「新作『TALLULAH』は、ちょっと大人になった自分が若かった頃の自分を振り返っている感じ」グラント・ニコラス/フィーダー インタビュー2019

「新作『TALLULAH』は、ちょっと大人になった自分が若かった頃の自分を振り返っている感じ」グラント・ニコラス/フィーダー インタビュー2019

UKロックらしからぬ骨太なダイナミズムと、UKロックらしい繊細で美麗なメロディー感覚を併せ持ち、今もシーンを力強く牽引するUKの国民的ロック・バンド:フィーダーのグラント・ニコラス(vo, g)が、ASIAN KUNG-FU GENERATIONに提供した楽曲「スリープ」が主題歌となった映画『スタートアップ・ガールズ』の完成披露上映会への登壇のため、去る8月22日に来日。慌ただしい中ではあったが、本誌でもグラントにインタビューすることができた。主題歌「スリープ」のこと、そして、全英初登場4位を記録した通算10作目の新作『TALLULAH』の充実ぶりや、約20年前と変わらないギタリストとしてのポリシーのことなど、短い時間の中で、様々な話をしてくれた。

フィーダーのニュー・アルバム『TALLULAH』は、2001年の「Just A Day」や2002年の「Feel It Again」(共に2004年のシングルB面集『PICTURE OF PERFECT YOUTH』に収録)に通じる蒼い疾走感や瑞々しいメロディー感覚を呼び戻し、1990年代中期のブリット・ロック/ポップの隆盛や、そこに感化されていたアメリカのフー・ファイターズといった、“あの頃”の景色も浮かび上がってくるような、感涙の傑作だ。黄金期よ、再び──!

アジカンやthe HIATUSが僕達と同じ音楽が好きだということは分かるよ

YG:まずは、映画『スタートアップ・ガールズ』の主題歌「スリープ」から伺いましょう。 この曲は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONにグラントが楽曲提供し、アジカンの後藤正文が歌詞を付けた曲ということですが、詳しく教えてもらえますか?

グラント・ニコラス(以下GN):実は、『GENERATION FREAKSHOW』(’12年/8作目)が出た時、「Idaho」という曲でゴッチ(後藤正文)がヴォーカルをやってくれたんだ。僕が歌った通常のフィーダー・ヴァージョンもあるけど、バッキング・トラックをゴッチに渡して新たに歌ってもらったヴァージョンがあって、それが日本盤限定ボーナス・トラックとして収録された(註:同作にはthe HIATUSの細美武士の歌唱による「Generation Freakshow」も日本盤ボーナス収録)。一緒に日本公演をやった時に、ゴッチがゲストで入って、日本語で歌ってくれもしたね! そういう繋がりがあったんで、「スリープ」でもコラボレーションしたんだ。実は最初、映画に使われたことは何も知らなくてさ。ただASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバムに入るだけなんだと思っていた。彼の方は知っていたのかもしれないけどね。とにかく僕がデモを作って、仮歌を入れておいたんだ。歌詞も下書きだったよ。それに、ちゃんとドラム・マシンでリズムも付けておいてね。それをゴッチに送ったんだ。彼はそれに日本語の歌詞を書いて、バンドでレコーディングしてくれた。僕の歌メロと彼の歌詞が合わさって、良い曲になったよ。

YG:ギター・パートに関してはいかがですか? グラントもプレイしているんですか?

GN:いや、あのヴァージョンでは弾いていない。デモでは自分が弾いたけどね。でもそのパートを彼が同じように弾いてくれたよ。

YG:ほとんど同じですか?

GN:うん、ほぼ同じだね。Keyは歌いやすいように変えていたな。でもアレンジはそっくりだったよ。

YG:ちなみに、グラント及びフィーダーは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONだけでなく、the HIATUSなどの様々な日本のロック・バンド/アーティストに影響を与えていますが、そのことはどう感じています? ASIAN KUNG-FU GENERATIONは、インディー・ロック的な音楽を日本に広く根付かせたバンドの1つなので、グラントは間接的に、日本に大きな影響を与えているんですよ。

