匠/sukekiyo『ANIMA』

匠/sukekiyo『ANIMA』

おかしなイントロからは思いもよらない進行

takumi-pic2

(写真●尾形隆夫)

YG:続いて「12時20分金輪際」。イントロに出て来るギターのハーモニーは、スライドバーを使ったプレイですか?

匠:そうですね、スライド・バーでワウを掛けてます。

YG:合わせるのが難しそうだな、と思って聴いていました(笑)。

匠:難しいんですよ! だからプリプロで思い付いた時に仮で録ったプレイが、そのまま活かされています。微妙なズレとかがいい感じで、ちゃんと録り直すとつまらなくなりそうだったので。

YG:サビの前に出て来るアヴァンギャルドなキメのセクションも印象的ですが、ただ曲の核はあくまでもキャッチーな歌メロですよね。異なる要素が上手く組み合わさっているのが面白いですが、曲作りの段階ではどのように構築していくんでしょう?

匠:この曲はちょっと特殊なパターンかもしれないですね。京さんに最初に聴いてもらった時はイントロだけしか出来ていなかったんですけど、あの奇天烈な感じが何か心に引っかかったみたいで、面白いからこの路線で進めてみようということになって。ただ作り進めているうちに、今のsukekiyoの持ち味の1つである「歪んでいるけど美しい」という側面を前面に出したいと思い、サビには美しいコード進行を入れてみたくなったんですよね。あのおかしなイントロからは思いもよらないような、クラシカルな進行にしてみたり(笑)。そういう組み合わせをひたすら実験して出来上がった結果が、この曲です。

YG:中間部にはちょっとプログレッシヴなキメのセクションもありますよね。

匠:ありますね。今回はレコーディング時にメンバーそれぞれが忙しくしていたので、録る前に一度バンドで合わせるタイミングがなかったんですけど、先日ツアーのゲネプロで初めてみんなで演奏してみたら、意外に気持ちよく合わせられました(笑)。本当はレコーディング前に全員で合わせて、微調整しておいた方がいいんですけどね。

YG:あのセクションは変拍子ですか?

匠:変拍子ですね。だからPro Toolsのファイルを見ると、ものすごくおかしな間隔でマーカーが振ってあります(笑)。フレーズとして憶えてしまうしかないパターンですね。あそこはUTAさんが持って来たセクションなんですよ。メンバー同士のアイデアが上手く組合わさったという意味で、今のバンドの良さが出た曲と言えると思います。ちなみに「anima」では僕はピアノを主に担当しているんですが、「12時20分金輪際」の方はしっかりギタリスト・モードで弾いてます(笑)。

YG:ギター・ソロも匠さんが?

匠:ソロも僕です。オクターヴ上と下を重ねていますけど、フレーズ自体はわりと王道で自分らしいなと思ってます。

YG:匠さんは以前、影響を受けたギタリストの1人にランディ・ローズを挙げていたので、そういう感じの泣きが詰まっているなあ…と思いました。

匠:なるほど(笑)。サビのところでも最近はあまり聴くことがない、’80年代っぽいギター・オーケストレーションをやってますしね。あそこは物凄く細かく凝っていて、UTAさんとピッキング・ハーモニクスのニュアンスとか、ピッキングのダウン&アップまで合わせたりしています。普段そこまでガチガチに細かくハモることはないんですけど、たまにはいいかなと思ったんですよ。

UTAさんは僕と方法論が全く違う

YG:続いて、もともと京さんの詩集『自虐、歛葬腐乱シネマ』(2001年)の付属CDに入っていた曲「304号室 舌と夜」のリメイク・ヴァージョン。これは頭のコード感が非常に不思議ですが…、F#mにテンションを加えたような感じですか?

匠:そうです。この曲のギター・アレンジはUTAさんがほとんどやったんで、彼ならではの独特な雰囲気が出ていると思います。UTAさんは「少しぐらい音が当たっていてもいいや」という宇宙的感覚?(笑)の持ち主なので、僕が作るものとは全然違って面白いですよね。

YG:コードはマイナーなのに、歌メロは明らかにメジャーですよね?

匠:お互いの合間をぬって変動してますよね。しかもかなり微妙なタイミングで、正面衝突するスレスレの感覚で攻めるという(笑)。そこがこの曲の魅力だと思います。メジャーとマイナーを深く考えず直感で混在させるのは、UTAさんがよくやる手法なんですよね。京さんは15年ぐらい前にこの曲の最初の音源を作っていて、sukekiyoのライヴでもこの曲はずっとやっていたんです。今回改めて作品として残すに当たって、やっぱり自分たちならではの色も加えたいと思ったので、そういう意味でも新しさを出そうと思いました。

YG:この奇妙な調性の中で、京さんはよく歌えますよね? 

匠:そうですよね、本当に感覚が独特だと思います。僕はDIR EN GREYのスコアの採譜の仕事もやってたりするんですけど、この曲だけは譜面を採りたくないですから(笑)。どう書けばいいか分からないというか。全編N.C.(ノンコード、該当無し)ですかね(苦笑)。

YG:ギターは左右の異なるフレーズが巧みに絡み合っていますが、これは両方ともUTAさんが?

匠:そうです。僕はこの曲では主に、おどろおどろしいシーケンス・トラックを作ったり、アンビエントなピアノを弾いたりしていました。

YG:なるほど、役割分担がハッキリしていますね。ちなみに中間部に一瞬、リング・モジュレーターを掛けたアルペジオが出て来ますが…。

匠:あれもUTAさんのセンスで、カッコいいですよね。

YG:リング・モジュレーターって、ギタリスト的には二番手三番手のエフェクターだと思うんですけど、この界隈では愛用している方はけっこう多いですよね? LUNA SEAのSUGIZOさん、DIR EN GREYの薫さんとDieさん…。

匠:言われてみればそうかもしれないですね。みなさん原音に対してうっすら重ねているんだと思うんですけど、それによって生じる独特の歪みが気持ちいいというか。僕はシンセサイザーも弾くので、そっちにかけたくなるエフェクターなんですよ。だからギタリストとは、考え方が少し離れているかもしれないですけど。逆にギターにはディレイとワウだけあればいいというか、ギター然とした音を出したい。UTAさんはあらゆる音をギターでどうにかしようとするタイプなので、そういう方法論でも考え方が僕と全く違いますね。