楽器店や修理工房で行なわれているエレクトリック・ギターのセットアップ作業。読者の皆さんにも、利用されたことがある方はいるでしょう。ここで実際にどういった作業が行なわれているのか、気になったことはありませんか? また、自分でセットアップをすることは可能なのでしょうか? 答えは、イエス。ただ、やみくもにいじっても作業効率が悪くなったり、逆に状態を悪くしてしまったり…ということも考えられます。そこで今回は、どのような手順で確認や調整していくのが理想的なのか、その概要を解説していきましょう。
なお、この手順はベース・ギターも同様ですので、ベーシストの方もぜひチャレンジしてみて下さい。
手順1◆普段通りにチューニングをする
まず、セットアップの最初にやるべきことはチューニングです。各弦の音を正確に合わせましょう。
この時、いつもレギュラー・チューニングにしている人はレギュラーに合わせ、6弦だけ1音下げるドロップDや全弦半音下げといった変則チューニングにしている人は、それに合わせて下さい。なぜこうするかというと、レギュラー・チューニング(スタンダード・チューニング)と、変則的なチューニングとでは、ネックにかかる弦の張力が変わります。すると当然、ネックの反り具合にも影響が出るのです。プロ・ギタリストはライヴの際に、レギュラー・チューニング用や変則チューニング用といったギターを個別に用意して、それぞれ適切な調整が施されているものを使い分けたりしますが、ギターを複数揃えられない、もしくは1本で使い分けたいというアマチュアの場合は、最も多用するチューニングに合わせたセットアップをするのが良いと思います。
なお、手順2以降も、調整を終えた後はその都度必ずチューニングをし直しましょう。先述の通り、チューニングが違っていると弦がネックを引っ張る強度が変わりますので、ネックの反り具合が変化して弦の高さも変わってしまうからです。
チューニングには意外とコツがあります。こちらの記事で、改めてチェックしてみましょう。
手順2◆ネックの反り具合を確認し、必要なら調整する
正確にチューニングされた状態でネックがどの程度反っているのかを確認し、必要ならトラスロッドを回して反りを適切な状態に調整します。弦とネックの隙間が広ければ順反り(じゅんぞり)、狭ければ逆反り(ぎゃくぞり)となります。
なお、ネックの反り具合を変えるということは各フレットと弦の距離も変化するということです。したがって、弦高を調整するのはこの作業の後に行なった方が2度手間にならずにすみます。
実際に反りを調節する方法を、こちらの記事で解説しています。
手順3◆弦高を確認し、必要なら調節する
弦高とは、フレットの頭から弦の真下までの距離を指します。定規を当てて弦高が適切になっているか確認をし、必要であればブリッジの弦高調節機能を使って適切な高さに合わせます。高めに設定すると音のビビりの少ないクリアな音色を得ることができますが、当然演奏性は悪くなります。逆に、低めに合わせて弾きやすくすることは出来ますが、多少音のちりつきが目立つようになります。初めは一般的な高さに調整しておくことをお勧めします。
また、一般的な高さにした上で特定のフレットの音がビビる場合、フレットの高さが不均一であるという判断もできます。これを修正したい場合は一時的にネックの反り幅を多めに取るか、弦高を高めに設定して回避することは可能ですが、あくまでも応急処置です。根本的に解決するにはフレットのすり合わせと言った、セルフでは安易に対応できない高度なリペアが必要になります。
弦高の測り方や理想の数値、ブリッジごとの調節方法を、こちらで解説しています。
手順4◆ピックアップの出力バランスを確認し、必要なら高さを調整する
ピックアップ(P.U.)が複数あるギターの場合、各ピックアップから出力される音量が均一であることが望ましいです。音量にばらつきがある場合、ピックアップの高さを調節して出力バランスを整えます。しかし、ネジがゆるんだりして演奏中に高さが変わってしまったり、自分でピックアップを交換した後に各ピックアップ同士の音量バランスが著しく合っていない、音が小さい…といった症状が起きるたりするかもしれません。
そもそもピックアップの高さは、基本的にはメーカーから出荷される時点で各ギターに合わせた適切なメーカー基準値に調整されているはずです。上記の手順でネックの反り具合と弦高をしっかりと調整すれば、ピックアップの高さも元の状態に戻るはずですが、それでも治らない場合は再調整を行なうと良いでしょう。
ピックアップと弦の理想的な距離、マウント方式別の調整方法をこちらで解説しています。
手順5◆12f上のオクターヴ・チューニングを確認し、必要なら調整する(オクターヴ調整)
オクターヴ調整とは、12フレット上の実音と、その12フレットに触れて出る1オクターヴ上のハーモニクスの音程を同じに合わせることです。合っていない場合はブリッジ・サドルの位置を変えることで修正ができます。ネックの反り具合や弦高を変えると、押弦した際のピッチの狂い具合が微妙に変化しますので、気になる方は念のため確認した方が良いでしょう。また、弦交換の際にこれまで使っていた弦とは違う太さ(ゲージ)のものにした場合も、オクターヴを再調整する必要があります。
オクターヴ調整の詳しいやり方はこちら。サドルのネジ位置やブリッジの違いも含めてわかりやすく解説します。
終わりに◆1つの作業ごとにチューニングを欠かさずに!
いかがでしたか? 1つの作業ごとにギターの状態が変わるため、効率良く進めるためは上記の5項目を順番に行なっていくのがおすすめです。チューニングだけは、手順が1つ終わるごとに毎回合わせて下さい。こうしてしっかりと調整することで、演奏しやすく音程の狂いの少ない楽器にすることができます。では、次回からそれぞれ調整の方法を細かく見ていきましょう!