ドイツの小さな工房が希望通りのギターを手掛けてくれる(パット)
YG:お2人ともギターとヴォーカルを担当していますが、バンドではどっちが先でしたか?
RA:俺は同時に始めた。
PP:俺は違う。以前はシンガーではなかったんだ。このバンドに入った時も、最初はギタリストが必要だと言われて──さらに歌うことを求められたからそうしただけさ。それ以前も、チャンスがあれば歌っていたのかもしれないけど、フロントマンのような役割が回ってくることはなかったね。
YG:アルビは、最初パットを専任ギタリストとして迎えようとしていたのですか?
RA:いや、歌ってもらうつもりだったよ。「(このバンドに入ったら)歌わなくちゃならない」「分かった…歌うよ」と、まぁそんな感じだった。特に問題はなかったね(笑)。
YG:曲を書いて、ギター・パートを振り分ける際はどのようにして?
RA:そんなの簡単だよ。
PP:ライヴでは俺がエレクトリック・ギターを弾いて、アコは1〜2曲しかやらない。だから基本的には、俺がすべての曲でエレクトリックを弾き、アルビはアコースティック・ギターやバンジョー、マンドリンなどを弾く。
RA:ただ、飽くまでベーシックなパートは、ドラム、ベース、エレクトリック・ギターだ。まず、それらをアレンジしてから、その後にどの楽器を加えればイイのか──マンドリンにするのか、バンジョーの方が合うのか──そういったことを決めていく。
YG:アルビはバンジョーやマンドリンで曲を書くことも?
RA:いや、ギターだけだよ。何故なら、マンドリンなんかを加えるのは、その曲をもっと面白くするために何が出来るか、そういったことを考える段になってからだからね。
PP:でも──ノルウェーにいた時、マンドリンで「No More Pawn」(’13年『WINNERS & BOOZERS』収録)を書いていなかったっけ?
RA:ああ、そうだったな(笑)。以前ノルウェーでプレイした時、午前3時ぐらいにクラブからホテルへ戻ったら、まだ外が明るくてね。その時、たまたま手元にあったマンドリンを携えて外に出てみると、パーティーをやっている人達がいた。そこに加わって、歌い始めて…。マンドリンで曲を書いたのは、あれが唯一だった。
YG:ギターのチューニングはどうなっていますか?
RA:数種類を使い分けているよ。アイリッシュ・ソングもあればトラディショナルな曲もあるから、1つのチューニングだけで全編通して弾くことは稀なんだ。スタンダード・チューニングもあるし、アコースティック・ギターではオープンD(D-A-D-F#-A-D)を使うこともある。
PP:エレクトリック・ギターは大抵スタンダード・チューニングだよ。時にはドロップDを使ったり、全弦1音下げにすることもあるけど。
YG:では、今回日本へ持ってきたギターを教えてください。
PP:俺はトーンダル(Thorndal)のエレクトリックを1本だけ。ドイツのバイエルン地方のマルクトレドヴィッツ市にある小さな工房で作られているんだ。製作者と仲が良くてね。俺のために、希望通りのギターを手掛けてくれる。欲しいスペックを伝えれば、その通りに仕上げてくれるのさ。
YG:いつ頃からの付き合いですか?
PP:8年ぐらい前、「うちのギターを弾いてみませんか?」と電話をもらってね。「じゃあ1本送ってくれる?」「先にお金を払ってもらわないと…」「じゃあイイや。バイバイ!」というやり取りが最初あって(笑)──でも、小さな工房を支えるのは大変だろうな…って思い、頼むことにしたんだ。何もかも自分で製作していて、木材も地元で調達しているんだよ。
YG:ピックアップなどは?
PP:色々あって、今回持ってきたギターにはデューセンバーグ製の2ハムバッカーが搭載されている。
YG:他にそのメーカーのギターを使っているミュージシャンはいますか?
PP:え〜と…確か、ボンファイアというドイツのHR/HMバンドのギタリストが使っていたと思う。フランク・パニだったかな?
YG:今回持ってきたのは1本だけ…ということで、もしライヴ中に弦が切れたらどうしますか?
RA:コルピクラーニが貸してくれるんじゃない?(笑)
YG:なるほど。
RA:俺が持ってきたのはT・ヤイリのアコースティック・ギターだ。このメーカーのギターは、もうドイツでは売っていないんじゃないかな。
PP:e-Bayがあるじゃないか!