GN:そんな自覚はないけどね、ハハハ!(笑) でも、嬉しいな。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやthe HIATUSなどは、僕達と同じ音楽が好きなんだということは分かるよ。メロディーもイギリスやアメリカの音楽から影響を受けている。ASIAN KUNG-FU GENERATIONには日本の音楽の影響も結構あるな。でも、ああいったサウンドが好きだということは間違いなく分るし、それはthe HIATUSも同じだと思う。だから彼らがフィーダーを好きなんだということも分かるよ。面白いよね。

「Tallulah」のインパクトは作曲家としての自分の人生を変えるほど

YG:ここからは10作目の新作『TALLULAH』のお話を。今作は、全英アルバム・チャート初登場4位。 そして、独立系レコード店の実売数を統計する、UKレコード・ストア・チャートでは1位を獲得しましたね。ちょうどスリップノットの新作と同じ週のリリースでしたが、フィーダーがスリップノットと競うほどの人気だとは、正直、驚きました!

GN:ああ、(2つの)ロック・バンドがトップ5にランク・インしているなんて、凄くいい気分だよ!(笑) スリップノットのファンはストリーミングよりもCDを買うみたいだね。

YG:最近はイギリスでもアメリカでもロックがちょっと弱くなってきていると感じる中で、フィーダーのような正統派のギター・バンドが上位にチャート・インしたことは、我々ギター誌としても凄く嬉しく思います。

GN:僕もとても嬉しかった。努力はしっかりしたんだ。プロモーションを頑張ったし、インスタグラムやフェイスブックに寄せられるファンからのコメントもしっかり読んで、返信することもあるけど、みんな新作をとても気に入ってくれたみたいだった。良い印象だったよ。だけどここ2作は両方ともトップ10入りしていたんだ。『ALL BRIGHT ELECTRIC』(2016年/9作目)は10位だったし、ベスト盤の『THE BEST OF』(2017年)も10位。だから、頑張ればチャートに再び戻っていけるなという感覚はあったんだ。トップ5にいけるかも!…って。それで、プッシュし続けていったんだよ。ラジオでのオンエアも増えたし、ストリーミングもより力を入れた。2〜3年前まで、Spotifyには参入していなかったんだ。なぜなら、イギリスで僕達が所属していたレコード会社ECHOの社長が、Spotifyを嫌っていたから(註:フィーダーは1997年のデビュー作から、2008年の6作目までECHOに所属)。僕も理由は分かる。ロイヤリティが全然良くないから、収入がほとんどないんだ。それは今も変わっていないよ。だけど、僕達としては「他のバンドがみんなやっているんだし、自分達の曲は聴いてもらいたい。こんなにたくさん曲があるんだから…」という思いがあった。もう、200〜300曲は書いてきたからね。だから聴いてもらえないのはもったいない。そこで、今はSpotifyを推奨する側に廻ったんだ。これがオンエアの増えるきっかけになったみたいだよ。ちゃんと役に立ったんだ、特に若い層にね。うんと若い子は、あそこで音楽を聴くからさ。

YG:同名曲も収録されていますが、新作のタイトル『TALLULAH』の意味するものは何でしょう?  “TALLULAH(タルーラ)”は、誰か特定の女性の名前?

GN:実は、僕の妻の親友の娘の名前がタルーラというんだ。まだ8歳だけど、自由な精神を持った強い性格の持ち主で、幼くして自立心が旺盛なんだよ。きっと人生で成功するだろうな、という感じの面白い子だ。で、ちょうどアルバムのアートワークをアーティストと一緒に考えていた時のことだった。アルバムの中でも僕が特別気に入ってるのが「Tallulah」で、子供や家族の大切さを実感させてくれる内容で、作曲家としての自分の人生を変えてくれるほどのインパクトがあった。自分自身に対する強いメッセージにもなったんだよ。で、アートワークが女性的でありつつ不思議な雰囲気を放っていた。これまでの僕達にしても、ちょっと変わった感じだ。奇妙だけど、面白い。それに、顔のイメージの中にもいろんなイラストが描かれているよね。これも凄く気に入ってる。これらは収録曲のそれぞれと関連しているんだよ。作品の内容がこのイラストに集約されたような感じだ。侍の刀は「Kyoto」だし、コーヒーとか、ドライヴとか。このアイデアはなかなか面白い。アーティストと共同で作業するのはいつも楽しいね。アルバムの仮タイトルは幾つか用意していたけど、これを見た時に“Talullah”が僕の頭に浮かんできた。このアートワークができる随分前の、初期段階の時点で「これは“Tallulah”しかない!」と思ったんだ(笑)。憶えやすい名前だよね。シンプルで強力だし、フィーダーっぽくないタイトルだという所も気に入った。

YG:新作の全体を通しての印象ですが、メロディーが若々しく、青年期(Youth)に作った音楽のような瑞々しさに満ちているように感じていて、ここ最近のアルバムとはずいぶん違った印象を受けました。今回は、どのようなアルバムを作ろうと考えていたのでしょう?

