WACKEN:WORLD:WIDE主催者インタビュー:トーマス・イェンゼン
とにかく、全員に体験してもらいたかった
YG:新型コロナ感染拡大により、ドイツでロックダウンが行なわれたのは3月下旬。“Wacken Open Air”(以下WOA)の中止が発表となったのは4月16日のことでした。そんな中、“WACKEN:WORLD:WIDE”(以下WWW)の企画が持ち上がったのはいつでしたか? もしや早い段階から、今年のWOA開催は難しいだろうとの判断で、オンライン・イヴェントの計画は進められていたのでしょうか?
トーマス・イェンゼン(以下TJ):“今年のWOAは中止になった”とアナウンスしてから2〜3日後、まだその時点では、悪い知らせから立ち直った…とまでは言えなかったものの、すぐにチームを集めて話し合いを始めたよ。ある時、ラジオでこんなことを言っていた女性がいたんだ。「もしWOAが中止になったら、私は本来のフェス開催期間中、自宅の窓に旗を掲げて、ビールを2〜3杯引っ掛けながら、あのイヴェントを祝福するつもりです。その時は、過去のライヴDVDでも観ていようかな…」とね。それで、チームと話し合った結果、もしみんなが来られないのなら、私達がファンの家へ出向いて行けばイイじゃないか…となったのさ。居間でも庭でも、どこだって構わない。みんながいる場所にメタルを届け、共にイヴェントを祝ってもらおう…と考えたんだよ。
YG:WWWは世界中で誰もが無料で視聴出来ました。有料にすることも、課金や投げ銭のシステムを導入することも出来たと思いますが…?
TJ:(有料にすることも)考えたさ!(笑) でも、様々な案が浮かんで、思い付く限りあらゆる手段を考えた結果、この困難な時期だからこそ、すべてのメタルヘッドに、この第1回WWWへ参加してもらおうということになった。チーム全体としても、「無料でやろう」とすぐに意見が一致したよ。とにかく、全員に体験してもらいたかったからね。そうして、スポンサーやパートナーを探し始め、Tシャツなどのマーチャンダイズも用意することになったんだ。
YG:WWWの視聴者は1100万に上り、これは“Magenta Musik 360”の記録を更新したそうですね? ここまでの数字は予想していましたか?
TJ:全くもって予想外だったよ。想像もつかなかった。あんな短期間の告知で、こんなにも沢山のオーディエンスが集まるなんて! でもそれは、世界中のメタル・コミュニティからの声明なんだろう。とにかく圧倒されたね。
サバトンのショウを実現させるには多くの難関があった
YG:出演バンドはどのように選びましたか? その多くはドイツのバンドでしたが、このコロナ禍で、スウェーデンからサバトンを招いたのは素晴らしい決断でした!
TJ:実際、かなり困難な状況ではあったよ。それで、出演バンドの殆どはドイツ国内から集めたんだ。長年の付き合いがあって、友人と言えるような存在のバンドばかりを…ね。ただ、今回のステージ(XR Stage)は不確定要素だらけで、何が起こるか予測がつかなかった。これまで、誰も(XR Stageで)プレイしたことがなかったんだからね。そんな未知のテリトリーへ来てもらうのに、アーティスト側から信頼を得られたのはありがたかったな。勿論、どのバンドの演奏も素晴らしかったし! 特に、サバトンのショウを実現させるには、多くの難関があったんだ。彼等がちゃんと国境をまたいで(ドイツまで)移動して来られるか、誰にも確証なんてなかったんだからさ。結果として、無事にドイツまでやって来てくれて、あの“サバトンのショウ”を見せてくれたんだから、凄く嬉しかったよ。
YG:XR stageでの収録現場も、感染対策などで色々と大変だったのでは?
TJ:そうだね。スタッフの人員は極限まで減らしたし、SNSのスタッフは別のスタジオから発信するようにして、バンドに帯同しているテックといった直接関わる人達だけが(撮影)スタジオへ入れるようにしたんだ。それでも、スタッフの数はかなり多かった。カメラなど、様々な設備があるからね。
YG:XR stageはドイツのどこにあるのですか?
TJ:詳しい場所は秘密だ。勿論、ドイツ国内にあるんだけどね。今後、メイキング映像などを公開するかもしれないが、今のところはまだ分からないな…。
協力者がいれば日本語配信だって出来る
YG:XR stageでプレイしたバンドは、すべてが生配信だったワケではなかったようですね?
TJ:設備上の問題があるバンドだけ、事前収録することにしたんだ。でも、ほぼすべてのバンドがリアルタイムでパフォーマンスを行なったよ。少なくとも、収録はあの3日間の中で行なったし、事前収録になったバンドだって、生演奏という点では(生配信したバンドと)変わりなかったしね。
YG:どのバンドのパフォーマンスが一番良かったですか?
