渡米するも、そこには大きな壁が…
YG:波長の話で思い出しました。劇中ではアメリカに進出してからの桜井さんの葛藤が描かれていました。これもYouTubeやSNSではうかがいしれなかったことです。衝撃でした。
桜井:撮影を続けながらピーター監督も驚いたかもしれませんね。「あれ? ちょっと雲行きが怪しくなってきたな。大丈夫か?」と。
経緯を説明しておくと、僕はそれまで会社員をしながらMR.JIMMYとして国内で演奏活動をしていました。ところが、ある日、アメリカのZEPトリビュート・バンド:レッド・ツェッパゲイン(Led Zepagain)からバンドへの加入を要請されたんです。それで2014年に会社員を辞め、渡米することにしました。当初は希望に溢れていましたね。レッド・ツェッパゲインはアメリカでも有名なトリビュート・バンドですし、ヴォーカリストは声も見た目もロバート・プラントを彷彿とさせる印象でしたから。
僕はZEPをひとつのアートだと思っています。そして各年代のZEPの姿やサウンドを再現し、それをそっくりそのままプレイすることは、クラシック音楽をやるのに近い行為だと考えています。演劇にも近いですね。僕は渡米することでZEPというアートを再現出来る素晴らしい機会を得られた、と考えていたんです。
しかし、レッド・ツェッパゲインは僕の考えているZEPのトリビュート・バンドとはかなり違っていました。当時の彼らは、どちらかと言うとZEPの人気の曲をジュークボックスのように演奏してオーディエンスが喜んでくれればそれでいい、というスタンスでした。それはビジネスの形としてはひとつの正解だと思います。否定するつもりはありません。だけど僕は、もっとツェッペリンの総合芸術としての再現度を上げたかったし、音楽的にも高みを目指したかった。だからメンバーをライザップしてZEPのエネルギッシュなライヴを表現できるバンドに変化させていこうと考えたんです。
YG:ヴォーカリストに、発音は「ア~」ではなく「イェ〜」を指示する場面もありましたね。
桜井:「そこまでやる必要ある?」と言う人もいるかもしれませんね。「トリビュート・バンドなんてただのコピーだろ?」と。でも、もっと本物に近いものを求めているオーディエンスは確実にいましたし、やり始めると実際に反響は大きかった。しかし映画でも描かれているように、結局、僕はバンドを脱退することになります。辛い時期でしたね。
ジェイソンとの共演。ペイジと同じ立ち位置にいることに歓喜
YG:その後、様々な展開と偶然が重なり、桜井さんはバンド:JBLZE(Jason Bonham’s Led Zeppelin Evening)に加入。ZEPの遺伝子を受け継ぐジェイソン・ボーナムと一緒に活動することになります。ペイジ道を極めれば極めるほどペイジの立場に近づいていく……。鳥肌が立ちます。
桜井:みなさんもご覧になったと思うんですけど、ZEPは2007年12月にロンドンのO2アリーナで一夜限りの再結成ライヴを行ないました(『CELEBRATION DAY』としてCD&DVDで2012年にリリース、邦題は『祭典の日 奇跡のライヴ』)。あのときのドラマーはジェイソンです。そのジェイソンからオファーをもらえたわけですから、光栄ですよ。
彼と一緒に演奏していて、「僕は今、ペイジと同じステージの立ち位置にいるのか」「この立ち位置で聴こえてくるジェイソンのドラムは、O2アリーナでペイジが聴いていたものと同じなんだ」と考えると身震いがしましたね。またツアーで廻っていると、かつてZEPがライヴをしたことのある会場で演ることもあるんです。客席を見渡しながら、「ああ、ペイジもこの風景を観ていたんだな……」と感慨に耽ったりもしました。
YG:そんな経験は桜井さん以外の人間には出来ませんよ。JBLZEでの活動は今も続いていますが、ジェイソンとのプレイはいかがですか?
桜井:O2アリーナの時、ジェイソンはZEPのライヴ・アレンジにけっこうアイデアを出していたらしいんです。それを踏まえて、僕がO2アリーナのペイジのプレイを入れたりすると、ジェイソンはすごく楽しそうですね。僕のプレイに合わせてドラムがシンコペーションし始めるくらいですから。楽屋で「さっきのはO2アリーナのヴァージョンだろ? そうそう、これだよ、これ!」って(笑)。
JBLZEでは、ギター・ソロのインプロヴィゼーションは極力、毎回異なるプレイを心がけていますが、「No Quarter」とか「Since I’ve Been Loving You」なんかは、ジェイソンが一番好きな1973年のヴァージョンを基本にしていますね。でも、ある日、少し違うことをやったんです。それはスタジオ盤やライヴ盤とも異なるソロで、僕が考えたオリジナルのフレーズ。1973年頃のジミー・ペイジだったら弾いていてもおかしくないようなフレーズです。それを聴いたジェイソンが言うんですよ。「あのソロは最高だった! 今晩もやってくれないか?」って。そんな風に言ってもらえたらもう最高ですよね。彼は新しいフレーズを入れ込んだことにちゃんと気付いてたんです。
YG:嬉しい反面、怖くもありますね。
桜井:ええ、怖いこともありました、彼は耳がいいから(笑)。ジェイソンは毎晩ライヴを録音していて、しかもマルチで録っているのでギターだけを抜きだして聴けたりするんです。ミスもバレてしまう。実際、言われたことがありますよ。「昨日、チューニングが少しアウトしてたぞ」って(笑)。
YG:でもJBLZEはジミー桜井さんが望んでいる“完全再現”とはまた異なるベクトルにありますよね?
桜井:ジェイソンが、彼のお父さんであるジョン・ボーナムに対するリスペクトを表すためのバンドがJBLZEです。主役はあくまでジェイソン。結果、JBLZEでの僕のプレイはスタジオ盤でもない、ライヴ盤そのままでもない、JBLZE独自のライヴの面白い展開を集約させたようなものになっています。
映画『The Song Remains the Same』(邦題:永遠の詩)の「Rock And Roll」でペイジがジャンプする瞬間があるじゃないですか。3rdヴァースのところです。僕は、MR.JIMMYでのライヴではいつもリスペクトを込めて彼と同じようにジャンプしてるんですが、バンドに入ったばかりの頃、JBLZEはジェイソンのバンドですし、自分が目立ち過ぎるのもどうなんだろう?と思って、ある日、ジャンプするのを止めたんです。そしたらジェイソンがポロッと言うんです。「みんな、お前のジャンプ見たがってるぞ」と。
自分の中のペイジをどこまで出していいか迷っていた時期もありましたが、ツアーを重ねるうちにバンド内のバランス感覚もつかめてきて、いまはJBLZEならではのツェッペリン表現を楽しんでいます。映画『The Song Remains〜』にペイジのボウイング(弓弾き)のシーンが出てくるじゃないですか。あれはお客さんが盛り上がる場面でもあるので、しっかり再現していますよ。
インタビュー後編に続く
『MR.JIMMY/ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』概要
原題:MR.JIMMY
2025年1月10日(金)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
出演:ジミー桜井
製作・監督・編集:ピーター・マイケル・ダウド
撮影:アイヴァン・コヴァック&マシュー・ブルート
音楽録音&ミキシング:ジェフリー・ジュサン
2023年 アメリカ・日本 日本語・英語 16:9ビス 114分 5.1ch
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式インフォメーション
MR. JIMMY Movie
©One Two Three Films