GN:『THE BEST OF』の頃、僕達はツアーで忙しかったんだ。(ツアーのセットリストは)ほとんどがシングル曲で、夏フェスにもたくさん出演していたよ。だからこのアルバムの曲を書き始めた時、その夏フェス気分がまだ残っている状態だった。だから、フェスのモードで書いたみたいだね。(ベスト盤のツアーだったから)初期の頃の曲にも久しぶりに触れられたことも大きかったと思う。2ndアルバム(『YESTERDAY WENT TOO SOON』/1999年)からの「Insomnia」とかさ。あの頃は、もっとインディー・ロック色が強かった。高揚感があって……。でも今回、特に何か計画してやったことじゃないんだよ。若ぶってるわけじゃなくて、ちょっと大人になった自分が若かった頃の自分を振り返っている感じだったんだ。ああいう時代もあった、とね。決して20代っぽくみせようとしてるわけじゃないけど、音楽をやることは若い気持ちにさせてくれるよ! このアルバムは気に入っているんだ。これまでの僕達のアルバムの中にあった要素も、ちょっとずつ見えているんじゃないかな。勿論、最初の2枚アルバムも含めてね。

YG:ええ、まさにそのように感じましたね。

GN:僕もそこが気に入ってるんだ。計画してやれることじゃないし、自然に出てこないとね。「Kyoto」では、初期の作品にあったようなヘヴィな側面を見せることができたとも思うし。でもやっぱり、アルバムには面白さを持たせたいし、前半はパワフルなロックを見せたい。だから、曲順は意識したよ。冒頭からバンバンバン!と勢いよく、後半はちょっと広がりを持たせる感じだ。ヘヴィなところだってある。凄く計画したわけじゃないけど、なんとなく狙うところは分かっていて、自然にそうなっていったという感じかな。今の僕らが、こんなアルバムを作れて良かったと思うよ。

YG:アルバムのオープニングを飾る「Youth」は、特に瑞々しさや高揚感を感じさせてくれる爽快なロック・チューンですが、この「Youth」のMVには、フィーダーのシングルB面集『PICTURE OF PERFECT YOUTH』のジャケット写真を少年が眺めるシーンが出てきます。“Youth”という言葉が乗ったこれら2つの事柄には関連性があるのでしょうか?

GN:ええと、あのビデオはシンプルなパフォーマンスに留めようと考えていたんだ。僕はいつも、フィーダーのMVをあんな菜の花畑で撮れたらいいなとずっと思っていたんだよ。真っ黄色の花だ。まずそれがやりたい。そして次に、隠された意味を持たせたいとも考えていた。そこで、フィーダーの歴史が分かるような写真を入れてみたんだ。『PICTURE OF PERFECT YOUTH』だったり、僕とジョン(ヘンリー・リー/dr/2002年逝去)とタカ(ヒロセ/b)の写真、僕が赤ん坊だった頃の写真、タカの少年時代の写真だったり…。僕の祖父の写真もある。ちょっとひねりを加えたってわけだ。で、男の子が(それらが入った)タイムカプセルを掘り出すシーンがあるよね? 日本では家族の写真とかを入れて埋めておいて、50年後に掘り出したりするって聞いているけど、あそこは、(フィーダーを)野原に埋めておくことで、いつか誰かが掘り出して見つけてくれるかもしれない…そういったヒネリも加わっているんだ。あの男の子が見つけて、フィーダーの歴史やメンバーの人生を楽しんでくれた、というストーリーになってる。あの子は、古いカセットテープのウォークマンで音楽を聴いてるだろ(笑)。なかなか興味深いと思うね。