TJ:全バンドだよ!(笑) どのバンドも特別なパフォーマンスを見せてくれた。サバトンの戦車や戦闘機は最高だったし、ビヨンド・ザ・ブラックの(シンガーの)衣装替えもなかなか新鮮だったと思う。ああいうの(仮面の使用など)は、これまで誰も見たことがなかったのでは? その他のバンドも、クリエイターからIN EXTREMO、ヘマトムまで、個性豊かなバンドが混在していて、メタルの中でも幅広いカテゴリーが揃っていたのは面白かったね。
Studio Views
YG:ひとつ気になったのは、全世界に配信していたにもかかわらず、司会進行やインタビューの多くがドイツ語で行なわれていたことです。
TJ:ああ、それについては申し訳ないと思っている。ただ、この準備期間の短さでは、どうしてもドイツ語で進めるしかなくてね…。将来的には、英語でやることも可能になるだろう。もし協力者がいれば、日本語で配信することだって出来る。そうやって多言語チャンネル化が実現したら最高だし、そうしていきたいとは思っているよ。これも技術面における挑戦と言えるかな。今後は是非、検討していきたいね。
ベーシストだから、人一倍ギタリストには注意を払っている
YG:ところで──せっかくの機会ですし、これは『YOUNG GUITAR』のインタビューなので、あなたが好きなギタリストを教えてもらえませんか? トップ3を選び、それぞれ好きな理由も教えてください。
TJ:まずは、ローズ・タトゥーのピート・ウェルズだな。随分と早く亡くなってしまったけど(’06年没。享年59)、彼はスライド・ギターの名手だった。ローズ・タトゥーにはパンクのアティテュードがあって、ブルース・ロックのフィールもあり、AC/DCに通ずる要素も持ち併せていて、メタル・シーンにおいてはちょっと珍しい、クロスオーヴァー的なスタイルのバンドだったけど、私はあのサウンドが大好きでね。あとは誰を選ぼうかな…。あまり知られていないと思うけど、私はカントリー・ミュージックも愛聴していて、ベーシストだから、人一倍ギタリストには注意を払っているんだ(笑)。
そうだな──次は、モーターヘッドのフィル・キャンベルと“ファスト”エディ(クラーク)を挙げたい。この2人は甲乙付け難いね。どっちも好きだから、1人に絞ることなんて出来ないよ。以前、サクソンのマネージメントをやっていて、その際、幸運にもモーターヘッドと一緒にツアーに出ることになってね。フィルのことは、とてつもないギタリストだと思ったよ。性格も強烈だし(笑)。エディとは、彼がWOAに出演した時が初対面で、その後も2〜3度会ったことがある。う〜ん、やっぱりどちらかを選ぶのは難しいな…。
というワケで、もう1人はエディー・ヴァン・ヘイレン。特に最初の2枚のアルバム(’78年『VAN HALEN』&’79年『VAN HALEN II』)が好きだけど、未だにずっとヴァン・ヘイレンの大ファンなんだ。ああ…でも、リッチー・ブラックモアも同じぐらい素晴らしいし、スティーヴ・ヴァイも忘れちゃいけないな…。沢山いて、とても選びきれないよ。みんな大好きだし、みんな特別な存在だからね!
YG:先ほどもおっしゃっていた通り、あなたはベーシストで、ご自身でもWOAで演奏したことがありますが──そもそも、どんなキッカケでベースを始めたのですか?
TJ:ベースには弦が4本しかない──それが始めた理由さ(笑)。6弦(のギター)よりは簡単だろう…と思ったんだ。弾き始めたのは14歳の頃で、学校の友達と一緒にパンク・バンドを組んだのが最初だった。
YG:影響を受けたベーシストというと?
TJ:そうだな…。シド・ヴィシャスのアティチュードが好きだったよ。演奏に関してはアレだけど…(苦笑)。まぁ、当初は(上手い下手は)よく分かっていなかったからね。とにかく、ラモーンズなんかも含めて、パンク・バンドは全部好きだった。そして、程なくしてモーターヘッドが登場したんだ。レミーが弾いているところを観たり聴いたりすれば、彼が地球上で最も偉大なベーシストであると分かるよね? 勿論、私がその域まで辿り着くことが出来なかったのは言うまでもないけど…(笑)。
雨よりも晴れの方がイイに決まっている。リアルでみんなに会いたいよ
YG:WWWに話を戻して──最終日に、来年のWOA出演バンドについて、最初のアナウンスがありました。今年、出るハズだったバンドが多く含まれていますが、例えばMERCYFUL FATEやAVANTASIAなど、他にも来年に引き継がれるバンドやアーティストは多くなりそうですか?
TJ:それについては、今ブッキング・チームが総出で取り組んでいるところだよ。(バンドによっては)設備面も絡んでくるから、出来る限り最善を尽くしたいところだ。現時点では、ジューダス・プリーストがOKになって、それは誇りたいね。私個人としても長年のファンだし、きっと見逃せないハイライトになるだろうから、今からワクワクしている。まぁ、今後の追加発表を楽しみに待っていて欲しい。
YG:来年の開催は、所謂“コロナ後”ということになります。その時、世界は──また、音楽を取り巻く状況はどうなっていると思いますか?
TJ:音楽シーンにとっては、恐らく今が最も大変な時なんじゃないかな…。多くの有能なスタッフがこの業界を離れ、別の仕事に就かなければならないような状況も進むだろう。それは覚悟している。でも一方で、心の底では「ロックンロールは決して絶えることはない!」と信じてもいるんだ。だから、今後はライヴ・ショウを取り戻すために戦っていく。チーム一丸となり、出来得る限りの安全対策を行ない、エキサイティングなライヴを提供したい…と考えているから、良い報告を期待していて欲しい。今回WWWでは、“Rain or Shine or Online”というキャッチ・コピーを付けたけど、来年は雨よりも晴れの方がイイに決まっているし、オンラインではなくリアルでみんなに会いたいよ。
YG:今回の大成功を受け、今後WOA本体とは別に、WWWのようなオンライン・イヴェントを再び開催することも考えていますか?
TJ:勿論! 今回の企画が動き出し、生配信がスタートする前から、(スタッフは)みんなとてもエキサイトしていたよ。「これは楽しい!」「ファンと世界的につながれるなんて素晴らしい!」…とね。まぁ、現実のフェスの代わりになるかどうかは分からないけど、世界中のファン同士を結ぶ新しい機会になる──それは約束出来るよ!
Special Thanx to Peter Klapproth