匠/sukekiyo『ANIMA』

匠/sukekiyo『ANIMA』
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(写真●尾形隆夫)

DIR EN GREYの京(vo)によるソロ・プロジェクトとして誕生したsukekiyoが、1stフル・アルバム『IMMORTALIS』(2014年)、ミニ・アルバム『VITIUM』(2015年)と順調に作品を重ね、先日また新たなマテリアルとしてシングル『ANIMA』を発表した。曲数は5曲だが内容は非常に濃厚で、さらにミュージック・ビデオとライヴ映像を収めたBlu-rayを付属。こういう力作を公式ウェブサイトとライヴ会場のみの限定販売にしてしまう辺りがなかなかひねくれているが…(失礼)、今回もギタリスト/ピアニスト/マニピュレーターを務める匠にその全貌を語ってもらった。

ピンと来るものがあれば浮上させて練り上げる

YG:フル・アルバムとミニ・アルバムを1枚ずつリリースして来ましたが、その2枚を制作したことでバンドの方向性がより固まって来たという実感はありますか?

匠:『IMMORTALIS』は構想も含めると5年ぐらいかけて作ったものだったので、当初京さんとやりたかったことを凝縮したものになったと思うんです。そこから方向性はあまり変わっていないんですけど…、その後の『VITIUM』は今考えると、結果的によりバンド然としたものになったかもしれないですね。今までに「完成させたはいいけどライブでやらない曲」みたいなものもないですし、やりたいことはすべていい感じにやって来ていると思います。

YG:捨て曲がないというのはつまり、漠然と曲作りするわけでなく、あらかじめゴールを見定めて計画立てて進めて行く…というのがsukekiyoのやり方ですか?

匠:いや、様々ですね。京さんとのちょっとした日常会話の中で「ああいう曲がほしいよね」「次はこういう見せ方をしたい」といったキーワードをもらって、それを元に膨らませていくやり方もありますし、それ以外にメンバーそれぞれが作った曲をデモの形で全員に聴かせることもあります。だからもちろん、断片的なアイデアは各自の頭の中に眠っているはずですし、途中までプリプロしたけど止まっている曲なんかもありますよ。ただsukekiyoの場合、プリプロから完成させるまでが長かったりするんですけどね(笑)。そんな風に沢山アイデアを出す中で、ピンと来るものがあれば浮上させて練り上げる…、そんな感じですかね。

YG:今回の『ANIMA』は5曲入りシングル。普通のバンドだとまずシングルを何枚か出し、ミニ・アルバムを出してから、満を持してフル・アルバム…といったパターンが多いですが、sukekiyoの場合は逆を行ってますよね?

匠:そうですね。リリースのタイミングはライヴとの兼ね合いもあるので、京さんも色々と考えているみたいですけど…。『IMMORTALIS』に関しては、「いきなりフル・アルバムを作った方が面白い」というようなことは言っていたと思います。何しろ最初は、30曲ぐらいの2枚組にしようというアイデアもありましたから。

YG:それはすごい(笑)。『IMMORTALIS』の初回生産限定盤には、リミックス曲が収録されたCD2が付いていましたが…。

匠:当初は、純粋な新曲だけで2枚組の形にしようということでした。僕らはバンドとしては新人ですからね。それぐらいのことをしておけば、最初に舐められることもないだろうと(笑)。結果的に実現はしませんでしたけど。

基本的にすべてのパートを譜面で整理する

YG:では『ANIMA』の収録曲について、順番に聞かせてください。1曲目「anima」は、まず冒頭のベースとピアノのラインがとても印象的ですね。この曲に限らず、今回の収録曲にはベースが目立つものが多いと思ったんですが。

匠:なるほど。特に目立たせたいという意識はなかったと思うんですけど、ライヴでも作品でもまずリズム隊の音をどしっと出して、真ん中に歌がしっかりいて、その上に他の楽器が乗っかるという音像を基本にしていますが、聴いて心地よければ多少ベースの音量が大きめでもいいかな…と思った憶えはあります。これでもミックスの時に、少し音量を下げたんですけどね。あとsukekiyoでは今までに実験的なことを色々やって来たので、作品に関しては音数を多くし過ぎる傾向があると思っていたんですよ。今作ではそれをふまえつつ、不要な音を減らす方向で作っていたので、各楽器の分離が良くなった分、ベース・ラインも際立ったのかもしれないですね。

YG:確かに音の分離が良いので、特にヘッドフォンで聴くと各パートのフレージングの繊細さがよく分かりますね。複雑なラインがしっかり整理されているし、逆に混沌としている部分は強烈に混沌としているし。相当頭を使って構築しているように思いました。

匠:自分がメインで制作する曲に関しては、基本的にすべてのパートを譜面で整理して、ベストな和音関係を目でも確認します。僕は和音やコード進行へのこだわりが強いので、何パターンも試したりしますし。ちなみに今回はプリプロの際、曲のテンポや雰囲気などがある程度固まった段階で、京さんが本番の歌を先に録ることが多かったんですね。「俺はこう歌うから」と。僕はそれを聴きながら自分のパートを弾いたので、特にピアノなんかは逆にやりやすかったですね。この歌を際立たせる最強の伴奏をすればいい、みたいな感じで。

YG:コード進行で言うと、曲の中盤に転調する部分がありますよね。そこから元のKeyに戻ってギター・ソロが始まる、その部分の落差に強烈な違和感があって、とても耳に残りました。

匠:あそこは若干変な転調をすることで、フックを作り出したかったんですよ。僕は映画音楽やゲームのサウンドトラックなども好きでよく聴くので、その辺りからの影響が出ているところとも言えそうですね。歌モノであるということを考えずに作ったので、そういう意味でも不思議な仕上がりになっています。ただそんな妙な進行でも、京さんはバッチリとハマる歌メロを乗せて来るんですよ。

YG:ということは、コード進行が先にあって、歌メロは後から?

匠:そうです。あそこのパートだけはコードが先にありました。

YG:そういった細かいこだわりが全体的にちりばめられていて、聴き手も一瞬たりとも気が抜けない感じがしますね。

匠:例えば2番のAメロだけ、バックのコードを少し変えてみたりとか…、そういう小さな積み重ねにものすごく時間をかけます。だから僕は他のメンバーが考えるラインにも、けっこう細かく口出しするんですよ(苦笑)。あそこの音が当たっているから変えてほしいとか、最後の最後まで色々やり合っていましたね。

YG:ギター・ソロはディレイを大きめに効かせたアンビエントな音色ですが、その辺りは音数を減らしたからこその効果と言えそうですね。

匠:そうですね、余計な音がない分、空間系が派手に聴こえるんだと思います。あのソロはUTAさんが弾いているので、ディレイの返り具合とかは彼の好みもありますけどね。フレージングがより細かく聴こえるよう、あえてギターのバッキングで壁を作るのもやめておきました。