200年、300年経とうとも色褪せないものを生み出していければ…
YG:「zephyr」の中間部分で聴ける、多彩なサウンドを使った重層的なリード・プレイも非常に面白いと思いました。どのようにして生まれたアイデアなのでしょうか?
匠:プレイ的には、単純にワウを固定半がけ状態でタッピングしてハモっただけなんですけど、曲中のいいアクセントになったと思います。これは原曲を僕が書いたんですが、自分の中でもある意味特殊なんですよ。メンバーが全員決まった状態で書いたので、自然とバンドらしさをイメージしやすくて、一気に全パートの譜面が頭の中に舞い降りて来ました。純粋に曲が求める音を探した結果、半分以上のギターをシングルコイルで録ったのも、珍しい部分ですね。
YG:今回の収録曲の中で、最も思い入れの強い曲と、その理由を教えてください。
匠:やはり時間軸の関係もあって、「elisabeth addict」でしょうね。これは5年前、京さんと一緒に暗中模索していた時に原曲を作ったんですよ。それから長い間寝かされていたんです。かゆいところに手が届かない状態のまま、アルバムに必要な曲として浮上して来たものの、アレンジにすごく煮詰まったんですね。本当に苦しくて苦しくて(笑)。そういう時こそ、京さんとの共同作業で生まれる突発性が必要だと思って、強引に京さんに僕の家まで来てもらって(苦笑)、最終的な構成や流れを一緒に仕上げたんです。本当に数時間のことでしたが、あの時間がなかったら絶対にダメでしたね。ギター・ソロも、京さんが「サビの後に構成を増やして入れてみよう」って唐突にアコギを手渡して来て。あのソロはその発言の直後に、1発録りしたフレーズがそのまま採用されています。イントロのピアノも、とある映画の1シーンみたいなイメージで…って言われて、1発録りしたフレーズだったと思います。すべてにおいて本当に奇跡が起きた感覚でした。一気に色んなものが湧き出て来て、その後に他のメンバーの音も心地よく乗って来て。細かいところで言えば、エレクトリック・ギターが一切登場しないとか、スネア・ドラムが1発も出て来ないとか、そういうある意味でのsukekiyoらしさの原点とも言えます。いつか落ち着いたら、これを聴いてゆっくり泣きたいです(笑)。
YG:非常に緻密に作り込まれた作品なので、レコーディング時に使ったトラック数は相当多いと思うのですが、ライヴで再現するのが大変そうですね。どのように対処していますか?
匠:もちろん僕はギタリストであると同時にマニピュレーターでもありますから、世界観を再現するためには、シーケンサーから色んなものをガンガン流しますよ。でもまだちょっと考えているところで、すべての音を流すつもりもないし、演奏中にバランスがイマイチだと思ったら、ギターのブレイク時や白玉で鳴らしている時に平気でMacのフェーダーを触ったりもしますよ(笑)。
YG:今回のレコーディングで使用したギター、アンプ、エフェクト類を教えてください。
匠:僕のエレクトリック・ギターのパートは、PRSギターズの“McCarty”のみです。これはコイル・タップもできますし、現状自分の求める音をすべて出してくれる1本ですね。音作りは基本的にリアンプでやっていて、歪みはメサブギーとボグナー“Ecstasy”、クリーンはマーシャルで録りました。エフェクトはワウやディレイといった古典的なものくらいで、ほとんど使っていないですね。「斑人間」のソロのメイン・パートのみ、夜中にノリでアンプ・シミュレーターにオクターヴァーとかを色々かけて録ったプリプロのテイクがそのまま採用されています。アコースティック・ギターはテイラーの“314ce”だけ。これはUTAさんのものなんですけど、最初に「aftermath」のレコーディング時に借りて「これだっ!」って思ったんです。単音の煌びやかさが一番の決め手でした。
YG:匠さんにとって、京さんはどういった存在ですか?
匠:僕以上に僕のことを分かっている気がして、とにかく僕の力を引き出して下さる神のような存在です。不思議なことがいっぱい起こるんですよ。
YG:最後に、このプロジェクトにかける意気込みをひとことお願いします。
匠:バッハやモーツァルトのように、200年、300年経とうとも色褪せないものを生み出していければと思っています。