てあげられたりして、銃が子供たちの身近にある。まあ、そんな状況を歌った曲だよ。歌詞のテーマは様々だ。「Don’t Wanna Say Goodbye」は非常にシンプルに別れの辛さを歌ったものだし、「Marching Tank」に関しては、カモフラージュ柄の服を着ているステージでの俺を“German Tank”と呼ぶ人がいることからできた歌詞だよ(笑)。