『星飼いの少年』(2020年)ではトリオ・バンド形式、『LOOP WORLD』(2020年)ではルーパーを使っての単独演奏…といった具合に、どんどんミニマムな方向へ進んでいたAKIHIDEだが、10月にリリースされた最新ソロ・アルバム『UNDER CITY POP MUSIC』では一転。タイトルからも想像がつく通りシティ・ポップをテーマとした、電子楽器の色が強い歌モノを軸とする作品を提示してきた。キャッチーでありつつ寂寞感や不安感も覚えさせるという、AKIHIDEらしい二律背反的な組み合わせは今回も不変だ。リリース日から若干間が空いてしまったが、ここに彼のインタビューをお届けしよう。
顔も知らないどなたかの素敵な音とセッションをしている…みたいな感覚
YG:最新作の話をお聞きする前に…。今年の4月、『432Hz Journey to sleep -眠りへの旅路-』というヒーリング・ミュージック作品を配信リリースされましたよね。『UNDER CITY POP MUSIC』とは何かつながりがあるのでしょうか?
AKIHIDE:関係性という意味では、あまりないですね。あの時は事務所のスタッフさんが、コロナ禍の間にああいったヒーリング・ミュージックを聞いているという話をしてくれて、そこから構想が生まれたんですよ。
YG:パッドやストリングスが主体の、まさに“癒しの音楽”ですが、AKIHIDEさんが今までやってきた流れで考えると、かなり攻めた方向性ですよね。
AKIHIDE:リアルタイムの一発録りでライヴ感を出しながら録ったものなので、挑戦ではありましたね。最初に何となく荒筋だけ決めておいて…というより1時間もの長さなので、構成を細かく決めておいても憶えられないんですが(笑)。夢の世界に旅立つという、大まかなストーリーに沿って作っていきました。僕はYouTubeなどで延々と、フィギュアやジオラマなどを作っている映像を観ながらお酒を飲むのが好きでして。そういう風に、リアルタイムで起こる変化や面白さを感じてもらえたらと思いますね。
YG:最近AKIHIDEさんのソロ作品の方向性は、どんどんミニマル・ミュージックへ向かっていましたよね。その究極形なのかな…とも思ったのですが、そういう流れとも関係なく?
AKIHIDE:コロナ禍の当初はスタジオでレコーディングすることさえもままならず、それでも音楽を作りたい、表現したいという思いの中で配信ライヴを行なったり、ループ・ペダルを使って1人で演奏したりしていたので、延長線上といえばそうかもしれないです。
YG:なるほど。AKIHIDEさんはわりと、独りを楽しめるタイプなんですね。
AKIHIDE:そうですね、嫌いじゃないかもしれないです。楽しいですね。あとは逆に言うと…今回の新作もそうですが、最近は曲作りでサンプル素材を多用するようになってきまして。なので、自分1人で音楽を作っていても、顔も知らないどなたかの素敵な音とセッションをしている…みたいな感覚ではありますね。
YG:その感覚は面白いですね。
AKIHIDE:すごいですよね、今はサブスクで何十万という数のサンプル素材を検索しながら使えるので。途方もない音の宝物があふれているんですよ。
YG:さて、今回の『UNDER CITY POP MUSIC』ですが、曲は普段溜めている音楽の断片から、少しずつ作っていったわけですか?
