そもそもPositive Gridってどんなメーカー?
世界中の高価な真空管アンプのサウンドを、自宅で手軽に、手頃な音量で楽しむことができて、しかも安い…。ひと昔前までなら「こんなことできたらいいな」の次元で語られた万能小型アンプたちが、ここ最近、様々なメーカーからリリースされているのをみなさんご存知のはず。そんな中、大本命と言うべきモデルが登場した。
それが今回紹介する“Spark”だ。
“Spark”の素性を知るために、まずはこのアンプを作ったPositive Gridというメーカーについて、簡単におさらいしておくとしよう。
同社はもともとiPadやiPhoneといったiOS機器、それにMacとWindowsで動く超高品質なモデリング系アプリ“BIAS”シリーズで有名になったメーカー。こう説明するとソフトウェア専門ブランドだと思われるかもしれないが、その技術を活かして作られた、いわゆる実機のモデリング・アンプやモデリング・ペダルも販売している。
ラインナップを簡単にまとめると、
BIAS Head、BIAS Rack:大会場のライヴで使えるプロ志向の大出力モデリング・アンプ。
BIAS Mini Guitar:同等の性能を持ちながら、シンプル化&小型化&軽量化させたモデリング・アンプ。
BIAS Distortion、BIAS Modulation、BIAS Delay:それぞれ歪み系、モジュレーション系、ディレイ系のエフェクトに特化したペダル。
Spark:自宅での使用をメインにしたアンプでありながら、音質は上位機種にも引けを取らず、それでいて様々なサウンドをより簡単に選べる、初心者に優しいスピーカー一体型モデル。
といった感じ。いや、この書き方だとあまりにも“Spark”にひいきし過ぎかもしれないので(笑)断っておくと…。
“Spark”はあくまでも自宅などの空間を想定したアンプなので、音量は控えめに設計されており、ドラムやベースと一緒に演奏するライヴには不向きだ(小さいカフェなどでのミニ・ライヴならいけるかも)。ただ逆に言えば、本来なら大ヴォリュームでなければ良い音が出ないはずのあのアンプこのアンプのサウンドが、小ヴォリュームで超高音質なまま鳴らせるのは大きな利点。
そして他の製品が「アンプのみ」「エフェクトのみ」であるのに対して、“Spark”は両方を備えているので、この中だけで音作りを完結させることができる。好きな音楽を聴きながら「あ、この曲っぽい音で一緒に弾いてみよう」と思い立ってすぐ音作りできるのは、大きなアドヴァンテージだ。
“Spark”の基本性能
ここで“Spark”の上面に並べられたコントロールを見てみよう。
左端に並んでいるのが、アンプ・タイプを選ぶセレクター。
エレクトリック・ギター用の5種類(CLEAN、GLASSY、CRUNCH、HI-GAIN、METAL)の他、ベース、アコースティック用のアンプも備わっている。エレクトリック・ギター用は大まかに、下側から上側に向けてどんどんゲインが高くなっていくと捉えて問題ない。
ここは普通のアンプらしいセクション。
GAINでプリアンプの音量(というか歪み量)を決め、BASSとMIDとTREBLEでトーンのバランスを調節し、MASTERでパワーアンプの音量を決定する。
注意すべきなのは、アンプ全体の最終的な音量は右側にあるOUTPUTで決めるということだ。つまりMASTERはこのアンプの場合、パワーアンプ部での飽和感…つまり強くピッキングした時に前へ貼り付く感じや、音が潰れたりボワッと膨らんだりといったニュアンスを調節する役割を担っている。
エフェクトのセクション。左からモジュレーション、ディレイ、リヴァーブを調節するツマミだ。現在選んでいるプリセットによって効果が変わって来る。
数回連続で押すことでディレイのテンポを決定するTAPボタンは、長押しするとチューナー・モードに入ることができる。
4つのプリセット用ボタンは、自分で作ったお気に入りのサウンドを保存することが可能。これもボタンを長押しするだけなので超簡単。
こちらは本体の裏側。左から、Bluetoothの接続状況を示すLED、外部の音楽プレイヤーをラインで接続するためのステレオ・ミニ・ジャック、PCと接続するためのUSB端子、電源。
モバイル機器でワイヤレス操作できる!
といった具合に、おそらく最近のモデリング機器に慣れている人なら見ればすぐ分かるほど、本体のコントロール自体はごくシンプル。特に説明書を見なくとも、小1時間ほど触っていれば操作感はつかめるはず。
…なのだが、これだけで終わりじゃないのがPositive Grid。同社がラインナップしてきた他の製品と同様、“Spark”は専用のアプリを入れたiPadやiPhoneなどを使い、画面を見ながらワイヤレスで音作りすることができるのだ。先ほどサラッと流したBluetoothがここで活きて来るわけ。
“Spark”の専用アプリを立ち上げると出て来る画面。ここで「接続する」をタップすると、数秒で“Spark”本体との接続が完了する。
画面の上側にはいわゆるエフェクト・チェインが表示されており、ノイズゲート→コンプレッサー→歪み系→アンプ→モジュレーション→ディレイ→リヴァーブ、の順に信号が流れる。
画面の下側にはアンプやエフェクトなどのコントロールが表示され、指先でスウィープしてツマミを動かすことができる。
さらにアイコンをダブルタップすると、内蔵されている様々なアンプ・タイプやエフェクト・タイプを選ぶことが可能。
画面の一番上をタップすると、Pop、Blues、Rock、Metal、Alternative、Bass、Acoustic…と様々にカテゴリー分けされたリストに入ることができる。細かい音作りが面倒な人は、ここから好きなプリセットを選ぶだけでもOK。もちろんそれを好みに合うよういじってもOKだ。
さらに言えば、右上辺りのアイコンをタップして入ることができるToneCloudを利用すれば、世界中の人が作ってくれたセッティングを自由にダウンロードして使うことも可能。自分で作ったセッティングをアップロードし、世界中の“Spark”ユーザーとシェアすることもできてしまう。
正直、このアプリの操作感があまりにも心地よすぎて、おそらく“Spark”を使っている大部分の人が本体のツマミをほとんど触らないのではないだろうか。お気に入りの椅子に座ったまま、あるいはリビングに寝転んだまま、ギターを弾く体勢を変えずに手元でサウンドをどんどん変えることができる…、この体験は自宅でのギター演奏を特別なものにしてくれるはず。