「自ら経験しなくてはならない。それは理論にも当てはまる」スティーヴ・ヴァイ『VAIDEOLOGY』日本語版発売記念ミニ・インタビュー

「自ら経験しなくてはならない。それは理論にも当てはまる」スティーヴ・ヴァイ『VAIDEOLOGY』日本語版発売記念ミニ・インタビュー

最も強力な音楽を作る時、音楽理論は道具の1つとなる

YG:本書のタイトルの由来は? 

SV:“ギタリストのための初級音楽理論”…これ以上にシンプルなタイトルはないじゃないか(笑)。だけど、見誤らないでほしい。かなり深い所まで突っ込んでいるからね。あらゆることを細分化して説明しているよ。主に、学問的なレベルでの学習と、経験によるレベルでの学習方法について触れている。ここの定義がとてもとても大事なんだ。何かを学ぼうとする時、そのほとんどは学問的な内容だろう。学問的な事柄というのはインフラストラクチャーで、スケールやモードとか、ドリアン・モードはメジャー・スケールの第2のモードだといった事実のようなことだ。ナチュラル6th音を持つマイナー・スケールだ、というようなね。これらをすべて学ぶことはできるけど、実際は自分が経験して受け入れるまでは、役に立たないも同然なんだ。

その喩えとして、ハチミツが挙げられる。僕はハチミツのことなら何でも知ってるよ。実際に蜂を飼っているから、たくさんのことを教えられる。分子構造から何から話せるし、君だって世界中のハチミツに関する本を通じて、情報を得ることは可能だ。その情報を使って世界的な権威になることだってできる。でも、舌に乗せて味わってみるまで、実際にハチミツがどのようなものなのか絶対に絶対に分かることはない。これは経験によってしか得られないことだ。聞くのではなく、自分が体験しなくてはならない。それが音楽理論にも当てはまるというわけだ。僕はドリアン・スケールについていくらでも説明できるけど、君自身がドリアン・スケールの味わいや色合い、雰囲気、香りといったものを感じなければ、得たことにはならない。それこそが、“経験により得られる”ことなんだ。ここはもの凄く大事だよ。

それに同じテーマでも、初心者に分かる基礎的なことから、上級者向けの内容にまで触れていることもあるよ。例えばリズム譜1つとってみてもあらゆることが載っているし、ト音記号、音部記号、調号、四分音(1/4音)…といったものがある一方で、ポリリズムや特殊拍子、ハイブリッド・コード、アッパー・ストラクチャー・コード、ダブル・ハイブリッド・コードといった、かなりの上級者向けのコンセプトも含まれているんだ。そういう風にこの本を作ったんだよ。

038-039

32〜33ページ:音符、コード(学問的研究)

046-047
46〜47ページ:コード(経験的研究の続き)、記譜法(学問的研究)、ポリリズム

YG:現在は動画をはじめ様々なツールや情報が溢れており、音楽全般に限らず学習方法は千差万別ですが、教則ビデオが普及する前は、ギター・プレイを1つ把握するにも耳を頼りにするしかありませんでしたよね。おかげで当時は、エモーショナルなプレイに傾倒するプレイヤーが多かったわけですが…あなた自身は、ロックンロール的な楽曲の魅力と、音楽理論に基づいて洗練された作曲の手法とを、どんな形で繋げることができたのでしょうか?

SV:まず、音楽の作り方は人それぞれで、たくさんの方法がある。頭を使う人もいるね。音楽理論を駆使して、理論上完璧な曲を作るタイプだ。知っているからこそ思いつくアイデアがあるし、そこにも独特のサウンドが生まれる。それはそれで良いことだ。ギター・プレイと同じだよ。速弾きだけが好きな人もいるじゃないか。本当に速いヴァーチュオーソ・ギタリストになりたいのなら、速く弾けるようになる練習をたくさんすれば良い。でも、大抵の人はしばらくすると飽きてしまう。僕もシュレッドの上手い人を見るのは好きだ。最初は魅力的に感じるけど、もっとやることを広げていきたいと思うようになるものだ。この段階で曲を作り始める人もいるだろうけど…音楽理論の全知識を持つシュレッダーになるのもいい。でも、理論を一切知らないで、シュレッダーのみになるのもいい。何でも構わないんだ。一番大事なのは、君が自分の想像力の中でどんな音を聴いているのか、自分をどんな風に見ているのか…ということだから。

