THE 1975/無機質を有機的に彩った激情の洗練サウンド
UKロックの若き担い手として活動を続けてきたTHE 1975。今や押しも押されもせぬビッグ・アーティストに成長し、20年目のサマソニではMARINE STAGEにおける海外勢のラストを務める存在になったといえる。足の踏み場もないほどの人で埋め尽くされたアリーナやスタンドとは対照的に、ステージ上のセットはいたってシンプルで、中央に添えられた大きな枠のオブジェに自然と目が行く。彼らはバンド編成ではありつつも、音数が削ぎ落とされたアンビエント・スタイルが特徴で、ライヴでもその洗練サウンドを再現していたのが印象的だった。指先まで神経を尖らせたような女性ダンサーの動きも、ムーディーな空間を演出。バックには左右に1人ずつサポート・ミュージシャンが付いていたが、彼らはギター、キーボード、サキソフォンなど幾つもの楽器を器用に使い分け、エレクトロニックな楽曲をオーガニックなサウンドに彩っていた。
昨年発表された『A BRIEF INQUIRY INTO ONLINE RELATIONSHIPS』からの楽曲はどれも温かく迎えられたが、中でもフロントマンのマシュー・ヒーリー(vo, g)が感情をむき出しにしたような「Love It If We Made It」のヴォーカルは強烈だった。オート・チューンがかかったマイクを通して叫ぶことで、無機質になるはずのケロ声がより一層エモーショナルに聴こえてくる。彼は時にセミアコやアコースティック・ギターを抱えることもあり、そういった一挙手一投足もまたファンの気持ちを揺さぶっていたようだ。
専任ギタリストのアダム・ハンは、こうしたダンサブルなリズムを小気味良く支えるバッキングを担うほか、傍らにセットされたシンセもしょっちゅう弾いており、「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」などではなんとギターを一切弾かなかったこともあるほど。とはいえ「Somebody Else」にはヴィブラートを効かせたソロ・パートもあり、適材適所の貢献ぶりが光っていた。
THE 1975 @ SUMMER SONIC 2019 MARINE STAGE 2019.8.16 セットリスト
1. Give Yourself A Try
2. TOOTIMETOOTIMETOOTIME
3. She’s American
4. Sincerity Is Scary
5. It’s Not Living (If It’s Not With You)
6. I Like America & America Likes Me
7. Somebody Else
8. I Always Wanna Die (Sometimes)
9. Love It If We Made It
10. Chocolate
11. Sex
12. The Sound
LOUDNESS/轟音を操るレジェンドのサウンド・メイク
初日のRAINBOW STAGEでトリを務めたのはジャパニーズ・ヘヴィ・メタル界のレジェンド:ラウドネス! 単独公演と比べると若いオーディエンスがかなり多かったのが印象的だった。恐らくこれまで、彼らのパフォーマンスを体験したことがなかった人達が、この機会にと詰め寄ったのだろう。サウンド・チェックの時点でかなりの爆音だったため、すでに察していた人も多かったかと思うが、実際に始まるとこれでもかというほどラウド! 他のステージにまで届くのではないかというほどの凄まじい轟音だったが、決して耳をつんざくようなことはなく、音楽的でクリアに聴こえるのだから不思議だ。
「Crazy Nights」「Like Hell」「Heavy Chains」という名盤『THUNDER IN THE EAST』(1985年)の人気曲を披露したところで、今度は「Soul On Fire」といった、昨年の最新作『RISE TO GLORY -8118-』からのセレクトが続く。毎回感じることだが、高崎がソロを弾いている間はバッキング・ギターがいないはずなのに、バンド全体の音圧は全く下がらない。達人の技とはここまで極められるものなのか…と、改めて思わずにはいられなかった。
当然の如くラストは「Crazy Doctor」や「S.D.I.」といった、ヘヴィ・メタル・ファンであれば誰もが知る名曲で観客を圧倒。今回の全ラインナップの中では異彩を放つ生粋のヘヴィ・メタル枠として、ラウドネスは確かな鋼鉄の嵐を巻き起こしてくれた!
ラウドネス @ SUMMER SONIC 2019 RAINBOW STAGE 2019.8.16 セットリスト
1. Crazy Nights
2. Like Hell
3. Heavy Chains
4. Soul On Fire
5. I’m Still Alive
6. The Sun Will Rise Again
7. Rain
8. Massive Tornado
9. Crazy Doctor
10. S.D.I.
FALL OUT BOY/多彩な音楽性を見せた親日パンク・ロッカー
MOUNTAIN STAGE初日のヘッドライナーは、ノリノイ州が生んだ新世代ロックの先駆者:フォール・アウト・ボーイ。彼らは2009年に活動休止した後、2013年に復帰してて以降は、ほぼ毎年といっていいほど来日が続いている。もはや彼らにとって日本は第二の故郷なのかもしれない…ちょうど同じ時間帯に、“MARINE STAGE”では国内最大級のロック・アーティスト:B’zが出演していたにも関わらず、約2万人を収容できるこちらのステージも埋め尽くされんばかりの観客が集まっていた。開演直後から会場のテンションは最高潮で、「The Phoenix」ではその熱量を表現するかのようにステージ上に炎が噴き上がる!