RA:見つけられるかもしれないな。でも、手に入れることが出来て本当にラッキーだったよ。ウチのギター・テックによれば、ピックアップが良く出来ているらしい。モデル名などは分からないんだけど。
PP:結構、古いんだよね?
RA:23歳の時に買ったから…25年前のことか。
YG:バンジョーやマンドリンも持参されたのですよね?
RA:うん。マンドリンはゴダン製で、かなりエレクトリック・ギターに近い仕様になっている。ステージ上で弾いても、殆どフィードバック音を出さないから安心だよ。バンジョーは、地元の楽器メーカーからもらった黒いモデルで、ルックスが珍しいし、実にステージ映えすると思う。よくアメリカ人が弾いているのとはまた違うんだ。あっちはとっても重いからね。
YG:アンプは日本で借りたのでしょうか?
PP:ああ。レンタルみたいだ。俺はピーヴィーを使っているけど、普段はメサブギーの“Dual Rectifier”で弾いているよ。
YG:エフェクターは?
PP:ないよ。シンプルに留めるのが好きなんで、アンプ直だ。チューナーとアンプのチャンネルを切り替えるスイッチはあるけどね。
YG:クリーンやリードで音色は変えていますか?
PP:いや、リズム・サウンドが2種類だ。あまりソロを弾かないからね。ただ、地元で使うメサブギーは3チャンネル仕様だから、たった2つのソロのために1つチャンネルを用意するという、贅沢な使い方をしているよ(笑)。
YG:アルビのエレアコは何かカマしていますか?
RA:アンプではなく、DIボックスからPAに直で送っているよ。エフェクターもなし。極力シンプルにしている。アコって出来るだけピュアな信号にしておいた方が、最も良いサウンドになるからね。
YG:この後、日本を離れてもツアーは続くのでしょうか?
RA:9月末にドイツでフェスティヴァルに出演する。それから1ヵ月のオフを取って、11〜12月はアコースティック・ツアーをやるんだ。エレクトリックを全く使わない編成で、会場のステージにバーのようなセットを組む。演目も変えるよ。もう何年も弾いていなかったような曲を加えるのさ。その方が俺達も楽しめるし、オーディエンスにも喜んでもらえるからね。
PP:そのツアーでは、俺もアコースティック・ギターを弾くよ。あと、マンドリンやバンジョーなども使う。アルビはブズーキもプレイするよね? あと、俺はシタールを弾いてもイイかなと思っている。
RA:そりゃイイね!(笑)
PP:そうやって弦楽器のヴァリエーションを豊富に揃えているんだ。
RA:エレクトリックの時とはアレンジも変えるからね。もう20年以上も同じ曲を弾き続けているから、こうやってスタイルを変えるのは楽しいし、チャレンジのし甲斐もある。
PP:ジャズやロカビリーといった方面にも広げていくことが可能だ。俺達はここまでやれるんだ…ということを示すことが出来るし、みんなも新鮮に感じられると思う。例えば「Strike Back」(’09年『SPORTS DAY AT KILLALOE』収録)は、元々パンク・ロックを主体としていたけど、ここではカントリー・ソングになっている。
YG:いずれ日本でも、そのアコースティック・ライヴを見せてください。
PP:う〜ん…それは難しいな。これは俺達にとっても特別な試みで、ドイツ国内でのみやることにしているから。ただ、最新作『DEVIL’S DOZEN』(’16年)のスペシャル・エディションを買ってくれたら、そこに付いているDVD映像で観られるよ。ミュンヘンでアンプラグド・ライヴをやった時の様子が収録されているから。
YG:もう次のアルバムの曲も書き始めていますか?
RA:曲は常に書いている。これまでに2回、スタジオに入ったんだ。来週もスタジオ入りするから、その時また新曲に取り掛かることになるんじゃないかな。来年の3月か4月にレコーディングが始められたらイイなと思っているよ。
YG:では、来年にはニュー・アルバムが出る…と?
RA:いや、アルバムのプロモーションにはちょっと時間がかかるから、多分’19年の1月ぐらいになるかな。その前に、ライヴで1〜2曲は新曲を披露するかもしれないけどね!
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