ヤング・ギター2022年4月号にて、故ランディ・ローズの“水玉ギター”を製作した名匠:カール・サンドヴァルの最新インタビューを掲載しているが、ここではカール自身のキャリアや’80年代当時のシーンなどについて語ってもらった本誌未掲載部分をお届けしよう。
工房の前にリムジンが何台も停まっていた。エアロスミスのメンバーを乗せてね
「1980年前後はカスタム・ギター時代の幕開けだったような気がする。レスポールにトレモロ・ブリッジを付けてみたり、ギブソン・タイプのギターにシングルコイルのピックアップを付けてみたり。エディ・ヴァン・ヘイレンのようにボディーにストライプ柄を描いてみたり、稲妻のペイントをしてみたり。私は、そんな風に一番チャンスのあった時期に出てきただけだよ」
そう語るのは、ギター・ルシアーのカール・サンドヴァル。彼はエディ・ヴァン・ヘイレン(ヴァン・ヘイレン)やランディ・ローズ(オジー・オズボーン)、ジョージ・リンチ(ドッケン他)ら1970年代末に登場してシーンを賑わせた人気ギタリストたちのギターを製作した伝説的なギター職人だ。現在も南カルフォルニアを拠点に “サンドヴァル・エンジニアリング・カスタム・ギターズ”を経営し、オリジナリティ溢れるカスタム・モデルを製作している彼に、1970年代末から1980年代初頭にかけての米国カリフォルニアのシーンについて振り返ってもらった。
「私がカスタム・ギター工房のシャーベル社を退職して自分で工房を始めたのは1979年だった。当時のL.A.郊外には新進気鋭のミュージシャンたちが移り住んできていて、たくさんのロックンローラーたちが出入りするメッカのような地域だったんだ。その頃、私が相手にしていたのは10代後半とか20代初めくらいの地元の若いミュージシャンたち。その中に、エディ・ヴァン・ヘイレン、ランディ・ローズ、ジョージ・リンチ、マイケル・アンソニー(b/ヴァン・ヘイレン)らがいたんだよ。他にも、後にディオに加入するトレイシー・Gやポール・マッカートニーのバンドのギタリストになったラスティ・アンダーソン、当時はランナウェイズにいたリタ・フォードもいた。実は私自身もスモークハウス(SMOKEHOUSE)というバンドでリード・ギターを担当していて、いろんなライヴハウスに出入りしていたんだ。そうしている間に、いろんなミュージシャンたちと知り合うようになったというわけさ」
カールいわく、当時の南カリフォルニア地域はバンドの数、ライヴハウスの数も多く、競争が激しかったという。
「当時、この界隈で一番巧いと言われていたギタリストはエディ・ヴァン・ヘイレンとテリー・キルゴア(当時レディ・キロワット、後にデイヴィッド・リー・ロス・バンドに参加)だった。2人は友人だったけど、ライヴァルでもあってね。お互いにギター・リックを教え合ったりしていたようだけど、後になって“エディのあのリックは俺が教えた!”、“テリーにあれを教えたのは俺だ!”なんて言い合っていたよ。そんな風に2人の間にはいろいろあったみたいだけど、外野で聞いている私たちはそれを楽しんでいた(笑)。エディやテリーの例に限らず、この地域では多くのミュージシャンたちが切磋琢磨していたよ。バンド同士が“俺たちの方が巧い!”、“いや、俺たちこそNo.1だ!”なんてやり合うのは普通だったんだ」
プリンス主演の映画『パープル・レイン』(1984年)を想起させる話だが、こうした競争の中で多くのミュージシャンたちはライヴァルとの差別化を図るために、カールが製作したようなオリジナリティ溢れるギターをプレイするようになる。
ちなみに、カールのもとには若手や新人のみならず、大物アーティストからもリペアやカスタマイズの依頼が来ていたという。
「いつからか、メジャーなバンドがL.A.エリアに来ると私に連絡してくるようになったんだ。そのうちのひとつが、エアロスミス。ある日、私が工房で作業をしていたら近隣の人がやってきて、“どなたかお亡くなりにでもなったの? お宅の前にリムジンが停まってるけど…”なんて言うんだ。もちろん葬式なんかやっていない。で、外に出てみたら、家の前に長くて白いリムジンが何台も停まっていたんだよ。エアロスミスのメンバーを乗せてね!(笑) それで、彼らのギターやベースの調整や修理などを担当させてもらうことになったんだ。彼らの他に、ZZトップとも仕事をしたよ。ギタリストのビリー・ギボンズと一緒に、ダスティ・ヒルのベースを作ったのさ。その頃、ビリー・ギボンズはまだヒゲを伸ばしていなかったな…(笑)」
そんなカールの記憶に最も印象強く残っているというのが、今は亡きエディ・ヴァン・ヘイレンとのエピソードだという。
「エディとは友人だった。彼は、私が作った変形ギター“Megazone”も使ってくれたしね。彼はヴァン・ヘイレンの一番最初のツアーを終えた後に私の家にやってきて、そのまま泊まっていったんだよ。私の家にはエレクトリック、アコースティック、セミ・アコースティックなど15種類くらいのギターがあったんだけど、エディはそれを片っ端から弾いていった。それを聴いて、私はぶっ飛んだね。どのギターを弾いても、“エディの音”がするんだから! レコードやライヴで聴けたあのギター・サウンド、ニュアンスが飛び出してくる。圧倒されたよ。あれは彼の身体、腕、手、筋肉、脳…すべての組み合わせから出ているサウンドだと感じたね!」
その上で、カールはギタリストにこんなアドヴァイスをくれた。
「多くのプレイヤーは特定のギターや機材を使えば特定の音が出せる、プロフェッショナルみたいな音が出せると思っている。でも、そうじゃない。エディにいろんなギターや機材で弾かせてごらんよ。どれを弾いても“エディの音”になるはずだから。つまり、サウンドを作っているのはそのミュージシャン自身なんだよ。だからね、エディのフランケン・ストラトを買った人は“これで俺もエディみたいな音が出せるぞ!”と思うかもしれないけど、そんな希望は忘れるんだ!(笑)」
カール・サンドヴァル 公式インフォメーション
ウェブサイト:Sandoval Engineering
Facebook:Sandoval Engineering Custom Guitars