「自ら経験しなくてはならない。それは理論にも当てはまる」スティーヴ・ヴァイ『VAIDEOLOGY』日本語版発売記念ミニ・インタビュー

「自ら経験しなくてはならない。それは理論にも当てはまる」スティーヴ・ヴァイ『VAIDEOLOGY』日本語版発売記念ミニ・インタビュー

ギター・レジェンド:スティーヴ・ヴァイが自ら音楽理論を基礎から教える著書『VAIDEOLOGY BASIC MUSIC THEORY FOR GUITAR PLAYERS』は、昨年発売されるやいなや海外で大きな反響を呼んだが、先月小社シンコーミュージック・エンタテイメントより発売された日本語版『ヴァイデオロジー ギタリストのための初級音楽理論』もやはり、国内の熱心なギター・ファンからたくさんの反響をいただくことができた上、早くも第2版が発行となった。

本書の日本語版発売にあたり、スティーヴがヤング・ギターの独占インタビューに応えてくれたので、紹介しよう。音楽理論に対する彼の深い愛情や、学問的研究と経験的研究の2テーマを軸とした章の構成などについても語ってくれている。まだ手に取っていない人も既に入手済みの人も、ぜひご一読を。

なお、ページ最後でも紹介しているが、ヤング・ギターのツイッターではスティーヴのピックが当たるプレゼント企画を開催中。合わせてチェックしていただきたい!

高校の音楽理論の授業を12歳の時から学んでいた

YG:スティーヴと音楽理論の長く深い関係を辿っていくと、’79年から’80年代前半にかけて、天才音楽家フランク・ザッパのバンドで、複雑でユニークな楽曲の数々を見事に演奏していた頃が思い起こされます。フランクと一緒に活動することが、理論を追究するきっかけの1つになったのでしょうか? 

スティーヴ・ヴァイ(以下SV):いや、音楽の素晴らしさを発見したのは、とても小さな子供の頃からだった。6歳の誕生日に、母親が小さなオルガンを買ってくれて、それを弾いているうちに音には高いものと低いものがあるということを知った。音楽が、はっきりと目に見えるものになったんだ。どんな曲を聴いても、1音1音は分からないまでも、どんな風に(音が)積み上がっているかは把握することができた。作曲の意味も知っていたね。作曲とは、紙にオーケストラの譜面を書いていくことだった。今まさに、そういうことをやっているわけだけど(と、側に置かれた五線紙の束を指す)。その紙を、自分の好きなように音符で埋めていけるんだ。どんなことをしても良い。音を望みのままに、完全にコントロールできる。音楽用語を理解していれば、音楽的なクリエイティヴィティが全く違ったものになるし、ただ思いつきで作った曲と違って、相当深く掘り下げることができる。自分の頭の中にあるあらゆる要素をしっかり聴いて、それを書き出していくんだ。

YG:幼少期の頃のあなたに影響を与えてくれた音楽もあったと思いますが…。

SV:ああ、両親が聴いていた音楽は非常に影響力があった。5〜7歳の子供は世の中のことなんて分からないから、親が聴くものを一緒に聴いているものだよ。その中で印象的だったのがミュージカル映画『ウエスト・サイド物語』のサウンドトラック。まず、映画が凄く気に入った。自分の好きなものが全部入っていたんだ。映画でありながら、劇場のようなシーンもあるしね。僕は劇場も大好きだよ、時々俳優業も嗜んでいるし(笑)。そして、何と言ってもあの音楽だ。レナード・バーンスタインとスティーヴン・ソンドハイムによるものだけど、彼らは天才だね。凄くパワフルでドラマティックで、とても自由が感じられた。「僕はこういうことがやりたい」と思ったね。曲を書きたい、と。

そして、7年生(編註:日本の中学1年生に相当)になった12歳の時にこんなラッキーなことがあったんだ。僕が通っていたハイスクールでは、音楽理論の授業が行なわれていた。通常なら12年生になってからでないと受けられないものだよ。でも僕は、その授業を教えているビル・ウェストコット先生に話をつけて、直接習いに行った。7年生から卒業するまでの間、ずっと集中的に音楽理論を学んでいたんだ。そこで先生から、理論に関するすべてのことを教わった。だから、その後バークリー音楽大学に進学するまでに、相当知識はあったわけ。