AKIHIDE:例えば8小節ぐらいあるピアノ・フレーズの1つをもとに、自分なりに小節を入れ替えてみたり、ギターや歌を重ねたり。それが楽しくて、溜まり溜まって1つの形になったのが今作ですね。基本的に以前のやり方とは全く異なる方法で作曲していった感覚です。
YG:膨大なサンプル素材の中からどの音を選ぶかというのは、ある意味インプロヴァイズとはまた違った、運任せの要素があると思うのですが。
AKIHIDE:まあ、自分が好きだと感じるものって、自然と偏って来ますから。今回自分の中に基準としてあったのが’80年代の音楽、中でもシティ・ポップやシンセ・ポップの要素だったんです。逆に言うと、そういった音楽は僕の中からは生まれにくい。聴くのは好きですけど、いわゆるロックやアコースティックな音楽に比べると、あまり深く通っては来なかったんですよね。そういう視点でサンプル素材を探していくと、わりと自分の琴線に触れる音源ってそれほど数が多くないんです。ある意味見付けやすかったですね。探すこと自体が楽しいですし、気付いたら見付かっていたという感じではありました。
YG:シティ・ポップというと、例えばアーティストさんならどなたのイメージですか?
AKIHIDE:やっぱり山下達郎さんとか、あとちょっと違うかもしれないですけど、香りとしては初期の高中正義さん…『虹伝説 THE RAINBOW GOBLINS』(1981年)とか。あと’80sのシンセ・ポップという意味で、YMO。制作中によく聴いていましたね。
YG:楽器を弾く人が好みそうなセレクション、という印象ですね。
AKIHIDE:ああなるほど、そうですね。やはり僕はギタリストなので、そういう視点でも聴いているかもしれないです。
YG:AKIHIDEさんはここしばらく、音楽と一緒に絵本も同時進行で制作し、それぞれで内容を補完し合うような作品づくりをしていましたよね。今作は音楽のみの形ですが、今までと違う方針にした理由はあるのでしょうか?
AKIHIDE:まずシンプルな楽曲を作りたいという狙いがあったんです。1曲1曲が短くて構成も簡潔な、とにかく伝わりやすいものを。そういう方向性もあったので、今回はストーリーを具体的な形にする必要はないかな…と思ったんです。ただ、実は設定は頭の中で細かく作ってあるんですよ。
YG:確かにいただいた資料の中に、世界観を示すマップ・デザインが載っていますね。ドームの地下に荒廃した都市が広がるという…。
AKIHIDE:以前から僕の中にはひとつの大きなストーリーがあり、基本的に僕の作品はそれぞれがその断片だったりするんです。今作もその一部ではあって、例えばマップのここに何故これがあり、その地下の施設に何があって…というのは、自分なりに色々理由があるんです。いつか答え合わせができたらいいなと思いますね。ブックレットもどんどん地下に潜っていく絵と、曲が対になっているので、聴いた方に色々と想像してもらえる、より楽しんでいただけるような形になっています。
YG:マップに“Moon Surface”と書いてありますが、つまり月の地下にある都市ということですか?
AKIHIDE:そうです、僕の話は基本的に月を中心に話が進んでいくので。
YG:ドームに連絡通路がありますし、実は他にも似たような都市があるのかも…といった想像が膨らみますね。
AKIHIDE:細かく見ていただいてありがとうございます。そうなんですよ、それが今までの作品や今後の作品につながるところで。まあ、自分の中で勝手に想像を膨らませているだけですけどね。
YG:ゲームの会社とコラボできそうですね。
AKIHIDE:僕もゲーム世代なので、やっぱりそういったところにアイデアの源泉があるんですよ。子供の頃はRPGが流行っていたし、ああいう世界観が自分の中にも根付いてしまっているので。確かにゲーム感はあるかもしれないですね。
YG:これは完全に想像ですが、例えば学生の時にAKIHIDEさんは、ノートの端っこにこういう設定を落書きしていたのかな…と。
AKIHIDE:学生の頃は、授業を聞かずに詩を書いてましたね(笑)。谷川俊太郎さんが好きで。最近はSFも好きなので、より細かく色々考えるんですよ。例えば月は重力が地球の6分の1なので、月の都市は通常空中に浮いていて、一方下に落ちている都市もあって…とか。『UNDER CITY MIDNIGHT STREAM -432Hz-』(※初回限定盤の特典CD)の盤面には、僕が作ったペーパーアートが描かれているんですが、そういった設定を反映させています。自分なりに考えるのが楽しくて。