「Suger, We’re Goin Down」ではスペシャル・ゲストとして9歳の天才ドラマー:かねあいよよかがサプライズ出演し、圧倒的なドラムさばきを見せたことも大きなハイライトになっていた。中盤では「Save Rock And Roll」や「The Last Of The Real Ones」等、ロックの垣根を超えたオルタナティヴなアレンジをフィーチュアした楽曲も披露。しかし後半に差し掛かると「Thnks Fr Th Mmrs」といったパンキッシュなナンバーが増えていき、ラストはバンド・サウンドが特に際立つデビュー・アルバム『TAKE THIS TO YOUR GRAVE』(2003年)収録の「Saturday」を初心に戻るかのように情熱的にプレイしていた! 多彩な音楽性をチラつかせながらも、最終的に彼らのルーツであるパンク・ロックで終わるのはなかなか感慨深い。
1. Disloyal Order Of Water Buffaloes
2. The Phoenix
3. Irresistible
4. Sugar, We’re Goin Down
5. American Beauty / American Psycho
6. Immortals
7. Stay Frosty Royal Milk Tea
8. Uma Thurman
9. Save Rock And Roll
10. The Last Of The Real Ones
11. Dance, Dance
12. Thinks Fr Th Mmrs
13. I Don’t Care
14. This Ain’t A Scene, It’s An Arms Race
15. Centuries
16. My Songs Know What You Did In The Dark(Light Em Up)
17. Saturday
B’z/単独公演さながらの堂々パフォーマンス
これまで、MARINE STAGEのヘッドライナーを飾るのは海外勢に限られていたが、“SUMMER SONIC”20年目の節目に初めて国内アーティストが登場。選ばれたのはB’zで、まさにその座にふさわしい堂々たるパフォーマンスを繰り広げてくれた。幕開けとなる「RED」から早速、日本のロック史に刻まれた“声”を持つ稲葉浩志の歌が響きわたる。続く「声明」では松本孝弘がキャッチーなギター・メロディーを奏で、どっしりしたリズム・ワークを説得力たっぷりに刻んでいく。折しも彼らは新作『NEW LOVE』の全国ツアー真っ最中。バックのミュージシャンが今年から一新されており、ブライアン・ティッシー(dr)、Yukihide “YT” Takiyama(g)、モヒニ・デイ(b)、サム・ポマンティ(key)といったワールド・クラスのプレイヤーが新たに一丸となって、グルーヴィなアンサンブルを聴かせてくれた。さらに松本のギター・ソロでは、YTと息を合わせたツイン・リードやハーモニーを随所で披露。2人がレスポールやフライングVといったシェイプが同じギターをセレクトして、ルックスを揃えていたのもポイントだった。
必殺チューン「ultra soul」で一度目のクライマックスを作り出すと、その熱をさますかのようにショウは一旦バラード・タイムに。マリンスタジアムの上に顔を出した月に照らされながら、新作からの「マジェスティック」が爽やかに奏でられる。次の曲もやはりバラード調で、松本はスライド・バーを用いてのメロディー弾きでスタート。ところが、稲葉が「どれだけ泣けば…」と歌い出したところで、これが「裸足の女神」のアレンジ版だとわかり、会場中から悲鳴に近い歓声が沸き起こる。後半はロック・ヴァージョンに戻り、松本も稲葉に電気ドリルを持たされて(!)ガッツリと締めてくれた。
そんな誰もが慣れ親しんだ人気曲への反応もさることながら、今年CMタイアップの1つとして発表された最新曲「兵、走る」でも、観客のかけ声はバッチリ。ここまで新旧を問わず吸引力の高い楽曲を連発できるアーティストはまれではないだろうか。この曲ではギターのサウンドにも一段とパワーが増しており、流麗な指さばきのソロも光っていた。
問答無用のエネルギッシュなロック曲「juice」でオーディエンスとの掛け合いに興じた後は、これまた不朽の名曲「さまよえる蒼い弾丸」。後半のソロ・パートは長めに取られ、モヒニが得意のスラップを見せつける。続いて松本が和風スケールを交えた長めの速弾きでエモーショナルに彩り、高揚感を煽っていく……結果的に、B’zのステージは単独公演と変わらないほどの凄まじい熱気に終始包まれ、初日の“マリン”は盛大に締めくくられたのだった。