ところがある時、僕の姉がレッド・ツェッペリンを聴き始めた。それからはもう、「これだ」と思ったよ(笑)。クイーンをはじめ1970年代に活躍した、たくさんの素晴らしいロック・バンドに惹かれていった。やがて、フランク・ザッパを耳にすることになるんだけど…彼は、すべての要素をひとまとめにしたような音楽をやっていた。作曲に関しても、ロック・バンドの曲を作っていたんだ。オーケストラもあればコメディ要素もあるし、ギター・ソロも素晴らしい。グルーヴも最高だ。即座に、フランクの音楽と彼の取り組み方に惹き付けられたよ。僕が子供の頃にやりたかったことを、すべてやっていたからね。だけどそうでなくても、彼は大きな影響源だった。一緒に活動を始めた頃の僕はまだとても若く、感受性が高かったから。何しろ彼は…フランク・ザッパそのものだ。すべてにおいて圧倒的に聡明だった。近くにいることでそれを目の当たりにすることができたし、とてつもない刺激に溢れていた。フランクは生産性が高く、ずっと働き通しだったね。そしてこの時初めて、僕は作曲の技術をギターに当てはめた。それまでは、ギターはギターでただ弾いているだけ。一方それとは別のところで、クレイジーな曲を書いていた。ところがフランクと一緒にやっていると、クレイジーな曲を書いて「これをギターで弾くように」と渡される(笑)。彼のバンドにいて、譜面が読めていたことはラッキーだったね。

008-009

『ヴァイデオロジー ギタリストのための初級音楽理論』(以下同)8〜9ページ:ネック上の音(学問的研究)、ネック上の音(経験的研究)

024-025

24〜25ページ:調号とサークル・オブ・5th

スティーヴ・ヴァイ2

YG:この本では、クラシック音楽の理論やジャズの理論にも言及していますか? 

SV:いや、理論は理論だよ。この本でクラシック理論を分析するようなことはしていない。クラシック音楽は、音の動かし方が定義付けられている。ある種の決まりがあって、名前の付け方やコードの種類も決まっている。結局クラシックの理論というのは、クラシック曲の響きに聴こえるものを作るために、すべきこととするべきでないことを教えるものだ。だけど音なんかは(現在使われているものと)全部同じ。バッハやモーツァルトの音楽は、彼らが知る理論に基づいて出来たものだ。彼らが作った音楽と同じ響きを持つ音楽を作りたかったら、これらのルールに従えばいい…というものだよ。その代わり、伝統的な音楽しか出来なくなるけどね。

ジャズの理論にも、この本ではあまり触れていない。ジャズにも音の動きに決まりがある。コードの呼び方、コード進行の作り方、ルールなどは載っているけど、それ以上深入りはしないよ。知っていると思うけど、僕のギター・スタイルはああいったものじゃないから。クラシックの演奏はそんなに上手くないし、ジャズも大して弾けない。理解はあるし、音楽は好きだけどね。それに伝統的な意味でのブルース・プレイヤーでもない。良質なブルース曲は好きだけど、弾いていて心地好いと思ったことはない。それは多分、僕は決して本物のブルースマンほどブルースを上手く弾けならないと分かっていたから、そこまでのめり込めなかったのかも。僕は、自分らしい弾き方がしたかった。それはそういったスタイルとは異なるものであり、たまたま形成されていったものだ。なぜなら、僕はあれも好き、これも好き、こっちも好き…でもそのどれにも似ていないプレイにしたい、と思ったからね。

この本も、それと似ている所がある。ジャンルを特定して説明した所はないんだ。ロック・ミュージックのための理論でもなければ、ジャズのための理論でもない。基本的な音楽理論であり、他のすべてに使える材料や道具なんだ。それらがすべて、ここに入っている。でも、各ジャンルに特化して知りたいことがあるなら、他に良い本がたくさん出ている。クラシックの音楽家が使う特徴、ジャズ奏者が使う特徴などを教えてくれる本を読むといいよ。

080-081
80〜81ページ:モード(学問的研究)、モーダルなコード進行