生で録りたい楽器には徹底的にこだわる
YG:続いて「elisabeth addict」のアコースティック・ヴァージョン。もともと『IMMORTALIS』の1曲目に入っていた曲ですが…、ただオリジナル・ヴァージョンもアコースティック系の曲でしたよね?
匠:その通りなんですけど、今回のヴァージョンはよりバンドの一発録りに近い形というか。スケジュールの関係で全員の時間が合わせられなかったので、本当にスタジオ・ライヴで録ることはできなかったんですけど、それらしい雰囲気になったと思います。各パートのオーヴァーダブもほとんどなく、最小限に聴こえるような形ですね。
YG:左側のトラックにアコーディオンみたいな音が入っていますが、これは?
匠:あれはUTAさんが弾いているヤマハのヴィオリラという楽器で、大正琴をヴァイオリンの弓で弾くような仕組みの擦弦楽器なんですよ。この曲でギターを弾いているのは僕だけなので、パートとしてはヴォーカル、アコースティック・ギター、アコースティック・ベース、ヴィオリラ、ジャンベ(西アフリカで伝統的に用いられている太鼓)という5つになっています。
YG:パーカッションはジャンベのみですか? すごい表現力ですね。
匠:そうですね、未架(dr)は強弱や叩く位置で上手く表現するんですよ。もちろんマイキング
はそれなりに沢山しますけどね。アコースティック・ギターもスタジオの部屋のアンビエンスを録るためにけっこうマイクを立てているから、パートが少ないと言ってもトラック数はかなり使っているんですよ。最近は音楽の制作環境も変わっているので、何から何までスタジオで生で録るわけにもいかないじゃないですか。だから僕もエレクトリック・ギターは自宅で、ケンパーの“Profiling Amplifier”を使ってラインで録ることが多いんですが、やっぱり生録りにこだわりたい楽器はスタジオできっちり録ります。
YG:曲によって上手く作り方を変えているということですね。
匠:そうですね。特にピアノやアコースティック・ギターの録りには時間をかけます。何本も用意して試してみて、音色が一番しっくり来るものを、じっくりマイキングしながら録る…という具合に。今回の「elisabeth addict」のアコースティック・ヴァージョンに関しても、マーティンとテイラーと…色々と試してみて、結果的には王道のマーティン“D-28”に収まりましたけど、かなり弾きましたね。
YG:5曲目は『VITIUM』に収録されていた「leather field」の、TUSK(現THE SLUT BANKS/新宿心音会、元ZI:KILL)さんとのコラボレーション・ヴァージョン。TUSKさんって世代的には、京さんよりかなり先輩ですよね?
匠:そうですね。京さんがずっとリスペクトしていた方だからこそ、実現した企画だと言えると思います。最初は『VITIUM』に入っていた全曲をTUSKさんにお渡しして、歌いたい曲を選んでいただいたんですよ。その中から「leather field」が選ばれたということですね。この曲はKeyがEmで、TUSKさんの声域に合うんじゃないかな…と密かにディレクターと言っていたんです。
YG:予想が当たったわけですね。私もZI:KILLは聴いて来た世代なので、あの声が入って来るとその途端に物凄い“ZI:KILL感”が出て来るというか。
匠:本当に存在感がすごいですよね。カッチリと合わせ過ぎず、微妙に崩して自分の色を出して来る辺りが、素晴らしいと思います。