また、より感情的な曲を書く人もいる。これは曲調を通して特定の感情を表す手法だ。怒り、悲しみ、喜び、幸せ、何でも良いけど…、君の中から出て来る音楽にはそれが反映されているべきだ。自分の感情に耳が引き寄せられて、曲が出来ていくものだからね。「僕は悲しいから、悲しい曲を作るんだ…」とか、「俺は怒っている。だから怒りを込めた曲を作ろう。この世界が憎い。自分自身のことが大嫌いだ!」とか。「セクシーになろうぜ、カモン、ベイビー…」そんな曲を書く人もいるよね。それはそれで良いし、全く問題ない。

そしてもう1つ、最も強力な音楽を作る人がいる。最も注目を集め、高揚感を持った音楽…それは、“通じている”人達によって作られるものだ。何に通じているかって? “万物における創造の欲求そのもの”だよ。これは、誰にでも出来ることだ。しかし、非常に澄みきった心で行なうことが求められる。その時、シュレッドや音楽理論は単なる道具の1つになり、手段ではなくなる。道具だよ。音楽を作る時に、それらに頼らないこと。頼っていいのは、その時自分の内側にある創造的欲求との繋がりだ。このような状態で作られた曲は、必ず喜びに満ちた楽しさを感じられる。それは感情よりも高いレベルに位置し、洗練されたもので、繋がりを持った状態にあるミュージシャンの演奏を聴けば、それだと分かる。ミュージシャンとして長く活動して行くには、そこが必須要素だ。なぜなら、そういったプレイには、決して飽きることがないから。感情をもとに演奏していたら、曲を書く時に必ず悲しい気持ちになる必要があり、人間的にも不幸せそうな人になる。ずっと悲しい曲ばかり書いていると、自分まで悲しくなってきてしまうんだ。「でも、自分はそうする必要がある。これを出してしまわないといけないんだ」「自分の怒りを外に出さなくては」と思っている人も多いだろう。しかし、感情的な曲を作るにはよりいっそう感情的になる必要がある。自分が集中しているものが何であれ、それ以上のものを出すことになるんだ。闘っているものが何であれ、それ以上のものを出して作ることになる。とても単純なことだよ。そこに気付いている人はあまり多くないみたいだけど。感情的に弾いたって何も悪いことはないけど、自分が求めるものは何か、はっきりさせる必要がある。僕なら…繋がりが持てるようなプレイや作曲に焦点を当てたい。感情的なものを超えた、より高みにあるものだからね。そちらの方がずっと効果があるし、誰が聴いても心地好く感じられる音楽になる。

YG:究極の目的に向かうための道具の1つとして、音楽理論の知識は有効だということですね。

SV:自分の目指す道を進む中で、どこに音楽理論が入ってくるか…それは、“演奏している人の興味が向くところ”にと言えるだろう。ルールはないからね。僕はただ、理論が好きなんだ。音楽理論を愛している。五線譜を引っ張り出して、大人数のグループに向けて1つ1つの音符に奏法指示を出すことほど、自分をエキサイトさせるものはなかったよ。そして演奏者は、譜面に書かれた指示通りに弾かなきゃならない(笑)。でもそれこそが彼らの仕事であり、喜んでやってくれるんだ。そして、(書いたものは)永遠に残る。僕のスコアが100年後に演奏されたとしても、演奏方法は全く同じなんだから。もし君がそういったことに興味を持っているなら、自然とそこに惹かれていくだろう。それでいい。この本は、理論を知りたい人のためのものだ。そして、知りたくない人がいても、僕はそれで構わないと思っている。でも、少なくともちょっと知っておくだけで、ずっと良いミュージシャンになれるぜ。ちょっとだけ頑張ってみてよ! やっぱり、頭が悪いと思われたくはないだろう? 人と話す時には、会話の中で使われる言葉を知っている方が気持ちがいいじゃないか。学ぶのにも、大して時間はかからないよ。助けにしかならないと言えるね。

スティーヴ・ヴァイ3

『ヴァイデオロジー ギタリストのための初級音楽理論』概要

ヴァイデオロジー ギタリストのための初級者音楽理論

書名:ヴァイデオロジー ギタリストのための初級音楽理論
著者:スティーヴ・ヴァイ
訳者:坂本 信
サイズ:A4変型判
ページ数:96ページ
定価:本体価格 3,000円+税
ISBN:978-4-401-6-64814-6
発行所:シンコーミュージック・エンタテイメント
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